第60話 最後までお供しますから
次の朝、私は聖也に恐る恐る聞いてみた。
「あっ…あのさぁ、聖也。私…この間、また変な夢みちゃって。その…始末したってなんのこと?…私を餌って、なんなの?」
「また変なことをいうね。姉さんの見た夢なんて、俺が分かるわけないだろ」
「とぼけないで!!」
私は声を荒げた。すると聖也は驚いた様に目を見開いた。
「姉さん、俺が前に言ったこと覚えてる?」
「えっ?」
「夢には必要な物と、そうじゃない物があるって話だよ。実際に夢っていうものは、ほとんどの場合、一貫してないものが多い。だから脳は記憶する必要がないと判断する。だが姉さんは全てを覚えている」
「一体何を言ってるの?私が聞きたいのは、そんなんじゃ…」
「分からないのか?つまり姉さんが夢だと思っている出来事は、全て現実に起きたことなんだよ。だから厳密に言うと、起こったことを、ただ覚えているだけに過ぎないのさ」
(…そんな…そんなことって……)
「じゃ…じゃあ、あの女の人は誰なのよ?」
「女の人?」
「私の身体を使って喋ってた人よ!!あれも現実だって言うの!!」
「あぁ、あれか。そうだ」
「えっ⁈」
「あれは、新しい''君''だよ」
「あ…新しい…って、どういう…」
「苦労したんだ。まさか三年も掛かるなんてな…。でもその甲斐あって順調そうだ。では最後の仕上げといくか」
「聖也…あなた、正気?…意味、わかんないよ…」
「これが成功すれば、『適合者』が人為的に作れることが照明される。…楽しかったよ、姉さん。今までありがとう」
そう言いながら聖也は私に近寄って、右の手のひらを私の左の頬へ添えた。すると一瞬、ビリリと全身に電流の様なものが走った。。次第に意識が遠のいてゆく。
身体が動かない。まるで金縛りにあってるみたいに。抵抗しようにも指先まで反応がない。
(あぁぁぁ…)
このまま自分は死んでしまうんじゃないかという絶望感で思考が一杯になる。そして我ながらなにもできない無力感に涙も溢れ出た。
「姉さん。さようなら…永遠に…」
(嫌っ!…誰か…お母さん、助けて…)
自分の意識が、完全に消滅する直前、友美さんの笑顔が脳裏に浮かんだ。
(…友美さん…助け…………)
ブチッ‼︎
私の意識はそこで途絶えた。
(場面転換:病院内、香織と聖也の会話)
「姉さん!」
「あれ?聖也、どうしたの?」
「どうしたのじゃないよ。あの件、上手くいってるの?」
「もちろん!今から誘うところよ」
「…そうか」
そう言うと、聖也は本性を出し、「では始めようか」と続けた。
彼のこの言葉に、伽耶の瞳から光が吸い込まれるように消えた。
――入れ替わりは一瞬だった。
さっきまでそこにいたはずの生村伽耶は、もうどこにもいない。
「ふぅ」
香織は満足げに、自分のものとなったその華奢な首筋をなぞった。
「どうだ、聖也。伽耶の真似、なかなか板についてきただろ?」
香織は自慢げに髪をかき揚げる。
「フン!」
聖也は鼻を鳴らして小馬鹿にしたよう笑う。
「看護学校を卒業して、もうすぐ一年が経つか…。看護師としてはどうだ。順調か?」
「まあね。伽耶の意識は消滅してるけど、学校で習った知識と技術は、この身体が覚えてるんで何とかやれてるかな」
「榊友美とはどうだ?」
「友美先輩?至って順調よ」
香織の口調が伽耶のそれに戻った。
「この間なんて一緒に映画観に行ったわ。彼女、見た目に反して結構アクション好きなのよ。知ってた?」
「知らないな。じゃあ、始めるとするか。俺はコピーの方(洋館)で待ってる」
一時間後。榊友美のシフト表を再確認した香織は、偶然を装って、夜勤明けの彼女に声をかけるため、病院のメインエントランスの付近で待つ。
友美が現れた。香織は彼女が病院を出たところに後ろから駆け寄って声を掛けた。
「先輩、お疲れ様です。私も今、終わりました。一緒に帰りませんか?」
「あっ、伽耶ちゃん。お疲れ様」
「ねぇ、先輩。今からって時間ありますか?ちょっと付き合って欲しいとこがあって…」
「どこに?」
「ほら!前に言ってた例の洋館ですよ。一人じゃ心細くて…」
「えーっ、それって、あの昭和ロードにある心霊スポットのこと?ダメだよ、そんなとこ…」
「あれぇ、ひょっとして怖いんですかぁ?」
「ばっ、ばかね…そんなはずないでしょ」
「フフフ…大丈夫ですよ、先輩。……わたしが最後までお供しますから」




