第4話 六波羅 凪とパティス
「うん、嫌なニオイだわね……そしてこの感覚は間違いないわね。」
ナギは施設内に響く警報音で目を醒ますと、何かを感じたのかベッドから起き上がり周囲を確認する。
「あの時以来の嗅覚が戻って来たと言う事は……ここは精霊界? それにしては施設の機械感がどう見ても人間界だわよね?」
ふんわりとした長いクセッ毛を一つのお団子に纏めた少女は、タレ目から来るどことなくゆるい表情とは裏腹に頭脳は勢い良く現状を処理していた。
「やってみるわよ……『風の知らせ』。」
意識を集中させるとゆっくりと少女に集まる様に凪いだ風が流れ込んで来たのだった。そして大きく鼻で息を吸うと目を見開く。
「ヤッパリ精霊術が使えるわね。そして物凄い殺気と恐れをもった人達がたくさんいるわね。そして……全員いると言う事は私達は銃で撃たれた後、この施設に運び込まれたって事?」
考え込んでいると警報と共にアナウンスが流れた。
『個体名 『火神 聖』と契約精霊『ティルレート=アルセイン』を認識しました。判定SSSランク。データベースに記憶します。』
「ヒジリちゃんと……ティル? 何で?」
ナギは再び考え込んだが、自分に迫って来る殺意を感じると何をすべきかを一瞬で判断した。
「と言う事は……居るんだわよね? 来なさい! 『パティス=ミュート』!」
もはや直感でその名前を呼ぶと、付近の空気が集まって風が巻き起こる。それは段々と強くなり小さな竜巻の様になったかと思うと弾け飛ぶ。
弾け飛んだ後の場所には少女と同じ姿格好で髪と瞳が薄緑色の精霊がたたずんで居た。
「ひっさりぶりねー! ナギ~元気にしてた? 私は相変わらずいっつも元気だよ~! いや~懐かしいねぇ! 最近はガラント位しか話を聞いてくれなくてさー、もう少しみんなパティちゃんの相手をしてくれても良いと思うん……」
精霊が口を開くと同時にマシンガンの様なトークで一方的にしゃべり倒して来た。その様子をウンザリとした表情で見ていたナギと呼ばれた少女はパティスのおでこに全力でチョップを打ち込んだ。
「ぎゃ!? 痛いじゃないの! 久しぶりに会ったんだから感動の再会とかないわけ!? ちょっと酷くない? 精霊虐待で訴えるよ!?」
「やっかましいわよ! 出てくれば相変わらずやかましい事この上ない精霊だわよね! 少しは黙るって事が出来ない訳!?」
「やかましいならティルやガラントだって一緒じゃない! 何で私にだけ厳しいのよ!」
「自分の精霊位さすがに躾けるわよ! それとアンタはあの二人と違ってウザさに定評が有るわよ! わかる!? やかましい+ウザいがアンタなの!」
「ウ……ウザ……ウザい!? ちょっと酷くない!? こんなに可愛くて愛嬌の有る性格なのにウザいってどう言う事よ! ちょっと訂正して!」
二人はまるで幼馴染の様な口喧嘩を始めると、しばらくの間続いた。そしてその様子を途中から来た兵隊たちが呆れた様子で眺めているのだった。
「小隊長……アレって精霊ですよね?」
「ああ……そうだと……思う。」
「精霊ってあんなに威厳が無い物でしたっけ?」
「少なくとも、桐生隊長や霧崎副官の精霊とは全然違うな……。」
「何か親近感が湧く精霊さんですね~」
「ハッ! しまった。雰囲気に流されたが我々の仕事を遂行するぞ!」
小隊長が我に返ると全員に構える様に指示を出す。そしてそのまま発砲指示を出しだ。
「ケンカ中に割り込むとはいい度胸しているわね! パティ! 任せるわよ。」
「ケンカ!? ケンカと言うよりも一方的な虐待じゃないの!」
文句を言い合いながらも二人は手を握るとパティスがつむじ風の様に変化して行きナギの体の中へと消えていく。
そして二人が同化するとナギの髪色と瞳が薄緑色に変化していくのだった。
「ファイアー!」
