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細剣 〈 rapier 〉

▶レイピア

80~90㎝。刺突に特化した両刃の片手剣。

刀身は細く脆く、刀身に負荷がかかりやすい用法には向いていない。

騎士が持つ護身用、または決闘用として発展した。

エペと混同されやすいが、エペは大きな針とでもいうべき刺突専用剣である。

後のフェンシングの原形となる。

 対峙するのは二人の騎士。

 一人が持つのは、一メートル程の片手の十字剣。俗にロングソードと呼ばれる剣。

 もう一人の女がもつのは、一メートル程の両刃の片手細剣(かたてさいけん)。細く突きに特化した形状を持つ。

 拳を覆い護るような鍔。まるで茨で編んだ王冠を取り付けたような複雑な形状をしている。

 優美で繊細、可憐にして華奢(きゃしゃ)。芸術品のような剣。レイピアと呼ばれる剣だ。


 両者が構える。ロングソードを持つ男は中段の構え。

 レイピアを持つ女は、腰を落としレイピアをもつ右手を前に半身の構え。空いた左手を後ろで腰に添えるように置く。


 吹き抜けた風を合図として戦闘が開始された。


 男は剣を振りかぶり打ち下ろそうとした。

 だが速度では、刺突を得意とするレイピアには敵わない。

 刺突とは、剣術の中において最速と(うた)われる攻撃の一つ。

 斬撃は、『振りかぶり』『前に出て』『斬る』。単純に言えば三つの動作を必要とする。

 対して突きは同じ状態からならば、『前に出て』『突き』込む。二つの動作で可能な攻撃だ。

 必要な動作の少なさは、攻撃の速度に直結する。

 だが突きは、斬撃が線の攻撃に対して、点の攻撃だ。攻撃できる面積が少ない。

 レイピアは刺突に特化し酷く脆い武器。本来の目的である刺突でさえ、下手におこなえば簡単に刀身折りかねいほどに脆い。

 攻撃できる部分も刀身に負担のかかりづらい硬い骨のない部分が中心になる。動作が限定されるため速くとも回避はしやすい。

 喉を狙われた男は、左に一歩踏み込むことで回避した。


 レイピアに斬撃がないかと言えば、特殊な斬撃の技法が存在する。擦り切りなどと呼ばれる技法。

 刀身に負担をかけぬように、速度を持って浅く突くように斬りつける。または日本刀のように、接触した部分を引き切る。

 レイピアは、細く刺突に特化したとはいえ両刃の剣。難しくとも斬れぬ道理はない。


 女は回避する首筋にレイピアを押し当て引き斬ろうとする。いくらレイピアの浅い非力な斬撃としても、首筋にまともに食らえば致命傷になりかねない。

 だが押し当てられる前に、男は下がりながら剣を振り下ろす。狙いはレイピアの根元。

 何度も繰り返すが、レイピアは武器としては酷く脆い。受けや防御が不可能ではないものの、下手に受ければ簡単に折りかねない。

 だがレイピアは、一ヶ所のみ他の剣に比べても勝るとも劣らぬ頑丈な部分が存在する。

 護拳(ごけん)。鍔と呼ばれる部分が、拳を護るために大型になり明確に盾としての役目を果たす。


 女は引く動作を持って、レイピアを打ち下ろされる剣に垂直に配置する。突きを持って剣を迎撃するかのような動きだが、実際はレイピアの刀身を滑らせるようにして護拳にて剣を受ける。

 レイピアの守りは、ここで止まらない。


 レイピアは、ソードブレイカーと呼ばれる武具の側面も有する武器だ。複雑な形状の鍔は、護拳でもあるが武器を絡め取るための突起や(みぞ)の集まりでもある。

 日本でいう十手(じって)、大陸のサイなどと同じく護りに重きを置いた剣殺しの武具。剣自体の脆さと引き換えに、速き致死の突きを持って圧倒する攻撃的な剣殺しの細剣。

 それがレイピアと呼ばれる武器の本質。


 レイピアは流れるように剣を絡め、男の手から奪おうとする。あわよくば折り砕くことも不可能ではないが、男もそれを簡単には許すはずもない。

 力に逆らわず。剣を絡め取られる前に、引き抜きレイピアのお株を奪う突きの姿勢に入る。


 突き 対 突き。レイピアの女も流れるように同じく突きの態勢に入っているものの、単純な力で同じ技を競った場合、女の方が分か悪い。

 武器を見ても致命傷を刻むために効率が良いのは、男の剣の方だ。

 なにより男の動作の方が僅かに速い。


 レイピアを持つ女の左手が動く。レイピアを持つ右手は、弓を引くように大きく後ろに引き絞られる。右前の半身の構えから、左前の半身の構えへと変化する。

 速度勝負の形にもかかわらず、威力を重視した構えに変化する。(わず)かに位置が変化したため、男の剣の狙いが逸れた。

 男の持つ武器が、レイピアならばこれでも回避できただろう。当たったとしても、重傷でも致命傷にはならないはずだ。だが男が持つのは、ロングソードと呼ばれる系統の騎士剣。太さと厚さの分、この程度の動き()()では足りない。


 男の剣が、女の体の中心を少しズレた位置を貫こうと放たれる。多少、狙いがズレたところで致命の一撃。

 女の左手が、右半身の動きにあわせ振り子のように動き剣に叩きつけられようとする。素手であろうと、確かに致命傷だけは避けられるかもしれないが、だが分の悪い賭けでしかない。それならば、まだ相討ち覚悟で真っ向から速度で勝負を挑んでいたほうが勝ち目はあっただろう。


 金属のかち合う音、直後に響くは肉を深く貫く音。くぐもった声と倒れる音。

 は地に倒れていた。


 彼女は、胸元が浅く傷ついているものの立っている。右手のレイピアは、血に汚れ。左手には、刃こぼれしたダガー。

 バリーインダガー、マインゴーシュ(左手)とも呼ばれる。左手に防御に使う短剣などを持ち盾として扱う技法。

 左手で腰の短剣を居合い抜きの要領で抜き放ち、同時に右手はレイピアでの必殺の突きの態勢を取る。

 左手で相手の剣に短剣を叩きつけ軌道をずらすと同時に、引き絞られた右手のレイピアを解き放つ。


 繰り返すがレイピアは片手剣だ。片手剣を持つならば、空いている手には盾を持つのが有効である。

 よって本来レイピアを扱う場合、盾代わりの短剣を所持する。右手にレイピア、空いている手には短剣を持ち防御をおこなう。

 二刀流。レイピアを扱うための完成形の一つである。


今回、有名なレイピアです。

騎士の宮廷を舞台とする話しでは、この剣を想像するかたが多いのではないでしょうか?


元々は儀礼的用途の剣が原形になります。

それがエストックと呼ばれる戦場仕様の刺突特化剣となります。

それが騎士の護身用、決闘用として発展したものがレイピアです。

そしてエペと呼ばれる刺突専用剣の元でもあります。現在のフェンシングで使われるのが、エペですのでレイピアはフェンシングの源流とでも呼ぶべき武器です。


外見は、華奢で可憐。華美にして優雅。まさに芸術品。貴族を象徴するような剣です。

ただし刀身が脆く負荷をかけると簡単に折れます。戦場のような連戦を考慮しないならば、これで十分なんでしょう。


日本刀と同じく基本的には、護身用です。

防御に優れ、鍔がソードブレイカーの役目も果たしたらしいです。日本の十手と脇差しを足したような武器に思えます。


また片手剣という特性上、反対側の手が空くため、バリーインダガーと呼ばれる防御主体の剣を盾として二刀流で用いるのことが多かったようです。



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