21話 「決意、そして……」
母との思い出でもある大切なブローチを取り返すべくライヴァンと対峙した私は、不安を抱きながらも勇気を振り絞り平気なように振る舞う。
「そのブローチはエンジェリカの秘宝じゃないわ。そんなただのブローチを王妃に差し出して何をするつもりなの?」
するとライヴァンは、セットされた前髪を掻き上げるような仕草をし、ぬかりなくかっこつけて答える。
「王妃はエンジェリカの秘宝をとても欲しがっておられた! 美しい僕がこれを差し出せば、僕はその褒美として何でも好きなものを頂くことができる! そのうえ、四魔将の中で一番偉くなることができるのだよ!」
なんというバカげた夢か。それに主君である王妃のためにではなく褒美が目当てとは、もはや目も当てられない。
「けど本物のエンジェリカの秘宝じゃないとばれれば逆に怒られるわよ」
「いや、これは本物だ!」
ライヴァンは完全に思い込んでいるらしく、ドヤ顔で言い返してくる。
「だからそれは違うって言ってるでしょ。とにかく返して」
すると彼は腹を立てたのか不満げに眉をひそめる。
「返せ? この麗しい僕によくそんなことが言えたものだな!」
麗しいとか美しいとかを自分に対していちいちつけるのは止めてほしいものだ。聞いているこちらが恥ずかしくなる。
「だがまぁわざわざ来てくれて助かった! 今度こそ貴様を捕まえ王妃に差し出ぁす!」
ライヴァンは私をビシッと指差し言い放つ。もっとも、独り言を聞いていたので驚くことはなかったが。
「王女、覚悟しろぉ!」
感情が高ぶったように叫ぶライヴァンがシュールだ。
「かかって来なさいよ」
背後にある石像の裏側にはジェシカとノアがいる。だから、とても安心感がある。
ライヴァンが片手を上に掲げると、黒っぽい煙のような魔気が集まっていく。渦のような黒い魔気はやがていくつかの塊へと変化する。そしてそれぞれが輪、例えるならチャクラムのような形になった。そしてそれを投げてくる。
(……右、右! そして左!)
突然頭の中に響く声が指示を出してくる。こんなこと今までには一度もなかったので驚いていたが、なぜか体は自然にその声に従うことができている。気がつけばライヴァンが投げてきたチャクラムのようなものをすべてかわしていた。
……信じられない。
自分でも今自分が何をしたのかまったく理解できなかった。
「なっ、何だってぇー!? 美しい僕の攻撃をかわすだとーっ!?」
ライヴァンは口と目を大きく見開き、かなり大袈裟に驚く。普通起こりうらないぐらいの派手な反応。だが、ライヴァンの言動は演技がかっていて、いちいち大袈裟なので、平常でこんなものなのだろう。
しかし派手に驚いていたのも束の間、彼は気を取り直して再び手に魔気を集める。黒っぽい煙のような魔気は徐々に固形となっていく。
「覚悟しろぉっ!」
ライヴァンは叫びながら、大きく膨張した黒い塊を私に向けて投げた。
さすがにこれはかわせない。反射的に目を閉じる。
「待たせたねー」
目を閉じているので姿は見えないが、ノアの声が聞こえた。ようやく助けにきてくれたようである。
ゆっくり目を開けるとノアが薄い紫色のシールドで黒い塊を防いでいるのが見えた。
「くそっ! 仲間が潜んでいやがったか。いくら僕が美麗だからって……卑怯だ!」
卑怯でなければ生きていけない。以前そう言っていたのは他ならぬ彼自身なのだが。そんな彼が他人の策に卑怯と憤慨するなど、実におかしな話である。
「いやいや、美麗じゃないし。そもそも二回も同じ技使うとかセンスないよねー」
ノアは余裕の笑みを浮かべつつライヴァンの攻撃を見事に跳ね返す。
「一回見たのは防げるしねー」
ライヴァンの攻撃は既に見切っているということだろう。
「なら本気を出してやる! 覚悟しろ、この呑気男!」
また新しい珍妙なあだ名が誕生した。今回は結構似合っている気もする。
「本気……かー」
ノアは少しおかしそうにクスッと笑う。
「魔気は凄くても頭がねー」
なんとも失礼な発言が出た。図星なだけにライヴァンは怒りそう。
「頭が? 頭が何だと? 僕は麗しい! それに賢いじゃないか!」
やっぱり。
怒り始めるだろうと思ってはいたが実際その通りになると呆れるものだ。ちょっとした挑発にいちいち反応して怒るのは、子どものようで滑稽である。
「いやいや。さすがに賢くはないでしょー」
「なぁっ!? 失礼な男だな! ならば、僕のどこが賢くないのか言ってみろ! 言えるのか? 言えるんだなっ!?」
するとノアは数秒言葉を止め、それから彼にしては珍しくニヤリと笑って言った。
「そうだね。そういうところかなー」
つまり、ちょっとやそっとのことでまんまと怒り、周囲が見えなくなるところ?
ノアが言い終わるとほぼ同時に、バン! という大きな音が鳴り響き、白い服をまとった天使たちが流れ込んでくる。服装で親衛隊の者たちと分かった。
「覚悟してよね! もう逃げ場はない!」
「ジェシカさん!」
先頭でやって来て一番最初に言ったのはジェシカだった。可愛らしい容姿とは裏腹に厳しい口調。恐らく彼女が親衛隊を呼んできたのだろう。
「ジェシカ、遅かったねー」
「いちいちうるさい!」
「わー。怖い怖い」
こんな流れになることを誰が予想しただろう。少なくとも私の頭からこの展開は出てこなかった。私は予想外の展開に驚きつつも安堵して少し笑みをこぼしてしまった。




