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Reversal One The Life(リバーサル・ワン・ザ・ライフ)  作者: usiroka
第1章 転生と冒険の始まり
13/25

第12話 初めての冒険

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

 ギルク・ファイクという男は簡単な自己紹介を終えて、隣にいる斧を持った女性が、


「ギルクと同じく今日一日講師を務めるエルク・ドライシアだ。今日はよろしく頼む。」


 とギルクと同じように自己紹介をした。


「長い話をするのは苦手なので、単刀直入に言おう。今から冒険者としての必要な知識の講習会を開かせてもらう。そして講習会後はみんなお待ちかねのクエストに挑戦してもらう!!」


 その言葉で一気に会場は怒涛の盛り上がりをみせていた。クエストに挑戦する喜びを理解できない光輝には驚きの光景であった。


「静粛に!!嬉しいという気持ちはしっかり受け取った!!だが、最低限冒険に必要の知識の講習を受けてから冒険してもらう!!暇だと思われるが、ただ聞くだけでいい。不安だと思うものはしっかりと話を聞くこと!!私も長く話をするのは嫌いだし、苦手だ。早速だが講習を始めよう。いつまでもたっているのは辛いだろうから座ってくれ。」


 エルクの一声で会場は静まり返り、ぞろぞろと人々が座り始めた。ギルクとエルクは大きな映像画面を場に出して説明を始めた。


「冒険者はギルドや王国などが発行するクエストを受けてそのクエストを攻略・達成することによって、ギルドや王国から報酬を受け取ることで生計を成り立たせる職業である。クエストはこのクエストボードと呼ばれる掲示板からクエスト依頼が書かれているマジックペーパーを掲示板から取って、ギルドの冒険者用の窓口に持っていく。クエスト内容と冒険者ライセンスを受付員に確認してもらい、クエストへ挑戦できるようになる。冒険者にはそれぞれ担当をしてくれる受付員がいる。午後の講習が終わった際にそれぞれ教えるので最後まで残るように。」


「と言う訳で、各自初心者用クエストである『フェル・ウィーゼルの討伐を求む』と書かれたマジックペーパーを受付に持って行って、クエストを発注してくること。さあ冒険をしたいのであれば、すぐに済ませてこい!!」


 エルクの一声で大人良く座っていた冒険者は一斉にクエストボードへ向って行った。少し慌てながらも、先に行った冒険者を真似してクエストボードから先ほど言われたクエスト依頼の紙を取り、近くの受付で確認をしてもらった。しかし今日は人が多いらしく全員が終わるまで三十分も掛かってしまった。


 全員の受付が終わると、ギルクとエルクは長方体の小さな青色の水晶を手に出した。


「これは『転移結晶』と呼ばれる魔力が込められた特殊な水晶体だ。今から使い方を説明する。この水晶は使うことで特定の場所に瞬間移動することが出来るマジックアイテムだ。」


「使い方としては、この水晶に手に持って魔力を込める。」


 魔力を込めた水晶はまばゆい光を出して、エルクを包み込んだ。光がおさまると先ほどまでいたエルクの姿はなかった。どこへ行ったのかと少し目で探していると


「…とこのように指定された場所に瞬間移動できる。」


 と後ろからエルクの声が聞こえてきた。光輝は少し驚いてしまった。この世界では当たり前だということがなかなか慣れず、まだ戸惑いを隠せない中で、説明は続いていく。


「水晶の種類によっては、数回使えるもの、場所の指定が出来るものもあるのが特徴的な便利なアイテムだ。モンスターとの戦闘中に命の危機に出会ったときに使うことでその危機を脱することもできる。しかしこの水晶はもろく壊れやすいので、扱いは丁寧にするように。」


 と説明を終えると歩いて元の場所へと戻っていった。


 エルクが戻るとギルクはモンスターとの戦闘での注意点・モンスターと魔法の相性・武器とモンスターの相性と今後先にためになるような様々な説明を行った。ほとんどの人たちは暇そうに聞いていたが、光輝はしっかりと頭の中にこれらを叩き込んだ。


