第7話 クリューエル=ノバンス
「さて、かなり騒々しい事になってるようで……。みんなのアナウンスも次々流れてるから、今は待っていた方が良いかな?」
アッシュグレーの髪色に自然に耳が少し隠れる位に伸びている髪をセンターパートで分けている。目は穏やかで少しだけ中性的なイメージを受ける好青年、エルはアゴに手を当てながらウロウロとしながら部屋の中で考え込んでいた。
「ヒジリさんから始まり、リィムさんまで精霊を召喚した様だから……俺も呼び出せるのかな?」
エルは自分の両掌の見つめながら呟くが、少し特殊な事情が有ると言いたげな表情だった。
「おやおや、貴様はまだ精霊が呼び出せていない様だな。確か名前は……『栗生《く
りゅう》 エル』と言ったか。」
頑丈に閉ざされていた扉が開くと同時に目つきの悪い長髪の男が入って来た。
「貴方がここに俺達を連れて来た人ですか? 一体何の目的で?」
「ふん、これから殺される貴様に冥途の土産として聞かせてやるか。」
長髪の男、桐生はゆっくりとエルに近づきながら言葉を続ける。
「ただの事故だよ。バカな部下が下位精霊を駆除しようとして精霊弾を貴様たちに誤射したのだよ。そしたら君達、普通は全員風船が破裂する様に死ぬはずなのに生き残りやがった。」
桐生の説明を聞いてエルは顔を少ししかめる。
「誤射だと? そんな物騒な物を使ったのか?」
「新人の精霊具使いだったのだよ、まぁ事故は権力で揉み消すさ。我ら対精霊災害特殊部隊『スピリット・ディザスター・レスポンス・チーム《Team》』通称『スディレット』の権力は議会よりも強い!」
聞き慣れない言葉にエルは首をかしげた。機密部隊だとしたら聞いた事が無くて当然だが議会よりも強い権力と言う事に疑問を持った様だ。
「貴様らは自然災害は普通に起こる物だと認識しているだろうがそうでは無い! 全ては精霊達によるパワーバランスの乱れや暴走で起きているのだ! 我らはそれを防いでいるのだよ。そして同じような部隊が世界各国に有り、その部隊の力は国家権力と比例するのだよ!」
「……これってドッキリとかですか? 今のテレビは一般人にもやるんですね。」
エルは理解が追い付かないのか付近にカメラが無いか確認を始めた。
「ガキが! 真面目に聞け! 俺の言ってる事は事実だ! 貴様達が知らないだけで実在する部隊だ! 俺達は精霊力を行使して自然災害から国民、しいては世界中のトラブルに対処しているのだ!」
「その割には……発言が軽薄に見えるんですが?」
「貴様! 日本のスディレットNo2でSランク精霊使いのこの私を馬鹿にするか!」
「Sランク? さっきからアナウンスでSとかSSとかSSSとか言ってる様に聞こえましたが……SSSの方が上では?」
エルが冷静にツッコむと桐生の額には青筋が立ち始める。
「ああ、そうだ! だから私は自分の権力を守る為に! 精霊と契約する前に貴様たちを排除するのだよ! 『桐生 樹』の名において誓願奉る! 顕現せよ!『接天主』!」
桐生が叫ぶと同時に土埃が舞い上がると、段々と人の形を成して行く。そして古代の日本人の男神によくある髪型のいかにもと言った男の精霊が具現化したのだった。
「上位精霊? それが貴方の力ですか。」
エルは接天主の方を見据えると冷静に観察を続けていた。対照的に桐生のテンションは上がっていく。
「貴様に精霊を召喚される前に殺してやるよ! さぁ接天主! 俺の体を使って目の前の敵を殺せ!」
「ふむ……相手の実力も見定めれない主を持つと苦労する。後悔するなよ。」
接天主はエルを見つめると大きく溜息をついて桐生の手を掴むと再び土埃が舞いあがり二人の姿が消えると接天主の姿だけが残っていた。
「同調契約……しかも人間の方の意識が無い? 余程低レベルな契約だな。」
「ふむ、理解して下さるか。だがコレも日ノ本の国を護る為。決して私利私欲では有りませぬ。」
接天主はエルに敬意を払う様にお辞儀すると土埃を再び舞い上がらせて一つの鉄の剣を具現化したのだった。
「行きますぞ!」
気合の入った声と同時に土埃が舞上がり部屋全体を包み込んで視界を封じた。
土埃の中を接天主は自分の領域と言わんばかりに駆け出すとエル目掛けて鉄の剣を背後に回って振り下ろす。
「試すか……『風の具足』解放!」
エルが声を上げると同時につむじ風が巻き上がると、そこへ振り下ろされた鉄の剣は空を切ったのだった。
「風の精霊術!? そして速い!」
土埃の流れを見て、エルがどこへ移動したのかを瞬時に察知した接天主は即座にその方向へ振り向く。
「遅い、遅すぎる。『風の手甲』解放。「風刃掌」。」
振り向いた時には既に懐に飛び込んでいたエルの両腕と両足には土埃の為か、ハッキリと圧縮された風が纏っているのが見えた。
その圧縮された腕の風が一つの塊となって接天主の腹部へと撃ち込まれる。しかし上位精霊の意地と言わんばかりに瞬時に鉄の鎧を具現化して直撃を防ぐが、同時に鎧は粉々に砕け散ると壁まで吹き飛ばされた。
「何と言う威力……この鋼鉄の鎧を一撃で砕き、尚且つこの威力。せめて貴方様の精霊のお名前をお聞かせください。」
接天主は今の一撃で満身創痍になり、せめてと言って同化しているであろう精霊の名前を問いただした。しかし返って来たのは意外な言葉だった。
「すみません、俺の契約精霊は居ません。全て俺自身の精霊術です。」
「バカな!? ただの人間がこの様な力を……もしや先祖に精霊が?」
「多分無いです。俺は純粋な人間ですよ。ただ生い立ちが少しだけ特殊なだけかな?」
エルの言葉に理解が追い付かない接天主だったが、しばらくすると満足気に笑い始めた。
「はっはっはっは! これは愉快! 何千年と人の世に影響を与え続けた精霊がただの人間に負けるとは! これぞ人の可能性と言うものか!」
その様子をエルは引き気味に見ていたが小気味良い笑い方に、先程までの桐生と比べると全然マシと思えた。
「人の可能性たる子よ、本当の名前を教えてくれないか? 桐生が先程呼んだ名前は本名ではあるまい。精霊はウソに敏感じゃからの。」
「そうですね、貴方になら名乗りましょう。『栗生 エル』は仮の名前です。本名は『クリューエル=ノバンス』です。」
「クリューエルか、良き名じゃ。お主の様な者に後事を託せるなら安心じゃ。この桐生は悪人じゃから、このまま司令官の『稲葉』に引き渡して下され。彼は信用できる人物ですじゃ。」
接天主は満足そうに言い残すと、土埃が舞い上がると同時に天井に吸い込まれる様に消えていった。その後には気絶した桐生がだらしなく横たわっていた。
『個体名「栗生 エル」確認しました。 精霊未確認……推定戦力よりSSランク「精霊術士」に登録します。』
(やれやれ、精霊は確かに居ないけど……武器を出したらどうなるんだろ?)
館内にアナウンスが流れるとクリューエルは苦笑いをしながら桐生を抱えると部屋を出て行った。




