第31話 誤算から生まれた真実
…仕留める…だと?…記憶の中でか?…
「そうだ。だが、この作戦の鍵を握るのは友美だがな」
「ちょっと待ってよ。アランは私のアバターのこと、透明人間として認識してただけでしょ?そもそも触れられるの?」
「もちろん、物理的な接触が可能なのか確かめる必要がある。まず友美、お前はアランの記憶の世界で、物に触れてみろ。ドアでも壁でもどこでもいい」
…そういえば、当時、一度だけ、誰かから肩に手を添えられた気がして振り向いたことがある…その時は気のせいだと思ったが、感触が妙にリアルだったのを思い出したよ。結局、誰もいなかったが…
「それが、私のアバターだったの?」
…いや、当時の私が友美さんの存在を知るはずがないし、今の今まで、そのことすら忘れていたんだ…
「そうなんだ。ところで…ねぇ、アラン。ちょっと衝撃的なことがあったんだけど…」
…ん?なんだ?…
「アランって、私のひいおじいちゃん…なの?」
…そうだが…言ってなかったか?…
「…えっ!!なにそのリアクション。さも当たり前みたいに…。私、かなり驚いたんだけど!!」
「友美、榊大成がお前の祖父なのは知っているな?」
「無法者…だよね。もちろん知ってるわよ。聖也…あなたのシルバーコードに記憶されてあったから」
(あっ、そういえば、あの時、アランは何か私に言おうとしていた。それって、もしかして、私に曽祖父だって打ち明けようとしてたのかも…)
「でも、アラン…どうして大成はあなたの息子なのに、榊って姓なのよ?」
「それは私が答えるわ」
佐和子が即座に対応した。彼女はアランを一瞥すると、再び私に向き合う。アランの口から言わせるのが、酷なことだとすぐ理解できた。
「大成は、リチャードに連れ去られたあと、ある産婆に預けられたの。そこで16になるまで育てられた」
…そして…そのあと、バトラーの策略で、大成の身柄は榊一族に委ねられたんだ…
「アラン…」
その時の…アランの身を切られる想いを考えると、胸が苦しくなった。
「そうだったんだ…ごめん、思い出させてしまって。あと…佐和子さん?」
私は佐和子に視線を一瞬だけ向けた。さらに言い淀よどんでいると、察したのか彼女が口を開く。
「友美さん…チヨさんのことでしょ?」
「えっ!あっ…いや、その…」
「いいのよ。気を使わないで。私とアランが出会う前のことだから」
「ごめんなさい…。じゃあ、チヨさんが私の曽祖母ってことは、香織さんと大成って…」
「腹違いの兄妹ってわけだ」
聖也はそう言うとアランを睨みつけた。
「まったく…。おい、アラン!お前、リチャードに洗脳されてたって自覚はあったのか?」
…そっ、そんなことはー…
「ないって言いきれるのか?チヨと一緒になったのは、全て自分の意思で決めたことだって言い切れるのか?」
「聖也、やめろ!!それ以上、アランを侮辱するなら、私が相手だ」
佐和子が一歩前に出る。
「フン!!やるのか?俺はいつでもいいぜ」
「二人共、やめて!!今は、他にもすべきことがあるはずよ。それに聖也!あなた…言い過ぎよ。チヨさんだって、あんなに酷いことされて…。あっ、ごめんなさい。佐和子さんだって…」
私はアランの記憶にダイブした時に見たチヨさんのことを思い出した。
「いいのよ。さっき、見たでしょ?チヨさんが被験者No.1で、私がNo.2よ。お互い売られた身なんだけど、私は当時のこと、ほとんど覚えてないの」
「どういうことですか?」
「私…一度、自我が崩壊したの。13歳の時だった。その後なの…アランと出会ったのは…」
…佐和子、もういい。それ以上は…
「いいえ、アラン。これはリチャードを倒すための核心よ。それにリチャードのシーカーズについて、思い当たることがあるの」
「リチャードのシーカーズだと?誰だか分かるのか?」
「慌てるな、聖也。思い当たることがあるだけだ。それを確かめたい」
「じゃあ、今度、私は佐和子さんの記憶にダイブすればいいのね?」
「いいえ。今、思えばあの時の私は、伽耶さんの身体に芽生えた新生命体と同じ状態だった。私の記憶にダイブしたところで、自分の身体の変化のことで、頭がいっぱいになってて、それどころじゃなかったはず」
「佐和子!お前の確かめたいことって何だ?」
「ここからは、あくまでも私の推測だけど、実は、リチャード自身がシーカーズじゃないかって思ってる」
「奴がシーカーズだと?その根拠はなんだ?」
「根拠?そんなものあり過ぎるわ。聖也…お前は知ってるか?当初アランに対して行った実験の成果が、リチャードの思惑からズレてたことを…」
「成果だと?リチャードの研究は、商業的なシャーマンの大量生産だ。実験は全て失敗に終わったんじゃないのか?ズレていたとは、どういうことだ」
(商業的なシャーマン??…なんだ、それ?)