「…と説明はこれで終わりだ。では最後に一言。」。


「冒険者は常に自分の命を賭けて戦う職業である!!」


「最後まで油断せず、その命を持って生きて帰ってくること!!その心を常に忘れるな!!」


 こうして講習会は幕を閉じた。


「これから一時間の休憩に入るが、休憩に入る前にそれぞれにこのギルドに瞬間移動が可能な『転移結晶』をそれぞれに渡しておく。休憩後にはクエストに出発するので、万が一の事があればそれを使って逃げるように。休憩後はもう一度ここに集まるように。では解散!!」


 解散の言葉を受けて、冒険者はそれぞれ移動していった。光輝はギルドの受付員から転移結晶を受け取り、ポケットの中にしまった。

 少し受付から離れた所へ行くと飲食している自分と同じような冒険者がいたので近くに座る場所を見つけ、そこに座って朝頼んだ『色とりどりの欲張りサンドイッチセット』を手に取って食べることにした。


「…!!」


 新鮮な野菜を使って作られたサンドイッチは特製のドレッシングが使われているらしく、とても上品な味になっていた。ベーコン・レタス・トマトのサンドイッチはバーベキューソースと思われるものがサンドイッチに入っており、カリカリに焼かれたベーコンと新鮮でシャキシャキのトマトとレタスのおいしさをしっかり引き立てていた。キウイ・イチゴのフルーツサンドは生クリームの優しい甘さと酸味のあるフルーツが上手く重なり合って、食べやすいものになっていた。そしておまけとしてついていたオレンジジュースには酸味が程よくあり、とても飲みやすく、果肉も入っていて満足感のある飲みごたえだった。


 お腹を満たしてから少しは緊張がほどけてきたものの、光輝の心の中にはいまだに不安が募っていた。最後にギルクの言った「命を持って生きて帰ってくる」一言が少しだけ光輝の心を縛っていた。


「…。」


 考えているうちに時間が来そうになっているので、光輝は準備のためトイレへ向かった。そしてトイレを出て、先ほどの広場に向かいうとしたときにルルシアにばったりと出会った。


「奇遇ですね、光輝さん。」


「どうも、ルルシアさん。」


「先ほどの講習会は分かりやすかったですか?」


「はい、分からないことが多かったのでとても参考になりました。」


「良かったです。いよいよ初クエストですね。気分はどうですか?」


「…正直不安ですね。剣を握ったのは昨日が初めてですし、剣の重さにも慣れてない中でモンスターなんかと戦えるのかな、なんて今でも思ってます…。」


「やっぱり不安がまだあるんですね。」


「はい…。」


「…でも光輝さんは剣を初めて振ったようには私は見えませんでした。それに今回の討伐対象である『フェル・ウィーゼル』は動きが素早いですが、攻撃力もモンスターの中ではダントツで低いですので、動きに注意して強い一撃を与えられれば初心者でも簡単に倒せますよ。」


「そうなんですか…。」


「それに光輝さんには冒険に対して強い意志が感じられます。確かに初めての冒険やクエストは緊張もあります。でも強い意志で臨む冒険やクエストはその緊張や不安も忘れさせてくれるだけではなく、自身の力にもなってくれます。光輝さんは『冒険者やりたいです』と言ったときにそれなりの覚悟が見えました。だから私は光輝さんが意志をたくさん持っていると思いました。私は光輝さんなら大丈夫だと思っています。」


「…。」


 まだ知り合いとは言えないが出会って二日の人がこんなに自分を信用してくれたことに光輝は少しだが嬉しくなった。日本にいた時は親密な人は母親しかいなかった。学校の先生や同級生、部活の仲間もいたが話しかけることもほとんどなくただ一人でいた。多少の会話さえあれば一人でも大丈夫だと思っていたが、でもここに来てからは右も左も分からず、自分の持っていた知識もほとんどが無駄になった。寝泊りすら絶望的な中で初対面だった自分を助けてくれたことだけでも感謝しているが、また話し相手になってくれていることもまた感謝の心があった。


(またこの人に助けられたな…。)


