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エンジェリカの王女  作者: 四季
〜 第一章 天使の国 〜

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22話 「侵攻の終わり」

 親衛隊は王の直属の護衛部隊だ。だから親衛隊員の天使たちは並大抵の兵士とはランクが違う。戦いを生業とする天使の中でもかなり上の層である。

 いくら四魔将といえども、彼らを一人で蹴散らすのはおおよそ無理とみて問題ないだろう。


「く……。仲間を呼んでくるとは卑怯な。正々堂々と戦わないか!」


 ライヴァンはもっともらしく騒ぐ。卑怯者の中の卑怯者である彼にだけは言われたくないし、そもそもこちらはいきなり侵攻してこられた身だ。


「ライヴァン、貴方言ったわよね。生きていくには卑怯さが必要だって」


 あの時は理解できなかったが今ははっきりと分かる。


「やっと意味が分かったわ」


 私は、青ざめ怯えた小動物のような表情になっている彼に、静かな声でそう告げた。


「王女様。ここからは任せて帰ろっかー」


 ノアが愉快そうに笑みを浮かべる。親衛隊が来てしまえばライヴァンはもうどうしようもない。それを楽しんでいるみたいだった。


「待って。ブローチがまだだわ」


 この騒ぎですっかり忘れていたが、まだブローチを返してもらっていない。


 すると背後からジェシカが声をかけてきた。


「王女様! はいっ!」


 満面の笑みで立っていた彼女の手には赤い宝石のブローチが乗っていた。ライヴァンはブローチをエンジェリカの秘宝であると思い込んでいた。だからか、ブローチには傷一つついていない。大切に扱われていたようである。


「ブローチってこれでしょ? 取り返したよ」

「ジェシカさん! 一体、いつの間に……」


 私は驚きを隠せなかった。


「まーね。あたし凄いでしょ」


 彼女は誇らしげに胸を張り私の答えを待っている。なんだか本当に子どもみたいで可愛らしい感じだ。


「ジェシカさん、さすがね。ありがとう」


 私がお礼を述べると、彼女は照れたようにはにかみ、上目遣いでこちらを見てくる。


「……ちょっと調子狂うな。そんな素直にありがとう言われちゃったら、おかしな感じがする」


 違和感を抱いているのは私も同じだ。女同士なのになぜか、ジェシカのことを可愛いと思っている自分がいる。大きな瞳で上目遣いなんてされたから、慣れていなくて少しおかしくなっているのかもしれない。



 こうして、私は無事大切なブローチを取り戻し、ライヴァンは親衛隊によって捕らえられた。彼はあれほど騒いでおいて呆気ない終わり方だった。ライヴァンが捕らえられたことで侵攻は終わり、エンジェリカには平和が戻った。


 エンジェリカは再び日常へ戻っていく。


 だが、悪魔との戦いで壊されてしまったものも多くあったため、修理の作業をしなくてはならなくなり、王宮の修理と建国記念祭の準備を同時進行するはめになってしまった。そのせいでますます忙しくなった。

 ジェシカやノアも昼間はお手伝いをしに行ったりしていたのだが、私はやはり手伝うことを許可されない。分かってはいたが「もしかしたら」と微かに期待していただけにがっかりした。準備のお手伝いぐらいさせてもらえてもいいのに。


 変わりばえのしない退屈な暮らし。けれど私はそれを少しだけ幸せと思えるようになった。


 話は変わるが、あれから良いことが二つあった。


 一つ目はヴァネッサが戻ってきたこと。ライヴァンに斬りつけられて怪我をしてしまった彼女は、救護班に預けられていたのだが、日常生活なら問題ないと判断されて戻ってきた。

 いつもお節介な彼女を鬱陶しく思っていたはずなのに、久々に再会すると嬉しくてつい抱き締めてしまった。不思議なものね。


 そしてもう一つ、とても嬉しい出来事が起こった。エリアスが解放されたのだ。なんでも侵攻の時に多くの悪魔を倒すということをしたかららしい。理由はどうあれ、これからまた共にいられるのだという事実が嬉しくて、心が弾んだ。



「エリアス、これからはまた一緒にいられるのね」


 自室の窓から外を眺めながら何げなく話す。


「はい。常に王女の傍らに」


 エリアスは落ち着いた表情でそう言った。

 無理して話さなくても長い沈黙に包まれても温かな気持ちでいられる。二人でいられる時間がこんなに幸せと感じるなんて不思議だ。


「これからジェシカとノアはどうなるの? 貴方が復帰するなら護衛の仕事はなくなるでしょ」

「そうですね。どうしましょうか……」


 エリアスは真剣な顔で考え込む。


「私はね、これからもみんなでいたいわ。二人のこともっと知りたいし、それにね、エリアスが二人と一緒にいるところも見てみたいかなって……」


 完全な興味本意だが、きっと楽しくなる気がして仕方ない。いや、逆に楽しくないはずがないだろう。


「では三人で王女をお護りするという方向で構いませんか?」


 私は大きく頷いた。


「それがいいわ。これから、きっと楽しくなるわね!」

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