「本来の成果を得るという意味では、実験は間違いなく失敗だ。奴の目的は半永久的に霊との憑依状態を保つことのできる『適合者』の育成だからな。つまり、聖也!お前が伽耶さんにしたこと同じような実験を、リチャードはこの地下施設で繰り返し行ってたんだ」
(そんな…。チヨさんも佐和子さんも、そんなことのために…)
「フン!それがどうした。だが、佐和子…今、問題なのは、アランに対する実験結果だ。つまり、そのズレが根拠だって言いたいのか?」
…その先は、私が話そう。リチャードの私に対する、様々な実験は、尽く失敗に終わり、私はリチャードに不適格の烙印を押されてしまった。
しかし、その結果、思わぬ副産物として、ある日突然、ありとあらゆる霊の識別が可能になったんだよ…
「なるほどな。つまりアラン、その時から、育成すら必要としない生粋の『適合者』を見つけ出すレーダーを、能力のひとつとしているシーカーズ・センスを得てしまったというわけか」
…その通りだ。全ては誤算から生まれた真実だ。そして、私はそのことをリチャードに悟られないように振る舞っていたはずなんだが、どこかのタイミングでバレてしまったようだ…
(それって、私のアバターがアランに見つかった時だ!!)
「ねぇアラン、私、あなたの記憶にダイブしている時に聞いたんだ!リチャードの呟きを!」
…リチャードの!なんて?…
「えぇっとね、あっ、そうそう、《アランの奴、すでに覚醒済みだったとはなまさか、私を欺いていたとは》って言ってた」
…そうか…やはり、バレていたか…なら奴はそれから、理論付けて自らのシーカーズの覚醒を目指し会得したと解釈すれば、全て辻褄があう…
「そういうことか…なるほど。あの時の違和感の正体が明確になってきた。確かに私は奴を殺したが、その時、何か違和感を感じたんだ」
「違和感って…もしかして…」
私は直感であることが頭に浮かんだ。
「佐和子さん、もしかして、それって…」
「そう、リチャードの身体は、完全に機能を停止していた。だがその直前に、奴の魂に、いきなり強い霊的な靄がかかったのが見えた」
…シーカーズ・センスが、発動したってことか?…
「おそらく…。しかもその時、私たちの他には誰もそこにいなかった」
「アランが初めて佐和子さんに会ったのはいつなの?」
…まさに、その時だ。だが、私が地下施設に着いた時には、まだリチャードは、生きていた…
「つまり、アランの記憶に、全ての状況証拠が詰まっているってことだな。おい、アラン。ひょっとしてお前が、リチャードのシーカーズって可能性もあるんじゃないのか?」
「聖也!馬鹿なことは言わないで。アランに限って…」
「ないとは言い切れないぜ。アランが着いた時、まリチャードは、生きていたんだろ?しかも自分の父親だ。疑うには十分すぎる理由だ」
…聖也、いい加減にしろ。シーカーズ・センスを一つのことに限定して使っていたら、その間、他には使えない。お前も分かっているはずだ…
「チッ!バレたか…。さすがにお前のことを馬鹿にし過ぎたな。悪かったよ。しかし、意外と冷静だな。もっとパニくると思ったぜ。パニックになってたのは、友美だけか」
「悪かったわね。それにしても聖也、あなた、ほんと性格悪いわね。とても伽耶ちゃんと姉弟と思えないわ」
(それにしても、あの聖也が謝るなんて…)
「伽耶とは義理の兄妹だ。血は繋がっていない」
「分かってるわよ…」
「そんなことより…」
聖也は、アランに向き合った。
「友美!アラン!準備はいいか?」
私は顎を引き、頷いた。
「いいわ。やはり佐和子さんの違和感を証拠に変えるには、アランの記憶に頼るしかなさそうね」
…分かった。では、友美さん頼む…
その瞬間、休憩所の外、リチャードが先ほど入っていった、間仕切り壁に仕切られた部屋から、雷鳴のような強烈な霊気の乱れを、そこにいる全員が、感じ取った。
「これは、リチャードか!!おい、アラン!奴が動き出したぞ!!」
「友美さん。リチャードがこっちに来るわ。早く!」
「分かった。じゃあ、アラン。もう一度、あなたの記憶にダイブするわ。それから、佐和子さん!聖也!」
「了解したわ。ここでリチャードを食い止めてるから、その隙にお願い。いいわね…聖也!!」
「俺に命令するんじゃない。チッ!また、お前とタッグを組む羽目になるとはな」




