第35話 圧縮された光の刃
私は、アランを覆う透明なシールドに、自分の全霊力を集中させた。そして、幼い頃に父を守った鉄壁のプロテクターを、意識的に鋭利な武器へと変化させるイメージを膨らませる。
すると、それは矢を模した形状に形を変えていった。
「こっ、これはっ!!」
アランが、自身を包み込むように形状を変えていくシールドに目を奪われていた。巨大な矢となって彼を飲み込んだ強固なシールドは、その視界の全てを奪うほど圧巻だ。
そして、プロテクターの内側に溜め込まれた反発力が、今、神なる砲火へと転じる。シールドは防御壁から、圧縮された光の刃へと性質を変化させた。
…ディバイン・ファランクス!!…
私は、叫びとともに、アランの魂を覆う矢のシールドごと、リチャードの魂めがけて強烈に打ち込んだ。
シールドはアランの体を守りながら、そのままリチャードの魂を防御しているセピア色の霧に激突する。
「ズガァァァァァァァーン!!!!」
霊的空間全体が、耳をつんざくような霊気の爆発に揺れた。
リチャードの魂を包む靄は、ディバイン・ファランクス・アタックによって、一瞬のうちに打ち破られる。
…アラン!!!!…
「だっ!大丈夫だ、友美!!間一髪、ヒットする前に解除できたぞ」
セピア色の靄が打ち破られた瞬間、リチャードの魂の核が、むき出しのままそこに現れた。
「よし!友美、シールドを解除してくれ!俺がリチャードの魂に接触する」
…アラン…
「何をしている!彼の魂に干渉できるのは、今しかないんだ!!」
…わっ、分かった!!…
友美は、アランの魂を覆っていたディバイン・ファランクスを解除した。彼の安全を確保するための防御は、もう存在しない。
「父上!!」
「…アラン…お前…なぜ…!!」
リチャードの魂から、苦悶と驚愕の声が響く。アランの霊力は、彼の中核にあるシーカーズ・センスを生み出した部分に集中し、目覚め始めたその機能の破壊にかかった。
「父上、もう終わりです!これ以上、運命を狂わせるのをやめてください!!」
「狂わせるだと!?私は…私は真の適合者になるために…」
…あなたの目指した『真の適合者』は、アランや佐和子さん、ましてや、あなたでもないわ…
「だっ!誰だっ!!」
私は自らの魂を削るほどの力で、リチャードの魂に未来の記憶の断片を送り込む。佐和子の悲劇、そしてリチャード自身がゾンビとなって彷徨う未来の光景を…。
「なっ…なんだ、これは…」
…リチャード!あなたは、その探究心を、銀次に利用されたのよ…
「銀次だと…?陽炎の鎧!あの怨霊のことかっ!!」
…そうよ。やっぱり銀次のこと、知っていたのね…
「なぜ、そんなことまで知っている?貴様は何者だっ!!」
「父上、彼女は榊友美。未来からやってきた俺たちの子孫です。そして、彼女こそがあなたの求めていた真の適合者なんだ」
「なんだと!!」
…適合者って…アラン、どうしてそれを…
「さっき、友美が俺の魂に接触しただろ?その時、分かったんだ。君が未来のリチャードに狙われている理由は、そういうことなんだろ?」
「クックックッ……」
…リチャード!?…
「なるほど…なるほどなぁ…」
リチャードは、まるで思い出し笑いを堪える感じで、歓喜な感情を内に抑え込んでるように見えた。
(…どうしたんだ?…気でも触れたか…)
「面白い!…実に面白いぞっ!!」
「父上!もう、やめて下さい!!あなたは利用されているだけなんです!」
…アランの言う通りよ。銀次は最終的に、あなたの研究成果を全て奪うつもりなの…
「フン!!いいではないか!将来、ゾンビになってでも、私は究極の生命体を探求し続けることができるのか!いいことを聞いたぞ。なら、なおのこと、この魂だけでも死守せねばな…」
…なんだって?…いったい何を言っている…
「言葉通りだよ。未来の子孫…」
「…まさか!父上、残りの生命力すべてを使って能力を発動させる気かっ!!」
「その通りだ。息子よ!私の肉体はもう、ほとんど機能していない。じきに死に至るだろう。だが!我が精神は永遠だ。未来永劫、朽ち果てることはないっ!!!!」
(…狂ってる…)
私は根本的に常識を覆されたような気がする。将来的に銀次に騙されようが、ゾンビになろうが、彼にとっては、どうでもいいことで、1番に優先されるのは、永遠に研究者であり続けること…。
そして、リチャードの、ここまで狂気的な貪欲な探究心に恐怖さえ覚えた。
(この人は…いったい…。なんで、こんな偏った思考を持ってる。こんな人間が存在するなんて…)
その時である。またしてもセピア色の霧が辺りに立ち込めた。リチャードが最後の力を振り絞って発現させたシーカーズ・センス。決死のせいか、霧の濃さが、先ほどとは比べ物にないくらいに澱んでいる。
「させない!!!!」
アランは、再度シーカーズ・センスを発動させ、リチャードより先に自身の保護幕を彼に覆った。
「友美!また俺の魂にシールドを頼む!」
私は一瞬、それを傍観してしまった。アランが発した言葉が、正確に耳に入らない。
「友美!なにやってる!!聞いてるのかっ!!」
…はっ!…アラン!!…
アランの叫びで我に返った。
(なにしてんだ、私は…。しっかりしろ!榊友美!!)
