第5話 三上 悠輝とアラスティア
『個体名 『六波羅 凪』と契約精霊『パティス=ミュート』を認識しました。判定Sランク。データベースに記憶します。』
施設内の放送が鳴り響くと、おさげ髪の少女、ユキは自分の体の感覚を確かめる様に背伸びをした。
「ヒジリちゃん、レン君に続いてナギのアナウンスが流れたという事は……間違いなく全員が連れて来られてる様ね。」
少女は無機質な機械が並んでいる部屋を観察しながら、寝ていたベットから体を起こす。
「この感覚は……さっきのアナウンスを聞いた限り間違いないようね。」
少女は体の感覚を確かめながらも施設内に満たされている精霊力を感じていたのだった。
「居たぞ! 既に起きている! 精霊と契約される前に始末しろ!」
急にドアが開くと兵隊たちが部屋へとなだれ込んで来た。その様子を落ち着いたままの表情で少女は見ていた。
「多分使えるわね……『悠久幻輝結界』発動。」
少女が手を前に出すと同時に目を開けられない程の眩しい光が部屋の中に満たされた。そして兵隊たちは次々と平衡感覚を無くして倒れていった。
「精霊術が使えるという事は……来なさい! 『アラスティア=サルファ』!」
叫ぶと同時に光が一点に集中していく。そして光の中からユキそっくりだが髪と瞳が黄色の人影が現れたのだった。
「久しぶりだなユキ。普通は自分で精霊術を使う前に私を呼ぶのではないか?」
「うっさいわね。確証が無いのに呼んで、万が一出て来なかったら恥ずかしいじゃない! 相変わらず空気を読まないんだから。」
「な……何を言うか! むしろ精霊術が発動しなかったらどうするつもりだったんだ!? 見た所、この兵隊の様な人達は銃を持っているではないか。失敗してたらむしろハチの巣にされてたのではないのか?」
アラスティアと呼ばれた精霊は倒れている兵隊たちを指差して指摘するが、ユキと呼ばれた少女はその可能性に気が付いてから顔が青ざめていた。
「ほ、ホラ。それは何と言うか……そういう細かい事を気にしたらダメよ。結果オーライなら良いじゃない!」
「良く無いだろうが! 毎回毎回、もう少し考えて行動する様に注意していただろうが! いつになったらその無鉄砲さは治るんだ!」
「うっさいわね! アンタこそ毎回毎回、小姑の様に指摘ばっかりして! アンタの場合は慎重すぎて何もしないだけじゃないの!」
「ユキの場合は無鉄砲すぎるんだ! 誰かが止めなければいけないだろうが!」
二人の口論はヒートアップしていくが、その間にも兵隊たちは素早く回復し、隊列を組みなおすと銃を構えたのだった。
「油断しているうちに……撃て!」
号令が掛かると同時に一斉に発砲が始まる。弾丸の雨は確実に二人を捉えたが、その全てがすり抜けた。
「当たっているのにすり抜けた?」
「え? コレって実弾銃だよな? 何でケガ一つしないんだ?」
「精霊弾に切り替えろ!」
兵隊たちはマガジンを差し替えると再び合図と共に発砲するが、同じように幻でも撃っているかの様に体をすり抜けて奥の壁に弾丸が吸い込まれて行った。
「話しているのにうっさい! 銃声で会話が成立しないでしょ!」
「いや、むしろ黙らせてからの方が良いのではないか?」
「そうね、たまには気が合うじゃない。同化するわよ。」
「了解した!」
二人は向かい合って手を握り合うとアラスティアは光の粒になってユキの中へと吸い込まれて行った。
「もう一回『悠久幻輝結界』!」
光が部屋を再び覆い尽くす。兵隊たちは流石に2回目は学習したのか光を直視しない様にして不調をきたさない様にした。
「行きなさい! アラスティア!」
「おう! 『輝く武器庫』!」
ユキの髪と瞳が黄色に変化していく。体がアラスティアに切り替わるとその手には光のモーニングスターが握られていた。
「え? 何だあれ?」
「同化した!? 覚醒したばかりなのに!」
「無理だ! 逃げよう!」
「バカモン! 逃げるな! 撃て!」
悲鳴、怒声が入り混じる状況でアラスティアは冷静に光の鉄球を振り回し始めた。
「ちゃんと受け身を取れよ! でないと死ぬぞ!」
「いや、殺しちゃダメでしょ!」
ユキのツッコミを無視してアラスティアは次々と振りまわした鉄球で兵隊たちを吹き飛ばしていく。
吹き飛ばされて壁に打ちつけられる者、足や腕の骨を砕かれる者、逃げようとして背後から打たれる者と様々だったが、全員が鉄球の餌食となって地面に横たわるのに時間は掛からなかった。
「安心しろ、死んでない筈だ。後でゆっくり治療してもらえ。」
「いやいや、どう見ても重傷者が居るじゃないの! もう少し手加減してあげなさいよ!? どうせ私の精霊術で位置誤認してるから相手の攻撃は当たらないのに!」
「ふむ……ユキにしては珍しく相手に優しいな? どうした?」
「相手が人間だからよ!? 下手に殺したら大変だし、大怪我負わせても後々面倒なのよ! 色々と法律ってもんが有るの!」
「あ、ここは人間界だったな……すまない、失念していた。申し訳ない……」
注意されると露骨にへこみだすアラスティアだったが、それと同時に再び施設内にアナウンスが流れた。
『個体名 『三上 悠輝』と契約精霊『アラスティア=サルファ』を認識しました。判定SSランク。データベースに記憶します。』
アナウンスを聞いたユキは少し気まずそうな表情になると独り言を呟いた。
「レンやナギがSランクなのに私がSSランク? これって絶対に会った時にねちっこく言われる気がするんだけど……」
「そうなのか? まぁ私の実力が認められたなら嬉しい事だな。」
「アンタ……本当に気楽ね。」
能天気に喜んでいるアラスティアを横目にユキが再び表に出ると付近を観察しながら誰かと合流する為に移動を開始したのだった。




