第48話 諸刃の剣
「友美。ってことは、やはり、救済ってアランの読みは正確なんだな?」
「そうよ、聖也。陽炎は強い…けど、銀次の魂の抵抗が、まだ奴の意識の中に残留している。…これはリチャードの見解よ」
私の中で、リチャードは確かに存在している感覚はあるが、以前のように意識が乗っ取られることはなくなった。
今回みたいに、色々なシチュエーションに応じて、彼の知識による予想や、探求成果を利用できるようになったのは、我ながら大きな進歩だ。
「アラン…佐和子さんのことは…」
…友美さん、いいんだ。あれは、銀次のやったことじゃない…
「佐和子にあんな卑劣なことをしたのも、この怨霊の仕業だったってこと…か」
「そうよ…聖也。全ては、こいつ!陽炎の鎧のせいだ!」
私はそう言うと、視線を陽炎の鎧に戻した。
奴は激昂し、霊力が制御を失いかけていた。私が指摘した、銀次の無念の結晶体という言葉が、彼の怨霊としての核に直接触れたのだ。
陽炎の鎧を覆う漆黒のオーラは、まるで汚染されたデータのように、白と黒の不規則なノイズを散らし始めた。これは銀次の魂が、怨霊の支配に抗っている証拠だった。
私はディバイン・ファランクスの絶対霊域内で、特定の波長をチームに送った。
(みんなっ!最終確認よ。アランと聖也は伽耶ちゃんの救出に向かって!)
(分かったぜ。伽耶がいる場所の目星は!?)
(ええ。リチャードの見解だと、彼女は、陽炎の鎧の霊力ドームの最外層に隔離されている可能性が高い。そこに、わずかだけど霊力密度が薄い箇所があるわ。そこを狙って!大成は私と一緒に!!)
(いいだろう。バカ孫…いや、友美。お前の覚悟を見届けてやる)
そして…再度、私は陽炎の鎧に向き合った。
「さあ、仕切り直しといくか。陽炎っ!かかって来な…最終決戦だ!」
陽炎の鎧は、大きく息を吸って、それを静かに吐いた。呼吸を整えてると言うよりは、ハンターが獲物を仕留める前の精神統一に近かった。
「カスが…。調子に乗って………」
シュン!!
(えっ…?)
100メートルくらい離れた場所にいたはずの、陽炎の鎧の姿が、言い終わってない奴の発する言葉と共に、忽然と消えた。だが!その刹那!!
「………んじゃねえぞ!ああ?」
真後ろから、突然!時差ゼロの陽炎の声がダイレクトに聞こえた。
「なっ!なにぃーっ!!」
咄嗟に振り返る。刹那、私の背筋が一気に凍りついた。
そこには陽炎の鎧がいた。そして奴の腕が、しなった鞭の様な動きを見せた。
私は、キツネにつままれた感覚に陥った。[時空の断層]とか、そんなレベルじゃない。時差ゼロの完全な瞬間移動だった。
(いや、違う!これは移動なんかじゃない!書き換えたんだ!さっき,奴が言ってた空間の法則を…。速さじゃない…私の真横に座標を生成して点と点を繋げただけだ!)
「友美ィィーッ!!ボケっと突っ立ってんじゃねぇーぞっ!!!!」
私は、大成の叫びにハッとして、顔を上げ防御の姿勢を取るが、一手、遅れた。先ほどのしなった奴の腕が私の顎に向かって突き上げられていた。
(しっ!しまった!…避けきれないっ!!)