合図と同時に大量の弾丸がパティスを襲う。パティスは慌てる事無く両手をまるで銃を構える様に前に出すと一気に風が集まるのだった。
「行くわよ『風銃使い』・連射モード!」
見えない風の銃を具現化して襲い掛かるマシンガンの弾に空気を圧縮した風の弾丸を次々と打ち返していく。
パティスに当たるであろう軌道の弾丸は全て撃ち落とされ、外れる弾丸は全て無視されて後方の壁へと撃ち込まれる。その異常な光景に兵隊たちは段々と手元がおぼつかなくなっていく。
「どう言う事だ!? 精霊術とは言えマシンガンの速度の弾丸を撃ち落とす!? それに全ての軌道を読み切っているのか!」
小隊長の驚きの声と同時に弾幕をすり抜けた風の弾丸が兵隊たちの銃を撃ち落として破壊していく。武器を失った兵隊はすぐに予備のハンドガンに持ち替えるが間を持たずして撃ち落とされて行くだけだった。
そして数分の打ち合いの後、パティスが打つのを止めると同時に兵隊たちの装備はコンバットナイフを含めて全て狙撃によって破壊されたのだった。
「う~ん、絶好調ね! さっすがパティちゃんよね! ホラ、アンタ達もそう思うでしょ? 今なら賛辞を送ればちょ~と痛い目だけで済ましてあげるんだからね?」
パティスは片目をつぶりながら話しかけると、現状とのギャップに恐怖を覚えたのが蜘蛛の子を散らす様に逃げ出し始めた。
「や、ヤッパリ精霊使いに勝てるわけ無い!」
「死にたくない!」
「見た目で判断しちゃダメだった! やっぱりバケモノだ!」
各々が恐慌をきたした言葉を並べながら逃げる。
「カッチーン! 誰がバケモノだ! こんな可愛い精霊に向かって酷いでしょ! そこになおれ!」
パティスは次々と逃げ戸惑う兵隊たちに弾丸を打ち込むと気絶させていく。そして最後の一人を撃ち終わるとゆっくりと髪色が元に戻って行くのが見えた。
「相変わらず狙撃の腕は間違いないわね。」
「当然じゃない! 人殺しの趣味なんて無いもんね!」
「まぁ当然だわよ。」
ナギが辺りを見回すと同時に通路の奥から知っている人物が来る事を嗅覚が告げていた。
「ナギちゃん! 無事……の様だね。」
「相変わらず手加減ないな……」
「ヒジリちゃんも無事の様ね、ってレン! アンタは彼女に対して第一声がそれってどう言う事だわよ!」
ヒジリとレンが通路を抜けてナギの元へ到着するとそれぞれが声を掛けるが、レンの発言にナギが喰って掛かると同時に右ストレートがレンの腹にめり込んだ。
「相変わらずだな……安心したよ!」
「普通はもっと心配するものだわよ! 何でアンタはこういう時に限ってデリカシーに欠けるのよ!」
「あの二人は相変わらずの様ね……安心したわ。」
「アルセイン。何か違うと思うんだけど……」
二人のやり取りをヒジリが見ていると中からティルが懐かしそうに語りかけていると、再び施設内に放送が鳴り響いた。
『個体名 『六波羅 凪』と契約精霊『パティス=ミュート』を認識しました。判定Sランク。データベースに記憶します。』
「ナギも俺と一緒でSランクか。」
「何で安心したような表情をしているのよ?」
「いや別に? 一緒で嬉しいなーってな。」
「私は索敵系がメインだわよ!? 攻撃系と一緒にしないでよね!」
再び痴話ゲンカが始まろうとした時、後ろから遅れて来た3人の兵士たちが説明を始めた。
「聞いた話っすけど……ランク判定は人間の能力が参照されるのはAランクまでで、Sランク以上は人間と精霊の総合能力が参照されるって長官が言ってったっす。」
「精霊の力を充分に引き出せるだけの器が有るのかを求められるのが人間の方ですので、同じSランクでも格差は有りますね。」
「つまり、どっちかだけが優秀でもダメという事です。」
その説明を聞いて二人は何となく納得した様子でケンカが終わったのだった。