…アラン、ごめん!…いくぞっ!私のシーカーズ・センス!!……ディバイン・ファランクス!!!!…
そう叫んだ次の瞬間、鉄壁のガードは、先ほどの矢よりも、さらに圧巻な質量を持つそれに変形した。
…いくよ、アラン。これで終わらせる。佐和子さんだけに十字架を背負わせるわけにはいかない!私たちも片棒を担ぐんだ…
「ああ。勿論だ。俺はさっきと同じ要領でディバイン・ファランクスがリチャードの魂を貫く直前に能力を解除する」
…分かった!今度は決意を持って、リチャードの魂を貫いてみせる!もう二度と復活できないように…
「友美、本当にありがとう。これで、やっとリチャードの悪行に終止符を打てる。すべて君のお陰だ」
…アラン、まだよ、まだ気を抜かないで!何か仕掛けてくるかもしれない…
「…大丈夫だよ。友美…彼は…リチャードは、魂もろともすでに…」
''息絶えているから''
…えっ…
ディバイン・ファランクスがリチャードの魂を貫くギリギリのラインに直面しても、アランは能力を解除しようとしない。
…アラーン!!何している!!早くシーカーズ・センスを解除するんだ!!このままじゃあー…
「いいんだ、友美。俺はリチャード…父上と一緒に罪を償うよ。君には本当に感謝している。俺に会いに来てくれて、本当にありがとう」
…駄目!!駄目だ、アラン!、あなたはこの時代に必要な人だからっ!!…
アランは何か物思いにふける仕草をみせた。
「そうだね…その…未来の俺に謝っておいてくれ。こんな結果になってしまって…」
…馬鹿っ!!何言ってるの!あなたが今、死んじゃったら未来のアランはその時点で消滅してしまうのよ!…
「友美、すまない…でも、これしかないんだ…」
ディバイン・ファランクスの刃は止まらない。リチャードのセピア色の保護膜を、ものともせず貫通し、アランの保護膜までも突き破ろうとした刹那、アランの、幽体を両手で優しく包み込んで、脇へ寄せるリチャードの霊体が姿を見せた。
…なっ、なに?…
「えっ?…父上?」
一瞬、笑みを浮かべたリチャードの抜け殻をよそに、ディバイン・ファランクスの聖なる刃は彼の魂を貫いた。その凄まじい衝撃に、地下施設全体の大気は揺れ、地響きが、しばらく止み終わらなかった。
「…父上…そんな…なんで、最後に…」
アランは愕然とし、腰から砕けてへたり込んだ。
そして…その数分後…。
静寂が戻り、やっと飴玉を舐め終え落ち着いた佐和子が、こちらに顔を向け近づいてくる。
そして、おもむろにアランの前に立ち、彼の脇腹に手を添え、初めて彼に言葉を発した
「この傷…痛いか?」
私は、その手に誘導されて、彼の脇腹に視線を移す。すると、その箇所だけ鋭利な刃物で切りつけられたような、鮮やかな切り口が残されていた。
おそらく、ディバイン・ファランクスの刃の軌道に若干、掛かっていたためにできた傷跡だろう。しかし、あまりの切れ味のため、出血はほとんどなかった。
(いや、違う。佐和子さんが手を添えただけで止血したんだ)
「佐和子…君は…」
戸惑うアランをよそに、彼女は地面に散らばる個包装の飴玉をひとつ取り、差し出した。
「あめ、なめるか?」




