表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エンジェリカの王女  作者: 四季
〜 第一章 天使の国 〜

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

40/131

39話 「感情に揺れる心」

 私とジェシカは医務室を出ると、すぐ隣のカウンセリング室と書かれた部屋に入る。


 中はいたって平凡だった。壁も床も、天井も白く、医務室と同じ材質だが、広さは比較的狭い。三人以上入ると窮屈に感じるであろうぐらいの広さしかない。木製のテーブルと椅子二人があり、壁に時計がかけてある。それ以外は何もないとてもシンプルな部屋だ。


 私とジェシカは取り敢えず向い合わせの椅子に腰かける。


「それで、話は何?」


 ジェシカが改めて尋ねた。いつもより真剣な顔をしている。


「実はね、少し前からなんだけど……たまに黒い女の人が見えるの」

「黒い女の人?」


 ジェシカは不思議そうに首を傾げる。不思議な顔をするのも無理はない。いきなり話しても事情が分かるはずがない。


「その人はどこに見えるの?」

「鏡の中とか、夢の中とかに突然現れるの。そして不気味なことばかり言ってくるの……」


 いきなり力が欲しいかと言ってきたり、大爆発を起こしたり、恐ろしい未来を見せたり。あの黒い女はいつも、何がしたいのかさっぱり理解できないことばかりする。


「例えばどんな?」


 目の前のジェシカが眉をひそめて聞いてくる。私は少し躊躇いつつも勇気を出して答える。


「私のことを、エンジェリカを終わらせる天使だ、とか……」


 すると彼女は納得のいかないような顔をした。


「何それ、完璧におかしな人じゃん。意味不明だし。エンジェリカの王女様が、エンジェリカを終わらせるわけないじゃん」


 私だってそう思うわ。私は生まれ育ったエンジェリカが好きだもの、「終わらせてやる」なんて考えたことは一度もない。


「でも確かに、そんなこと急に言われたら嫌だよね」

「そうなの。それで、さっきのノアさんの話を聞いて、もしかしてって思ったの。私は普通と違うのかなって……」


 私がいたらみんなも巻き込んでしまうのかなって。そんなのは嫌だ。巻き込みたくない。私のために傷ついてほしくない。


「もし私に特別な力があって、それがみんなを傷つけるようなものなら、私はどうすればいいのかって思って、不安になったの。私、怖い……。エリアスやみんなを巻き込むのが怖い」

「そんなこと、ならないよ。大丈夫だって!」

「でも! ヴァネッサはもう犠牲になったわ!」


 私は酷い。それに自分勝手。自分でもそう思う。こちらから相談しておいて、優しい彼女にこんなきついことを言えるのだから、私は最低だ。


「私のせいで傷ついたの! まだ意識も戻らないのよ! エリアスだって私のせいであんなに戦わされて……」

「待って。違うよ、そんな」


 悲しそうな顔をするジェシカに、私は今まで溜め込んでいた不安を一気に吐き出す。……私、本当に最低だ。でも、頭ではそう思っていても、言葉が止まらない。


「エリアスもヴァネッサみたいになるかもしれない! 私のせいで、苦しむことになるわ! ……どうしてなの。私はこんなこと望んでなんてないのに!」

「待って。お願い。王女様、落ち着いてよ」

「次はエリアス……彼が不幸になるかもしれない。私のせいで……どうしてこんな……」

「いい加減にしてっ!!」


 ジェシカが怒鳴った。その怒声で正気に戻った私は、「ごめんなさい」と消え入りそうな声で謝る。


「エリアスは強いよ。だから王女様を絶対に護る! 侍女のヴァネッサさんとはまったく別の話じゃん!」


 彼女の言う通りだと思う。エリアスがそう簡単に戦いに負けるはずがない。だが、頭でそれは分かっていても、時折不安が押し寄せてくるのだ。


「冷静になって。そんなやつの言うこと、信じなくていいよ。気にしたら負けってやつ!」


 そう言われて無条件に頷けるなら、とっくに気にしていないだろう。気にしてしまうから、こんな不安になっているのだ。


「って言ってもそう簡単には無理だよね。ちなみに、その女を最初に見たのはいつ?」

「……晩餐会の前の夜、夢の中で初めて見たわ」

「あたしたちと出会う前の日ってこと?」


 その確認にはしっかりと頷けた。


「次に見たのは?」

「準備をおおかた終えた時、部屋の鏡で見たわ。その時はヴァネッサに言ったけど、疲れているだけだって、まともに聞いてもらえなかったの」


 ジェシカは「そっか」と小さく言ったきり、しばらく黙り込んでしまった。何かを考えているようにも見える。私は静かな空間で、彼女が再び口を開くのを待つ。


「……晩餐会の時さ、グラスが割れたり椅子が倒れたりしたよね。もしかして、あれもその女がやったんじゃない? 超能力的な何かで……」


 ドンドンドン!

 突如ドアを叩く大きな音が響く。ノックとは程遠い音だ。


「入ります!」


 そう言ってカウンセリング室に入ってきたのはエリアスだった。


「王女、また悪魔が来ました」

「そんな!」


 私は思わず悲鳴のような声をあげる。

 その口をエリアスが咄嗟に手のひらで塞いだ。


「貴女はここにいて下さい。私とノアでなんとかしますから。ジェシカ、王女を頼む」

「うん、任せて。エリアスも気をつけてね」


 短時間の会話を済ませると、エリアスは白い衣装を翻し、すぐさま部屋から出ていった。


「待って! エリアス! お願い、行かないで!」


 急に心細くなった私は叫んでいた。


「駄目だよ、王女様」

「エリアス!」


 ジェシカの制止を振り払い、私は彼の後を追っていた。外へ出たら迷惑、足を引っ張るだけ。そんなこと分かっていたのに、私は彼の傍にいたい衝動に動かされた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