17話 「四魔将襲来」
「ね、ねぇ、ヴァネッサ。どうすればいい? 父に連絡する? それとも、取り敢えずジェシカとノアを呼ぶ?」
部屋が緊張した雰囲気に包まれた。ヴァネッサは難しい顔をしている。
しばらくして彼女は答える。
「そうですね。あれだけの数なら親衛隊がすぐに動くでしょうし……。では、先に二人を呼びましょうか」
「私は何をしたらいいの?」
戦う力のない私が下手に動けば迷惑をかけるかもしれない。そう考え、判断はヴァネッサに委ねることにした。
「貴女はここにいて下さい。私がジェシカとノアを……」
「「王女様!」」
ちょうどヴァネッサがそこまで行ったタイミングで、ドアの向こう側から二人の声が聞こえてきた。なんというナイスタイミングか。
ヴァネッサはドアの方まで行き、用心深く覗き穴で確認してから、ドアを細く開けた。
「騒ぎになってるけど王女様大丈夫!?」
先に飛び込むように部屋へ入ってきたのはジェシカ。
「おはようー。来たよー」
ジェシカの後ろからノアが現れる。右サイドの髪を指で弄りながら、まるで遊びにやって来たかのようなのんびり口調。
「外の様子はどのようになっていましたか?」
ヴァネッサが真剣な顔で確認するとジェシカは答える。
「警備兵とか親衛隊とかが戦ってるよ。あいつらの狙いは王宮みたい。何か欲しいものでもあるのかな」
それを聞いて私はゾクッとした。
「四魔将ライヴァン……?」
前に街へ行った時にエンジェリカの秘宝を求めて私を拐った悪魔。
「王女様、今何て言った?」
突然ジェシカがクルッと身を返し私に尋ねてくる。
「え? わ、私?」
「そう! 今何か言ったよね」
「えぇ。四魔将ライヴァン……って言ったけど」
するとノアが珍しく真面目な表情で口を挟んでくる。
「あー、そっか。じゃあやっぱり知り合いってことだねー」
口調の軽さはいつもと変わらないが漂っている雰囲気が違う。
「あの、やっぱりって?」
「そのライヴァンって奴が、今回の襲撃の親玉ってわけね」
ジェシカの言葉を聞き私はショックを受ける。できれば当たってほしくなかった予想が当たってしまっていたからだ。
あの時の私のせいでこんなことに……。
するとジェシカは肩をトントンと軽く叩いてくる。
「自分のせいとか思っちゃダメだからねっ!」
彼女がニカッと明るい笑みを浮かべてくれたおかげでほんの少しだけ元気が湧いた。私は彼女の手を握らせてもらい乱れた心を落ち着けるよう努める。
「……下がって!」
刹那、ジェシカは私の体を彼女の後方に強く引く。私はその勢いでよろけ転倒した。
次の瞬間、上空から黒い矢のようなものが降ってきて、窓ガラスを貫いて飛んでくる。ジェシカは一瞬にして聖気を集結させて剣状にし、それですべての黒い矢を凪ぎ払った。
私がそれを見て安堵したのも束の間、次は、コウモリと人間の中間のような姿をした黒い化け物がたくさん迫ってくる。
「……あはっ、ははは」
ジェシカが突然笑い出す。
「キタコレッ! いいじゃん、面白いじゃん!」
おかしなテンションで笑い、迫ってくる化け物を剣で次々斬っていく。踊っているような華麗な動きで一切躊躇いなく敵を斬るその姿は天使とは思えぬ迫力だ。
気づけば化け物はすべて片付けられてしまっていた。
「どうよ、王女様!」
ジェシカは振り返り誇らしそうに胸を張る。
……信じられない強さだ。
少しでも疑った私が間違いだった。彼女一人でもエリアスに相当するくらいの戦闘力、もはや天使離れしている。
「す、凄いわ……何だか……」
それしか出てこなかった。
「えへへっ、ノア、聞いた? あたし凄いって! 王女様に褒められちゃった!」
「はいはい。聞いたよー」
ノアは棒読みで適当な返事をする。
「どんなのが来ても関係なし! ぶっ飛ばしてやるんだから!」
だが安心するにはまだ早かった。私たちが少し落ち着き話していると、突如轟音が鳴り響きドアが吹き飛んだのだ。辺りは砂煙に覆われる。
「こ、今度は何……?」
今までとは桁違いの脅威的な魔気を感じ体が硬直する。
「うわー。あれとやるのはちょっと嫌だなー」
いつもは呑気なノアもこの時ばかりは身構えていた。
ドアが壊れた後の砂煙が晴れると、そこには見覚えのある青年が立っていた。セットされた黄色寄りの金髪、紫の瞳、自信ありげな表情。片側の口角を上げニヤリと笑う。
「久しいな! お人好し王女!!」
背中から巨大なコウモリのような羽が生えていて、放出されている魔気も以前とは比べられないぐらいの強さ。しかし口調がバカ丸出しなところだけは前と変わらない。
「……しがないお金持ち」
するとライヴァンは顔を真っ赤に染めて怒る。
「もうそれを言うなっ! 恥ずかしいじゃないかっ!」
ジェシカとノアはキョトンとして私に目をやる。
「アイツとどういう関係?」
「案外仲良しなのかなー?」
いや、仲良しなわけないし。
「ライヴァンはエンジェリカの秘宝を欲しがって私を狙っているのよ」
「なっ、エンジェリカの秘宝ですって!?」
ヴァネッサが口を開いた。
「そ! う! さ!」
それをちゃんと聞き逃さなかったライヴァンはお馴染みの謎ポーズをしつつ叫ぶ。
「そんな……どうしてエンジェリカの秘宝を……」
部屋内が白けた空気になっている中で、ヴァネッサはただ一人何かを考え込んでいるようだった。




