第2話 火神 聖とティルレート
警報が鳴る施設の中で、腰まで伸びた長髪を背中で一本に束ねた少女、ヒジリが堅いベッドの上で幸せそうに眠っていた。
「う~ん……えへへへ……」
だらしない表情で寝言を言っている様だが、そんな雰囲気とは裏腹に部屋の入り口には3名の精霊具を装備した兵士達が突入する準備を整えていた。
「いいか、相手はSランクと誤認定されたらしい。誤認定など、日本の威信を下げる様な事は有ってはならない! 相手は自信過剰になって居るだろうから今のスキを狙って排除する。」
「小隊長、本当に誤認定なんですか? 珍しくないっすか?」
「バカモン! 桐生隊長が言う事は絶対だ! 恐れ多い事を言うな!」
「そうよ! そんな事を言って姿が消えた人がたくさん居るんだから!」
「マジっすか……Sランクは治外法権なんすね。」
「ただ、精霊と契約して無いSランクは我々Aランクと変わらん! 道具が無ければただの人間だ! 行くぞ!」
「小隊長……自分でSランクって認めてるっすよ?」
「「…………」」
3人は気乗りしない様子で突入のタイミングを計っていた。その様子を何か別の存在が見ていたのだった。
(ヒジリ、起きなさい。)
「ん~もうちょっと……」
その何かは寝ているヒジリの脳内に語りかけていた。しかし余程熟睡しているのか起きる気配はない。
(いやいや、もうちょっとじゃ無くて起きろって言ってるの!)
「アルセイン……少しうるさいよ……」
(半端に名前呼ぶ位なら起きなさい!)
「だって眠いんだもん……寝ないと体を壊すよ?」
(起きないと命に関わるのよ! 早く起きて『私』を呼びなさい!)
扉が静かに開くと、3人がゆっくりと中の様子を警戒しながら軍隊の動きで散らばると、ベッドと包囲するように手を構えた。
3人の手には各々の色に輝く腕輪が装着されていた。そして腕輪が光り輝くと広げた手の前に火球と電気の球、土の棘が具現化されたのだった。
(ヒジリ! 早く! 私の名前を呼んで! あ、タツミが……)
「え? タツミ君!?」
(好きな男の名前ならすぐに起きるのかい!)
タツミの名前を聞いてヒジリは慌てて跳び起きた。その様子を見た隊員達は慌てて術を撃ち出そうとする。
「ヤバイ、起きた! 撃て!」
「「イエス! サー!」」
撃ち出された瞬間、ヒジリは驚いた表情を浮かべながら咄嗟に身構える。そして更に声は呼びかけた。
(早く私を呼んで! 今ならそっちに具現化出来るから!)
意識がハッキリしたヒジリは声の主を本能的に理解した。そして自分の半身の名前を大声で呼んだ。
「来なさい! 『ティルレート=アルセイン』!」
叫ぶと同時にヒジリに精霊術が全て命中して爆発を起こした。
「やったか! 流石にSランクと言えども無防備なら即死だろう!」
「小隊長……今、何か名前を呼んでいませんでしたか?」
「先輩……それってフラグって奴じゃないっすか?」
「それ……私が思ってても言わなかったのに、何で言うかな?」
爆発の煙が収まる始めると、そこには先程のまでの少女が無傷で居たのだった。いや、一つだけ違う点が有った。
長い髪と瞳が薄紅色に変化していたのだった。
「そうねフラグよね。まぁ、精霊と契約して無い精霊使いなんてただの人間なのは同意するわ……でもお生憎様。ヒジリは私と既に契約しているのよ。」
先程のまでの少女とは違う声が辺りに響く。3人は引きつった表情をしながらも再び構えて精霊術を発動させる。
「今度は全力で行け! どう見ても精霊と『同化』している! やらなければ俺達が死ぬぞ!」
「死にたくねぇっす!」
「こんな所で死にたくない!」
