幕間 1 long sword
▶ ロングソード
何の変哲もない普通の片手剣。
80~120㎝程度の長さを持つ騎士剣。
目の前には、ミネルバが座っている。
優雅に紅茶の杯を傾けつつ、目の前のバニラアイスを堪能している。
……次々と見えた映像と知識に呆然としていたんだが、目の前の少女の状況に言葉を失った。
「おかえりなさいませ。
バニラはないですが、抹茶アイスならありますよ?」
「いや、そうではなく!
尋ねたいことが、色々とある」
「スリーサイズと体重身長は秘密です」
「幼児のをきいて……何でもないです」
一瞬見せた目は、殺る気だった。
咳払いを一つして尋ねる。
「あれは何だ?」
「そのままです。武器の持つ記憶とでも思ってくださればよいかと。
害はないので大丈夫です」
「記憶……」
「はい。いくつか見たのでは?」
「日本刀、ラウンドシールド、薙刀……微妙に偏っている気がする」
指折り数える。
「そこは偶然です」
「ありがちなロングソードとかは見てない」
周囲に置かれる武具の中から、それらしい剣を見つつ答える。
「ロングソードですか……」
ミネルバは、こちらの視線の先にある剣を見つつ苦笑して答える。
「ロングソードという剣は、厳密にいうならば存在しません」
「え?」
彼女は、こちらの反応にため息を一つ。説明を始める。
「存在しないというと少し言い過ぎですが、ロングソードとはどういう剣ですか?」
あらためて問われると答えに悩む。
「えーっと……両刃、片手、一メートルほどの長さの剣?」
ゲームででてくる剣を想像して答える。
「それは現在の分類法上のロングソードです」
「現在?」
「はい。ロングソードというのは、分類上の名称でしかありません。
貴方の告げたロングソードは、あくまで現在、分類した時にロングソードと呼ばれる形状の剣です」
「えっと?
現在ということは、昔は違うのかな?」
彼女は紅茶で口を湿らせ語る。
「まず過去にロングソードと呼ばれる剣が存在したかというと、悩ましいところなのですが、あえて言うならば〈その時代において標準的片手騎士剣〉の俗称です。
なのでその時代、場所により標準は変わりますので、決まった形状というのはありません」
考える。言いたいことは理解できる。
「でもそれなら時代によって違うもののロングソードは存在するのでは?」
一つ頷き彼女は答える。
「えぇなので難しいのです。
どの時代、場所で発生したのか?どのような形状なのか?
説は色々とあるのですが、どれも明確な答えにはなりません。
あくまで分類上存在はしている有名な剣の種類です。実際は極端な特徴のない片手剣全てロングソードと呼べます」
「それはさすがに広過ぎるかな……ショートソード、ブロードソード、エストック、レイピア。最悪、バスタードソードまでロングソードになるのか……」
苦笑して首を捻る。
「そうですね。
それに分類法も、色々とありますのでロングソードの定義は広過ぎます。
それにlongは、長いという意味の形容詞です。単純に剣を形容して長い剣と呼んでいたのが、ロングソードという名前の剣が存在すると勘違いした可能性もあります」
「つまりロングソードという剣は、有名だが実際にはよくわからないと?」
ため息を尽きながら尋ねる。
「はい。あやふやなロングソードと言うならば、片手の騎士剣、または片手の十字剣と呼ぶほうが、貴方のいうロングソードを示すには正確でしょう」
そう結論して、ミネルバは残りのアイスを満面の笑みで口にいれた。
今回は幕間。ロングソードについてです。
そげ部のほうでも、同じような話をしたんですが、小説仕立てで改めて書いておこうと書いてみました。
本文にあるとおりなので、あえて説明は不要だと思います。
ロングソードは、ゲームなどではよくみるんですが、実は非常にあやふやな区分です。
ただファンタジーとしては、一番有名な剣ですので書いておこうかと思いまして(´・ω・`)