 ルルシアの言葉で色々と不安ばかり考えていた光輝の心はふっと軽くなった。


「…ありがとうございます。なんだかだいぶ楽になりました。それともう時間になりますので失礼します。」


「それじゃあ私も仕事に戻りますね。頑張って下さい。」


 ルルシアと別れ、光輝は広場へ向かった。もうすでに講習会に来ていた冒険者のほとんどがクエストの出発を楽しそうに待っていた。そうした中でギルク・エルク・冒険者ヒーラー達が戻ってきた。ギルクが最初の位置に着くと


「それではこれより『フェル・ウィーゼル』の討伐を開始する!!」


 と大きな声で言い放った。すると冒険者たちは待ってましたとばかりに大きな歓声を上げた。


「本来であれば各自で町はずれにある野原まで移動してもらうが、今回は講習だから特別にこれで野原まで行く。」


 エルクは少し大きめのオレンジ色の長方体の水晶を出すと、即座に魔力を込めた。するととてもオレンジ色の光を強く放って会場を包んだ。突然のまぶしい光に光輝は思わず腕で目元を隠した。眩しさに驚いていると突然と柔らかな風が全身を包み込んだ。何が起こったのか確認しようとゆっくりと目を開けた。


「…!?」


 先ほどまでギルドの中にはずが、緑が一面の野原の中にいつの間にか自分がいた。


(これが瞬間移動か…。凄いな…。)


 驚いているうちに他の冒険者たちはそれぞれバラバラに動き始めていた。少し様子を見ているとギルクが近くの林の方向へ向いていた。


「お前ら、これが初めての冒険だ。しっかりモンスターと戦って冒険者としての自信をつけろよ。」


 ギルクは小さな筒状の笛を手にして『ピィー』と吹いた。そして笛が吹かれて少しすると林の方からガサガサという音がしてきた。


「…?」


 ガサガサという音はどんどん大きくなり、林から何かがこちらに向かってきていた。そして大きく音がしてから林から飛び出してきた。


「キィ!!」


 体長50cmほどの大きさで、身体は茶色の毛で覆われており、犬歯は長くて鋭く、口からむき出しになっていて、爪は全体的に鋭く、目はかなり血走っているこの生命体は日本でいうイタチに似ていた。


「さて、これがお前らの討伐対象である『フェル・ウィーゼル』だ。しっかり戦えよ!!」


 冒険者はそれぞれ武器を構えて、こちらへ向かってきた『フェル・ウィーゼル』との戦闘態勢に入った。光輝も遅れを取りながらも剣を腰から抜いて戦闘態勢に入った。


「キィ!!」


 フェル・ウィーゼルは近くにいる冒険者達へ素早く飛んで、自慢の鋭い爪を冒険者に向けて襲い掛かってきた。だが冒険者達は恐れることもなく、


「遅ぇよ!!」


「食らえ!!」


「射貫きます!!」


「アイス!!」


「ぶっ潰す!!」


 それぞれの武器の特徴を利用して、ことごとくフェル・ウィーゼル達は返り討ちにされていた。光輝はしばらくその光景を唖然と見ていたが、フェル・ウィーゼルの討伐へ身を投じた。しかし光輝はフェル・ウィーゼルを倒そうとするが、見つけたフェル・ウィーゼルを他の冒険者に先に倒されてしまい討伐に参加できないでいた。そして日本に住んでいた影響もあり、モンスターではあるがイタチに似たフェル・ウィーゼルに攻撃することの抵抗感があった。


(やっぱり俺には無理なのかな…。)


 少し棒立ちになっていた時、ギルクが背中を強く叩いてきた。


「何をしている?討伐はできたのか?」


「…いえ。上手くいかなくて…。」


「討伐は自ら参加して、成果を上げるもの。自ら敵を倒しに行かなければ、何も得ることはできないぞ。」


「…分かってます。ですけど何だかフェル・ウィーゼルへ攻撃することに抵抗感があって…。」


 ギルクはその言葉を聞いて少しあきれていた。


「はあ…。…少年よこの冒険の世界は弱肉強食の世界だ。モンスター相手にそんな甘いことを考えていれば俺たち冒険者はあいつらのエサになる。そして討伐は村に住む人々が怯えなくてすむようにするためにもある。お前の住んでいた場所でも大人たちが村や町から人を守るためにモンスターや猛獣と戦ったり、何らかの対策をしたんじゃないのか?」