その時である。音速で大気が揺れ、波打ち際で潮が引くように、大成が私と陽炎の鉄槌の間に現れた。
大成が両手のひらを合わせて、それを受け止める。だが、陽炎の鉄槌は、それをものともしない威力を兼ね備えていた。結果、瞬く間に大成の両腕は原子レベルまで粉砕された。
私と大成は、陽炎の鎧の奇襲で後方の壁まで吹き飛ばされた。
「たっ!大成ぇーっ!!!!」
私の叫びに、大成が,すかさず喝をいれる。
「バカ野郎!まったくよぉ…いくら強くなろうが本質は変わらない。やっぱりお前は、あまちゃんのバカ孫だ」
「な、なんだと!?…大成、お前、余計なことを!腕が、また腕がっ!!」
「だから、お前はあまちゃんだっていうんだよ。人の心配する暇があったら、逆に人に心配させねぇくらいの覚悟を示して見せやがれっ!!」
な....陽炎の奴、動きが見えねぇ!…えっ!なんだと!大成!…両腕が...大成の両腕が消えた!?」
聖也たちは、目的のドーム最外層に向かうため、この場を離脱しかけた時に起こった超現象に唖然とした。
「大成か…。虫ケラが邪魔しにきたか…。安心しろ。焦らなくても、あとで、てめぇも跡形もなく消滅させてやるぜ」
(くっそおーっ!…おい!リチャード!意識はとっくに戻ってるんだろ?さっさと打開策を出しやがれ!)
私は内に潜むリチャードに語りかけた。
(…気づいていたか。フン。よく言うぜ。…つまり、それは俺への敗北を認めたってことかぁ?…まぁ、いい。今回は特別だ。次なる奴の一撃で、お前の審判が下る!)
(上等だ!じゃあ、お前の探求の成果ってやつをみせてみろよ。わたしがそれを具現化してやる)
(いいねぇ…。さすがは私の被験体だ。では、とっておきを解放してやる。…だが覚悟しろよ。これは諸刃の剣ってヤツだ。下手すりゃてめぇの命も危うくなるぜ)
(そりゃご丁寧に…。心配無用だ。つまり、下手しなきゃいいんだろ!)
友美の身体を包む白金のオーラが、一瞬にして禍々しい紫がかった黒へと変色した。リチャードが最後に探求した、霊的エネルギーの安定構造を無視した、最大効率の破壊理論が、友美の霊力回路に直接流れ込む。
「キィィィィィン……!!」
(いいか、榊友美!これは『存在の否定』だ。対象の結合定数をゼロにする。……ただし、制御を誤ればお前の魂も霧散するぞ)
友美の霊体に、高密度の霊力が集中したことによる
亀裂のような激痛が走った。
(くっ……これが……諸刃の剣か……)
「ムッ!…何をしている!?その霊圧……!なにをした!」
陽炎の鎧は、友美の霊圧の変化に、今までにない動揺を見せた。
それは、銀次の霊力を吸収した陽炎の鎧にとってさえ、存在そのものを否定しかねない危険なエネルギーに違いなかった。
「陽炎の奴、明らかに動揺しやがった!…バカ孫!これは、いけるぞっ!今がチャンスだっ!!」
「いっけえーっ!ディバイン・ファランクス・ゼロ……究極の崩壊!!」
背中の白金の翼が、霊力負荷でガラスのようにひび割れながら、最大霊力を放出する。
それは、サイクロンのような収束や、霊子機雷のようなトラップではない。特定の空間座標を直接指定し、そこに存在する霊的エネルギーの結合構造全てを、一瞬にゼロに帰す、無差別な破壊光線だった。
「ズドオオオォォンッッ!!!!」
破壊光線は、空間の法則を書き換える暇を与えないほどの速度で、光さえも飲み込む完全な『無』へと転じた。
「ぐっ……!まさか、このタイミングでゼロ理論を完成させるなど……!」
陽炎の鎧は、空間ワープで辛うじてで直撃を避けたが、その過程で、奴が周囲に展開してた霊力ドームの一部が、空間ごと削り取られた。さらに削り取られた縁が繋がり大きな穴となる。
「聖也!今だっ!」
私は、全身の霊力回路が焼き切れる寸前の激痛に耐えながら、聖也に叫んだ。
「任せろ!」
聖也は私の誘導で、ドームに開いた巨大な穴へ躊躇なく飛び込んだ。同時に、アランの霊体が聖也のコードに結合し、伽耶の亜空間への侵入を援護する。
「虫ケラどもがぁーっ!させるかぁーっっっ!!!!」




