第8話 工藤 辰巳と鳳雷
「う~ん……次々とアナウンスが流れている所を聞くと、全員無事そうだが……一体ここは何処だ?」
スポーツ刈りを少し伸ばした感じの短い髪をかき上げながらタツミはつぶやいていた。すると先程までどうやっても開かなかったドアが不意に開いた。
「やぁやぁ、君が『工藤 辰巳』君だね。私の名前は『稲葉 黒兎』と言うものだ。一応ここの司令官を務めさせて頂いている。」
40代ほどに見える少々厳つい顔、短く無造作に斬られた黒髪の体格の良い男性が自己紹介しながら深々と礼をする、そしてそのまま先程までの明るい声とは全く違う声で謝罪を始めた。
「申し訳ない。うちの部隊の者が君達に精霊弾を誤射してしまってね、回復や処置をする必要が有ってここに連れて来た。」
そう言って顔を上げるとタツミの方へ手を差し出した。
「急な事で申し訳ないのだが、色々と後遺症等の検査も含めて協力してもらいたい。その後の君達の自由はある程度は保証させてもらう。」
その言葉にタツミは怪訝そうな顔をして問い返す。
「精霊弾? ある程度は保証? つまり他言無用にするってのは何となく解ったけど、こちらの疑問にも答えてくれるのか?」
「聞いた分だけ君達の自由が減る事になるが良いのかね?」
「ズルい言い回しだな。それこそ皆と話し合わなきゃダメな内容になるじゃないか。会わせてくれるのか?」
腹の探り合いの様な雰囲気をタツミが醸し出すが、その様子を察した稲葉は笑いながら軽い口調で答え始めた。
「安心したまえ、私達は国家機関だ。国に害を及ぼさないのならば何も制限する気はない。まぁうちの部隊はトップシークレットだから情報漏洩だけは許す事は出来んがね。それにお友達も、もうすぐ来るだろう。」
その言葉と自分か聞いたアナウンスの情報を噛み合わせて相手の目的を疑り深くタツミは考え始めた。
「先程のアナウンスでSランクとか言ってたな。それに何で精霊たちの名前が出て来る? それにこの施設は精霊力が濃すぎる。どう言う事だ?」
「ああ、ここは私達の部隊の基地でね。隊員の能力測定を随時感知しているのだよ。その上で彼らはデータベースに登録されてしまったようだ。そしてここは対精霊部隊、訓練や検査の際には施設内の精霊力は濃く出来るんだ。」
稲葉はウソはついている様には感じない。だが何かを隠しているとタツミは感じた様だ。
「俺はアナウンスされないが、俺は戦力外って事で良いのかな?」
「君が精霊を召喚するか、《《それに準じる物》》を召喚すれば登録されるだろうね。」
稲葉の言い回しにタツミは怪訝そうな顔をする。そしていつの間にか稲葉の声が若い少年の声に変わっていたのだった。
「アンタ、どこまで知っているんだ?」
「そうだね……君達が普通の高校生と違う経験をしてきた事位かな?」
「どうやって知った?」
「それはトップシークレットと言う奴さ。まぁ別に悪い様にする気は無いさ。」
「信用しろと?」
「そうだね、ボクは誤魔化す事はしてもウソはつけない。」
「!!!?」
「おっと、当分はこれは君とボクの間だけの秘密だよ。」
会話が止まると、稲葉は懐から懐中時計を取り出した。その瞬間から空気が変わったのをタツミは感じて咄嗟に距離を取って身構える。
「ボクはね、精霊使いじゃない。」
「だろうな。」
「ここでは『神器』使いと言う事になっているのでよろしく頼むよ。」
「この!」
タツミが叫ぶと同時に稲葉の姿が消える。高速移動したとかそう言う物ではなく、純粋に消えたのだった。直後にタツミの背後に現れると首元へ手刀を繰り出すが、殺気を感じたタツミも反射で躱して距離を取り直す。
「気配が完全に消えた!」
「ご名答。そしてワシの神器は『時の跳躍』と呼ばれておる!」
いつの間にか野太い男性の声に戻っている稲葉に違和感を覚えつつもタツミは冷静に情報を処理していく。
「呼ばれている……ね。そして『神器』と言っている事は……」
「察しが良いガキは大好きだぞ!」
「普通は逆だよ!」
声が響く同時に稲葉の姿が消え、再び背後に現れる。死角に来ると予測していたタツミは瞬時に前方へ逃げてある物をイメージする。
「この精霊力の濃度が有れば召喚できるのか? だった来い! 『雷帝刀・鳳雷』!」
叫び声と同時に不思議な事に天井から雷がタツミに落ちると雷を纏う。そして手を前に出すと雷が集まり一本の日本刀の形へと変化していった。
「それが君の神器『雷帝刀・鳳雷』か……素晴らしい。」
「ちなみに威力も見たいか?」
「いや、必要無いと察してくれているのだろう?」
「こっちの察しが良いと思うのはズルくないか?」
「ズルいのは大人の特権だ。検査はコレで終わりだ。」
稲葉はそう言って懐中時計を懐にしまうとアナウンスが流れた。
『警告、警告 個体名『工藤 辰巳』と神器『雷帝刀・鳳雷』を認識しました。 ランクExTended。各国への通達を開始します。」
くり返されるアナウンスを呆然と聞いていたタツミはしばらくして我に返ると、稲葉の胸ぐらを掴んで揺すりながら抗議を始めた。
「おい! 各国へ通達って何だ!?」
「あ~ExTended、通称「神器使い」はSSSよりも上でね。全世界でも10人居るかレベルなんだよ。なのでExTendedに関してだけは報告義務が有るのさ。ちなみにワシも同じでね、一つの国に2名も居るとなれば世界での発言力も変わって来る。」
稲葉の言葉を聞いて、その意味を理解したタツミはワナワナと震え出した。
「さすが察しの良いガキだ! ちなみにSランク以上の数で国家間のパワーバランスが変わるので全員ある程度は協力をお願いする事になるぞ。今までワシとSランクの問題児2名だけだったから助かるわい。」
背伸びしながら出口へ向かう稲葉の様子を見てタツミはハメられたと気付いたが、実際にはもっと深い所までしてやられている事に気付くのはすぐの事だった。