「…。」


 光輝のいた世界にはここほどではないが、仕事とはいえ大人たちは町の安全のためにしっかり働いてくれたと思っている。そう思うと自分は知らず知らずのうちに人に支えられていたのかもしれない。


 そしてあれほどこの世界と日本はいろいろと違うとウィルトに教えられて、ルルシアにも『覚悟してください』と言われたのに自分は全く動けていないという現状は自分の情けなさが色濃く自分に映っていた。


「…お前にいいことを教えてやる。今の位置から左の方の林へ行って見て、茂みを剣や手で揺らしてこい、そうすればその音や気配に気が付いてフェル・ウィーゼルが一匹くらいは出てくるはずだ。本来であれば2~3匹くらいは倒してほしいが、今回は一匹倒せば討伐依頼達成にしてやる。やるか?やらないのか?」


「やります…。」


「そうか、じゃあさっさと走って行ってこい!」


 光輝はすぐに走っていった。自分の情けなさや、この世界に適応するためにも何かをしなければいけないとその思いを抱いて走った。


「なーにしてんのギルク?」


 後頭部で手を組みながらエルクはギルクに話しかけた。


「いや、新入りにちょいと喝を入れただけだ。」


「ふぅーん。アンタがねぇ…。」


「なんだよ?」


「いや、別に。珍しいなぁって。」


「お前がいないところでも結構やってるぞ?」


「別に聞いてもいないから言わなくていいわよ。」


「そーかい。なぁ、さっきのやつだけど。」


「さっきアンタが喝入れた子?」


「あぁ、お前はあいつを見てどう思った?」


「んー…。まぁ話もしっかり聞いていたし、身体つきもしっかりしていて剣の構えも良かったから冒険者としての印象は最高かな…。」


「俺も最初はそう思った、だけどあいつはまだこの世界に馴染めていないように見えた。」


「どういうことよ?」


「転移結晶を使ってここまで移動した時、あいつは過剰に驚いていた。それにあいつはモンスターに抵抗感を持っていた。」


「…マジで?」


「ああ。正直驚いたし、あきれたな。普通だったらモンスター相手に抵抗感持つのはよほどのモンスターマニアくらいだが、あいつはそうじゃなかった。」


「ふーん…。もしかしたらだけど、あの子は転移結晶もなくてモンスターもいない場所で、暮らしていたのかもね。」


「さぁな…。まぁ今のままじゃあいつの冒険は、一週間もせず終わるかもな。今回の討伐で万が一敵を倒せたとしても覚悟を決めきれなくては長くはもたないだろうな…。」


「かもな…。そういえば、今日はフェル・ウィーゼルがあまり出てこないな。」


「確かに言われてみれば少ないような気がするな。」


「まぁ今の所全体を見てみたが異常事態も起きてないし、フェル・ウィーゼルが少ないことは稀に起こることでもないから問題ないだろう。」


「万が一のときは俺たちもいるから問題も無いか。」


 そんな会話をしている中で光輝は林の前で近くの茂みを手や剣でガサガサと音を立てていた。だがしかし、そう簡単にフェル・ウィーゼルは光輝の前に現れなかった。それでも光輝はめげないで、移動しながらも茂みの音を立てていた。そしてついに『ガサガサ』と音が近くに来た。


(よし…!)


 光輝は林から少し離れて、急いで光輝は剣を構えた。だがガサガサという音は次第に大きくなっていき、バキバキと嫌な音がするようになった。


(…?)


 メキメキ…


 木が折れる嫌な音は


 バキィ


 林の出口に近づくほど大きくなっていき


 メキメキ!


 そして林から出てきたのは


 バキバキバキバキッ!!


 フェル・ウィーゼルではなく








「キィシャアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!」








 イタチの姿をした巨大な化け物だった。

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