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第33話 辿り着く結末

「アラン!時間がない。あなたの魂に接触するにはどうすればいい?」


 …私という存在は、記憶の世界の『核』だ。ダイブの続きは、先ほど友美さんが離脱した場所から始まる。君はその時の私の問いかけに応えてくれ!…


「そうか!あのポイントが、過去と現在の接点と言うわけね」


 …そうだ。しかし結果として、それが吉と出るか凶と出るかは分からない。だが、過去の私と接触できるのは間違いないと思う…


 私の背後、休憩所の辺りからは、激しい爆発音と霊気の衝突音が断続的に響いてくる。


(佐和子さんと聖也が、リチャードを食い止めてくれてる...絶対に無駄にはできない!)


「分かった!!行くよ!アラン」


 私は、自らの意識をアランの深層意識へと、強くダイブさせた。再び光の奔流に飲み込まれる。身体が分解され、膨大な情報の海へと溶けていく感覚。しかし前回と違い、今回は冷たい恐怖よりも確かな道標のようなものを感じた。


 ...友美さん、こっちだ...


 アランに先導され着地点に誘われる。彼の光は、前回のダイブ時よりも強く、鮮やかに感じられた。


 着地点は、地下施設の、あの【被験者No.2】のプレートが掲げてある…つまり当時の佐和子がいると思われる部屋の前だ。


 その隣り、【No.1】の部屋の前に目を向けると、若き過去のアランがこちらを見ている。


「...いるんだろう?そこに。一体、何をのぞいている...?」


(さっきの彼のセリフと同じだ。良かった…無事に目的地に着地したみたいだ)


「アラン!」


 私が思わず声をかけると、アランは、ビクッと肩を震わせた。彼は顔だけをこちらに向けて、いぶかしんでいる。


「...なんだ!?...誰だ、お前はっ!!」


(この時のアランは、まだ私のことを『不協和音』としてしか認識していない。彼も私と一緒で、疑心暗鬼という意味では同じ心境のはず。ならば…!)


 私は、自身のアバターを通して、改めて若きアランの魂に強く意識を集中した。


(シーカーズ・センス!上手く発動してくれよ)


「ザアアァァァァァァァーッッッ!!」


(まただ!あの時の砂嵐と同じ現象…しかし、これがアランの意識の防壁!?...だとしたら、今がチャンス!)


 私は、自身の肉体をアバターに集中させ、その腕を荒れ狂う砂嵐の向こうへ、力強く突き出す。そしてアランの魂に、重ね合わせるように静かに触れた。


 その瞬間、砂嵐は嘘のように消え去った。


(よし!)


 この瞬間を逃さず、彼の魂に語りかける。


 …私の名前は榊友美。アラン…聞いて。信じられないかもしれないけど、私、未来から来たあなたの子孫なの…


 シーカーズ・センスを最大限に使い、魂に直接情報を送り込むと、若きアランの身体に、わずかな震えが走る。


「なんだ?…今、確かに聞こえた。声が直接、脳に響いてくる。女性の声だ…榊友美?…子孫!?…えっ、ちょっと待て…榊?…榊だって!!??」


 アランの瞳は、混乱の色を浮かべた。彼の口元が微かに動き、なにごとかを呟く。


「...俺は...幻聴を聞かされているのか...?あるいはリチャードの新たな実験…なのか...」


 アランは、思い当たる自身の体験と、私の告白を重ね、真実を信じることを拒んでいた。


 …アラン!リチャードの実験じゃない!もし彼なら、『榊』という名を私に使わせないはずよ!…


 私はすかさず、彼が最も反応する「リチャード」と「榊」というキーワードを投げつける。


「...っ...!!」


 その言葉は、アランの心に突き刺さった。彼がリチャードから受けてきた屈辱を思い出し、私の言葉にわずかな信憑性を見出し始める。


 …いい?よく聞いて。私はあなたの息子、大成の孫にあたるの。今、私の住む未来の世界では、陽炎の鎧にゾンビ化されたリチャードが暴れている。だから、あなたに助けを求めて私はここに来た!…


「ゾンビ化?…リチャードだって?…えっ、ちょっと待て!その前!陽炎の鎧って言ったのかっ!!」


 …知ってるの!?…


「…ああ。奴は銀次の悪霊だ。…なるほど、そういうことか…」


 …じゃ、じゃあ、協力してくれる!?向こうの世界では佐和子さん達が、リチャードと戦ってくれてるの!!私を過去のあなたに会わせるために!!…


 私は、咄嗟に感情を爆発させてしまった。自分の気持ちを抑えることが出来なかったのだ。


 それを受けて、アランは目を見開いた。なにやら思考を巡らす素振りを見せ、どうやら腑に落ちたのか、途端に彼の表情が引き締まる。


「佐和子とは、誰のことだ」


 …えっ!?…あなた、勘付いていたんでしょ?隣りの部屋の彼女のことを…


「…隣りの部屋?…チヨの次の被験者のことか!?」


(そうか、アランはこの時点では、まだ佐和子さんの名前を知らないんだ…)


