いらっしゃいませ ~ opening ~
その店の扉が開いた。取り付けられたベルが、涼やかな音を鳴らす。
奥から、この場所には不似合いな少女の声が聞こえた。
「いらっしゃいませ。ようこそお越しくださいました」
広く古い店を声のした方向に歩きながら、周囲を観察する。
所狭しとあらゆるものが置かれている。剣、盾、矛、弓矢、鎧……見たこともない異国の武器や防具まである。
壁際の本棚には、書が置かれている。背表紙も多様な文字で描かれ、読める範囲だけでも戦術書、戦記、秘伝書、魔術書、指南書などなど……切りがない。
棚には、何かの瓶、雑貨にしか見えないもの。壁には旗などもある。
だが一点共通することがある。それらは戦いに関係する何かということだ。
その証明とでもいうかのごとく、一つ一つ丁寧に磨き上げられ手入れはされているのだが、差はあれど証の戦傷が刻まれている。
ここにある全ては、『本物』なのだろう。大なり小なり実際に使われ、血を吸い、命のやりとりを経験した武具。
武具の森を抜けた先には、空間があった。アンティークのランプ、飴色の重厚そうな机、柔らかそうなクッションが置かれた座りごごちのよさそうな椅子。
それらとは別に応接用の長机と長椅子のセット。どれも歴史を感じさせる品だが、ここでは現役で使われているらしい。
その長机には、芳しい香りを漂わせる紅茶のセットが置かれている。匂いからすれば、フレーバーティーの一種だろう。紅い花を連想させる華やかな香りが紅茶の香りとともに漂っている。
一つ人影があった。長椅子の上に座っている。紅と白の俗にゴスロリとよばれる系統の衣装、ただし人ではない。大きさ50センチほどのアンティークドール。
さっきの声の主の姿はない。
周囲を見回すが、やはり姿が見えない。
「どうされましたか?」
人形のあった場所から聞こえた。最初に聞こえた鈴を転がすような幼い声。声に目を向ける。
人形のあった場所には、アンティークドールの姿はない。人形と同じ衣装のローティーンの少女が座っていた。
人形のように美しい少女は、こちらを不思議そうに見つめた。向かいの席を示し着席を促してから、カップに唇をつけ紅茶を楽しんでいる。
呆然と促されるままに席につき、前におかれた紅茶を口に含んだ。味は良いのだろうが、楽しむ余裕はない。一度、意識して深く息を吸って言葉とともに吐き出す。
「君は?」
「ここの店主から店番を任されております。名はミネルバと申します」
「ミネルバ?確かギリシャ神話のアテナの別名」
「はい。お詳しいですね。
さほど珍しい名前ではありませんが、ギリシャ神話の戦いの女神にして、工芸や智恵を司る女神。槍と盾を持ち、勝利の女神を従える一柱」
部屋の奥に飾られている小さなブロンズ像を示した。確かに、この店を飾り、この店の店番をするもの名としては、これ以上はないだろう。彼女は、言葉を続ける。
「ここは、全ての武具に関するものを扱う店です。
武器に防具、手入れの道具から扱うための手引き……そして魂」
「魂?」
彼女は頷き、愛らしい唇から歌うように言葉を紡いでいく。
「えぇ、全ての使い込まれた武器には魂が宿っています。聞こえませんか?
魂の謳う勇壮なる凱歌を……。
魂の奏でる悲壮なる鎮魂歌を……。
魂の止まらぬ足音の行進曲を……。
そして英霊の誇り高き勲しの叙事詩を!」
「……えっ!?」
一瞬、確かに聞こえ、見ることができた気がした。
打ち合わされる武具、軍馬の嘶き、行軍する音、鼓舞する凱の声を、そして大地に突き立てられた無限の武具……英雄たちの眠る武具の墓場。
「さぁ……お聞き逃しなく。
八百万の武具達の語る幻想を…」
厳かに神託を告げる女神の巫女のように……いや、女神そのもののようなミネルバは誇らし気に開幕を宣言した。
「女神の名の下に、主を求む武具たちと新たな主に祝福を」
これは武具たちの八百万の物語……。
後で付け足したオープニングです。オープニングなのに多分一番長いとか(笑)
本編部分とは、だいぶイメージが違いますね(´・ω・`)