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エンジェリカの王女  作者: 四季
〜 最終章 未来へゆく 〜

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128話 「決して変わらぬ誓い」

 戴冠式を終えた私は一度控え室へ戻り、一気に結婚式用ドレスへと着替える。髪はそのままなのでセットを崩してしまわないように、急ぎつつも丁寧に脱ぎ着しなくてはならない。既に待機していた何人かの使用人が着替えを手伝ってくれ、案外速やかに結婚式のドレスへと着替えられた。


 ふんわりと広がった純白のドレス。白一色で統一され、派手な装飾はない。戴冠式の衣装とは対照的にシンプルだが、身に付けていると落ち着く感じがして私は好きだ。胴体の締めつけ感は若干気になるが。


 着替えが終了すると、控え室へエリアスが入ってくる。


「失礼します……えっ」


 エリアスは軽く礼をして頭を上げた途端、顔を強張らせる。戸惑ったような表情だ。

 そういえば、彼がこのドレスを見るのは初めてだった気がする。だから驚いているのかもしれない。

 よく似合っているということかしら? ……なんてね。


「エリアス、このドレスどう? 似合ってるかな?」


 彼が「似合っていない」と答えるはずがないが、一応尋ねてみる。すると言葉を失い固まっていたエリアスは我に返って答える。


「……とてもお美しいですよ」


 瑠璃色の瞳は光に満ちていた。まるで満天の星空のように。それに加え、まばたきする度に羽のような睫が柔らかく動き、幻想的な目元を演出している。

 少し恥ずかしそうに、それでいて幸せそうに、微笑む彼がなんだか愛らしく感じる。


「それなら良かった。貴方が気に入ってくれて嬉しいわ」

「アンナは何を着てられても、いつもお美しいです」

「随分褒めてくれるのね」


 するとエリアスは自分の襟を整えながら返す。


「はい。これが私の本心です。貴女を愛する気持ちが変わることは決してありません」


 彼は一切迷いなくそんなことを言ってのけた。


 この先、私たちはまだ長い時を生きる。途中で心が変わったとしてもなんらおかしなことではない。それなのに「変わることはない」と宣言してしまうところには感心する。


「愛するだなんて、ちょっと照れちゃうわね」


 私は照れ隠しで苦笑しながら返す。感情をストレートに伝えられるとやはり照れてしまう。


 その時、控え室へ係員の天使が入ってくる。一介の使用人かと思いきや、まさかのレクシフだった。鴬色のきっちりした髪は今日もいつも通り整っていて、ツヴァイとは大違いだ。


「アンナ女王、失礼します。まもなく開式です」


 それにしても、女王と呼ばれると何だか不思議な感じね。まだしっくり来ないわ。ずっとアンナ王女と呼ばれていたのに、戴冠式を終えたらすぐアンナ女王と呼ばれるようになるのが違和感だ。

 私はレクシフに対して小さく「ありがとう」と言い、エリアスの顔へ視線を向ける。笑みを浮かべると、彼も柔らかく微笑み返してくれる。


「さ、行きましょう!」

「はい。ありがとうございます、アンナ」


 何とか準備が間に合って良かったわ。さて、行くとしましょうか。



 教会へ向かう途中、ジェシカとノアが会いに来てくれた。

 ジェシカは今朝破れた桃色のドレス、ノアはきっちりした薄紫のスーツ。二人ともいつになく良い身形で、普段と異なる雰囲気だがわりと着こなしている。


「王女様、素敵! 結婚式楽しみにしてるねっ」

「いやー。王女様綺麗だなー」


 二人ともニコニコしながら私を褒めてくれる。子どものように純粋で心が綺麗な天使たちだ。

 それに対してエリアスは「今は女王だ」と指摘する。確かにそうなのだが、私としては王女と呼ばれる方がしっくりくる。王女と呼ばれることに対する不満は微塵もない。


「隊長もかっこいいですねー」

「そうか」

「うんうん、その通りー。僕もいつかこんな服着たいなー」


 ノアはエリアスに憧れの眼差しを向けている。


「大丈夫だ。心配せずとも、いずれ着れる」

「だといいなー」


 それからノアは、隣にいるジェシカをギュッと抱き締めた。突然抱き締められたジェシカはビクッと身を震わせ戸惑ったような顔をしている。恐らく、どういう成り行きでこうなったのか分からないのだろう。


「ジェシカ、僕たちはいつ家族になるー? その時には一緒にこういう服を着ようねー」

「……アンタ正気? あたしらそんなお金持ってないじゃん」


 呆れ顔で返すジェシカ。

 どうやらノアは、結婚式や衣装にお金がかかることを知らないらしい。費用などを一切考慮しないところは、まさに子どもである。


「大丈夫ー、ジェシカはきっと似合うよー」

「そういう話じゃないって!」


 話の食い違いに苛立ったジェシカは、体に絡みつけられたノアの両腕を振りほどく。


「ノアはもういいから! ……それで王女様、これからは何て呼んだらいいかな?」


 ジェシカはこちらへ向き直り、向日葵のように晴れやかな笑みを浮かべる。この表情に偽りはない、とそう感じた。

 こんな風に笑ってくれると凄く嬉しい。直接ではないにせよ彼女を傷つけてしまったことに後悔があったからだ。仲良しに戻れて本当に良かった。


「そうよね。いつまでも王女様ってのもなんだし……そうだ! じゃあ、アンナと呼んでくれる?」


 私がそう提案すると、驚いたように目をパチパチさせるジェシカ。


「え、名前呼び?」

「楽かなと思って。嫌なら別の呼び方でも……」


 するとジェシカは慌てたように、激しく首を横に振る。


「ううん! 嫌とかじゃないよ! そういうことじゃなくて、えっと、失礼にならないかなーって思ったの」


 ジェシカが礼儀を考えていたなんて意外だ。彼女はそういうことを気にかけないタイプだと思っていたから。


「失礼なわけないわ。私が提案したんだもの」


 友達と呼べる相手がかなり少ない私にとって、ジェシカはとても大切な存在だ。年は近いし、気が合うし。それでいて戦闘ができて護ってくれる。こんな友達は滅多にできない。


「分かった! じゃあこれからはアンナって呼ぶねっ」

「呼び捨てー? 正しい呼び方はアンナ様じゃないのかなー」


 突然ノアが乱入してきた。


「女の子同士だからいいの! ノア、アンタはアンナ様って呼ぶことね」

「えー。不平等だよー。男女差別反対ー」


 どこでそんな言葉を覚えたのやら。

 エンジェリカは貧富の差はあるが性に関しては平等の国なので、普通に暮らしているだけでは「男女差別」なんて言葉は滅多に聞かない。

 たまに難しい言葉を使うのはノアの不思議なところだ。


「あたしたちは女の子同士だからいいの!」

「あー。そんなこと言うんだー。酷いジェシカには、もう桃缶買わないよー」

「ちょっ、何それ!? ごめん!」

「買わないもんー」

「ごめんってば! 謝ってるじゃん!」

「……冗談だよー」


 二人はとても楽しそうにじゃれあっている。私とエリアスではできそうにない触れ合い方だ。珍しいものを見たような気分になるのと同時に、少し羨ましくも思える。二人の姿が凄く幸せそうに目に映ったのだ。

 だが、心配することはない。形は違えど、私たちだって幸せなのだから。

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