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序章
「アンナ王女」
みんな私をそう呼ぶ。
天界にある天使の暮らす王国エンジェリカ。私はそのたった一人の王女。だから、傷つかないように、幸せにいられるように。そんな風に言ってみんなは私を王宮に閉じ込める。
どんなに贅沢な暮らしだって心を揺らしはしない。きっと、それが普通で当たり前のことだから。
自室の窓から外を見る。いつからかそれが日課になった。窓は私と外界を繋ぎ、心の奥底に眠る寂しさをまぎらわしてくれる。空や海、遠くに見える山、見下ろす街。
だけど、時折飛んでくる白い鳥を見た時には、ほんの少し切なくなる。私は人間ではない、天使だ。羽根がある。本当なら何の制約もなく、どこへだって飛んで行けるのに。
王女という立場。
……その鎖さえなければ。