 …そうよ。そしてアラン、あなたは、リチャードの人体実験の副産物として、『シーカーズ・センス』を身に付けた…


「シーカーズ・センス…あの能力のことを言ってるのか?」


 …ええ。それで彼女のことを感じ取ってるのね…


「感じ取ってるだって…?だが、確かにそうかもしれない。なんていうか、隣の部屋から異質なエネルギーを感じた」


 …あなた、まわりに沢山の霊体が見えるでしょ?…


「どうして、それを…」


 …私も同じだから…


「君も、見えているのか?」


 …ええ。この能力は、規格外の高い霊感の持ち主にだけ発現するの。だから、どうしても日常的に霊を感知してしまう…


「つまり、それって…」


 …そう。私も同じ能力を持っている…それは、未来のあなたが私にくれたギフトなの…


 アランは再度、佐和子がいるであろう【No.2】の部屋に視線を向ける。


 彼の表情から、被験者への哀れみとは違う、戸惑いと、あらがいがたい運命の気配を感じた。


「分かった。陽炎の鎧...それが本当にリチャードの身体を支配しているのなら、君の言葉を信じよう」


 アランは、深く息を吐き、覚悟を決めた。


「未来から来た子孫...友美。君は俺に、なにを求めている?」


 ...ありがとう、アラン!私たちが必要としているのは、リチャードの『シーカーズ』覚醒の瞬間よ…


「!!リチャードもシーカーズ・センスを??」


 …ええ。でも、そのきっかけとなったのはアラン、あなたなの。彼は、あなたがその能力を手に入れたことをすでに気づいているわ…


「そうだったのか。注意深くしていたつもりだが、いつの間に…」


 …おそらくだけど、リチャードは、わざとあなたの部屋の隣りに、佐和子さんの部屋を用意したんじゃないかな…


「なるほど、で、俺がまんまとリチャードの策略に乗って、佐和子に反応してしまったというわけか。だが、残念ながら、リチャードがシーカーズの使い手に覚醒した瞬間を知らない」


 …そうなんだ…


「だが、どうしてそのタイミングがいいんだ?」


 …ここからは予想だけど、おそらく、それが佐和子さんがリチャードを殺害した瞬間だからよ…


「殺害...佐和子が...リチャードを?...」


 アランは驚愕の表情を浮かべたが、すぐにその表情を引き締めた。運命の全てを受け入れたかのように。


 …実際、リチャードが、いつ能力を開花させたかのか分からない。けど、彼のゾンビ化を食い止めたい…


「それは、未来のリチャードの存在を抹消するってことだな…」


 …アラン、ごめんなさい。あなたに協力してもらいたい一心で…もっと言い方があったのに。今のあなたには耐えがたい事実だったわ…


 アランは真っ直ぐ私のアバターを捉えていた。


「友美、気にしないでくれ。責めるつもりはないんだ。…そして君がさっきより鮮明に見えるよ。現実の君は、そんな感じなんだね。非常に美しく、気高い。さすが、我が子孫なだけはある」


 アランの思いがけない言葉に、思わずアバターの顔が赤面するのを感じた。


 …なっ、なに言ってるのよ…こんな時に…


 アランは笑みを浮かべ、穏やかな表情を浮かべた。


「友美、君はすごく純粋で澄んだ心を持ってるね。もう、この一瞬だけで、君という人間がどんな人か分かった気がする」


 …アラン…


「リチャードは…父上は、結局、自身の研究に殺されてしまったのか。だが…いずれ、辿り着く結末だったのかもしれない」


 私は自分のことばかり主張して、この時代のアランの気持ちなんて、実はこれっぽっちも考えていなかったんじゃないかという、自己嫌悪に苛まれていた。けど、そんな私にさえ、若きアランは全身全霊で向き合ってくれた。


「君を100パーセント信じるよ。リチャードの覚醒時は断定できないが、要するに佐和子がリチャードを殺めたと同時に、彼のシーカーズ・センスを無効化すればいいんだろ?」


 …ごめんなさい…私、自分勝手なことばかり言って、あなたの気持ちを考えようとしないで…


 アランは口角をさらに緩めて満面の笑みを浮かべた。


「俺の、この現実世界では、やはり直接、俺がリチャードのシーカーズ・センスに干渉することがベストだと思う」


 …それは、私が!!…


「いや、君はこの世界ではアバターだ。干渉能力は断然、俺の方がある。いいか、友美!俺に考えがある。リチャードの魂への接触は俺がやる!俺がくさびとなり、奴の覚醒を食い止める。君はシーカーズ・センスで、俺の魂を守ってくれ!」


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