必死に力を振り絞っている様子の3人をティルレートは呆れた様に眺めていた。
「あのね……これでも陽気でカワイイ精霊のつもりなんだけど?」
「アルセイン、普通は自分で言わないと思うんだけど?」
「良いじゃないの、別に殺そうとなんて思って無いんだし。」
「小隊長……何かあの精霊さん優しそうっすよ?」
「バカモン! ここで生き残っても桐生隊長に殺されるだろうが! 撃て!」
「死にたくないよぉぉぉぉ!」
絶叫が聞こえる中、3人の精霊術は撃ち出されたが、ティルレートは指先に小さな火の玉を3つ作り出すと軽く弾く様に撃ち出した。
小さな火の玉と各自の精霊術がぶつかり合うと全ての精霊術が綺麗に消え去っていたのだった。
「あ、あんな小さな火の玉で俺達の全力の精霊術を?」
「あの子絶対に桐生隊長よりヤベーっすよ。」
「小隊長……降伏して命乞いしましょうよ!」
自分たちの全力を軽々と相殺した精霊を目の前にして3人は混乱の極みに達していた。その様子を不服そうな表情でティルレートは眺めていた。
「だ~か~ら~私は別に殺そうとして無いって! 物騒な事言わないでくれる? と言うか……むしろ何でこの施設はこんなに精霊力の濃度が高いの?」
「答えます。だから私達を守ってくれませんか?」
「失敗した時点で鬼畜な隊長に殺されるっす。」
「自分はどうなっても良いので部下の二人は何とか助けてやってください。」
話がかみ合わないのに少しずつイライラを募らせているティルレートに変わってヒジリが冷静な声で質問を始めた。
「わわ、わ、私は人間の方の『火神 聖』です。こ、この子は火の精霊の『ティルレート=アルセイン』です。わ、私が皆さんの安全を守りますから教えて頂けませんか?」
「ああ、呼ぶならティルって呼んで。みんなそう呼ぶから。アルセインって呼ぶのはヒジリ位なのよね。」
「に、人間の意識が同居している?」
「マジっすか? 桐生隊長の時は精霊が主体で分離するまで意識が出たの見た事無いっす。」
隊員たちは驚いた表情をしていたが、ヒジリとティルは逆に不思議そうにしている。
「そう言う物なの? 別に体の主導権は有るけど、意識はどっちもしっかりと共有しているわ。」
「もしかして……精霊との『命名契約』? ほら、稲葉司令官が前に言ってたじゃないですか!」
「そう言えば言ってたな……桐生隊長と霧崎副官は『同調契約』で、司令官は『命名契約』と、そして精霊のポテンシャルをより引き出すのは『命名契約』と。」
「じゃあ、このお嬢さんこんなツエー精霊様と『命名契約』してるんすか! すっげーっす!」
隊員たちが騒いでいる間にティルの髪色が黒に戻り、ヒジリが表に出て来た。
「とと、と、取り敢えず話が進まないので、い、今の状況と、な、何故アルセインを召喚出来たか教えてもらえませんでしょうか?」
ヒジリはどもりながらも照れ臭そうに話しかける。これは彼女の元来の人見知りの性格が出ている為だろう。
「急に人見知りって感じの少女っすね……さっきの精霊様と大違いっす。」
軽口な隊員は後ろから二人に思いっきり頭を叩かれた。二人から余計な事を言って機嫌を損ねるなと言うオーラが出ている。
「あ、あの……そろそろ話しを……ほ、他の皆も心配だし……」
取り敢えず話を進めようとした瞬間、先程の警告音と同じ無機質な声が施設内に響き渡った。
『個体名 『火神 聖』と契約精霊『ティルレート=アルセイン』を認識しました。判定SSSランク。データベースに記憶します。』
「「「へ? SSSランク?」」」
間の抜けた3人の表情と意味を理解出来ないヒジリとティルが暫く呆けていたのは言うまでも無かった。




