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第15話 水面月華

 4人が参道を進んで既に1時間程経過していた。木陰になっているとは言え、この時期の山道にしては涼しく快適に登れたのだった。


 さらに予想外だったのは一番年寄りのカエさんが一番元気にしている事だった。慣れない山道でレンとナギはバテ始めていた。


「カ、カエさん元気だわよね……」

「俺も体力には自信有るけど……俺より元気だよな?」


「慣れじゃよ、山道もそうじゃけど歩き方ってもんが有るんじゃよ。全て経験の差だから気にしない方がええ。」


 カエは二人を慰める様に大きく笑いながら先を進むと、しばらくして何かが祀られている祠が見えて来た。


 稲葉が祠を開けて中に祀られている封神具を見ると、卵状の人の頭位有りそうな石に注連縄しめなわが巻かれていた。そして石には小さなヒビが入ってるのも確認できたのだった。


「ふむ、かなり精霊力が漏れ出し始めているな。山の雰囲気も少し良くないし、影響が出始めてしまったか。」


「影響って……もしかしてさっきから感じている妙な敵意の事かしら?」


 ナギが確認すると稲葉は静かに頷く。


「二人とも霊装銃を使用してくれ、レン君はこちらに来てくれ。『月華』を解放するから彼と会話してくれ。ナギ君は強い精霊力に寄って来る下位精霊の排除を頼む。」


「敵意の正体は下位精霊って事? 何で寄って来るんだわよ?」


 銃を上着の内側から取り出し、召喚の準備をしながら確認する。


「上位精霊の精霊力が漏れ出すと一時的な濃くなった《よどみ》の様な物から下位精霊が発生するんだ。下位精霊は更なる精霊力を捕食しないと消滅してしまう。」


「だから大元であるこの場所に集まって来るって事? だから索敵系の私を呼んだ訳ね。」


 ナギは意味を理解すると祠を見渡せる位置に移動して霊装銃を構える。


「来なさい! パティス=ミュート!」

 

 引き金を引くと頭部が一瞬だけ激しく揺れる。そして先端だけ茶色に染めた黒髪が薄緑色へと変化していく。


「おぉ、姿形は変わらんのに髪色は変化しとる……義祖父の言った通りじゃ。」


 カエはその様子を見て感激している様だった。切り替わると早速パティスは周りをキョロキョロし始めた。


「おーおー、ひっさしぶりだね~レン。この前はちゃんと話せなかったもんね。で、この強そうなオジ様は誰? あ、こちらの可愛らしいお婆ちゃんも紹介してよ!」


 パティスは体から滲み出る陽気さを隠す事無く、次々と人の前に言っては言葉をまくし立て始めた。


「お~お~、元気な精霊様じゃて。ほんでめんこいのう。カエと申しますじゃ。今回は義祖父の精霊、月華様の再封印のお手伝いをお願いしますじゃ。」


 カエは目の前に来たパティスの両手を掴むと嬉しそうに微笑み、自己紹介をすると深々と頭を下げた。


「めんこい?」

「ああ、この地方の方言で可愛いと言う意味だよ。」


 パティスが不思議そうに首をかしげると、稲葉が説明を入れる。意味を理解したパティスは更に上機嫌になるのだった。


「ありがとー! そんな風に言われたらパティちゃん頑張るからね! まぁ元々頑張らないとナギにどやされるしね。」


「パティ、余計な一言が多いと黙らせるわよ?」


「またまた~、久しぶりに出て来たんだから少し位許してよ~……ってナギ、内側に居るのにその表情はやめてくれないかしら? 怖いんですけど!」


「だったら少しは大人しくしなさい! ちょっと許すとすぐに喧しいんだから!」


「私は喋らないとストレスが溜まるんだもん! 良いじゃない!」


 一人漫才の様になっているパティスをレンと稲葉は呆れた表情で見ていたが、気を取り直して稲葉はレンに合図を送る。


「良いかね? 解放して契約するまでに持てる時間は30分程度だ。それ以上は周りに被害が出る。」


「分かった、それ以上かかるなららアンタが排除するって事だな。」


 稲葉が頷くと同時に、覚悟を決めた表情でレンは霊装銃で自身の頭部を撃ち抜くと体中に精霊力が漲るのを感じた。


「顕現せよ! 『水面 月華』!」


 稲葉はそれと同時に封神具を精霊力を込めた拳で打ち砕く。するとモヤが立ち上り一人の軍服を着た青年男性の姿の精霊が現れたのだった。


「久方ぶりの現世か……ハルは居るのか?」


「ハル? 誰の事だ? それよりも時間が無いんだ。俺と再封印の間だけで良い、契約してくれないか?」


 月華は誰かを探す様に辺りを見回していたが、遮る様にレンが声を掛けると明らかに不服そうな表情になる。


「俺は和夫との約束しか興味はない、ハルは何処だ!」


 怒声共に水の刃が宙に具現化すると勢いよく襲い掛かって来るが、レンも素早く水の刀を具現化して切り落とす。


「聞く耳持たずかよ!」

「精霊との同調契約には理解が先だ! 力は話す為のキッカケに過ぎない!」


 稲葉のアドバイスを聞いて、レンは唖然とした顔をする。


「解放する前に情報寄越せよ! ハルとか言われて解る訳無いだろ!」

「先入観を捨てて会話するんだ! でなければ知らない精霊だった場合どうする!」


 レンは焦りながらも対話するしかないと判断して質問を返した。


「すまない、ハルって言うのは誰だ? 俺で解るなら協力するから教えてくれないか?」


 月華はレンを睨み付けたまま口を開く。


「ハルは和夫の孫だ。アイツとの最後の約束だ……子孫をこの地で守って行くと。ハルは元気なのか! もし時が経ち過ぎているならばその子孫達はどこに居る?」


 意味を理解したレンは道中の話を思い出してカエの方を振り向く、しかしカエには月華の姿が見えていない様だった。


「カエさん! 見えて無いのか?」


「上位の精霊は才能が足りない者には認識出来ない。カエさんはDランク職員だったから月華程の精霊は認識する事が難しい。むしろ認識してしまうと精霊の圧に精神が負けてしまう。」


 レンが驚いていると稲葉が説明する。つまりはカエは月華を見えていないし認識出来ていないと言う事なのだった。


「カエさん、月華はここに居る。ハルって人の事を聞いているが何か知らないか?」


 カエは封神具が壊れただけにしか見えて居ないのか、辺りを見回しているだけだったが、レンが手を差し出した方を見ながら、何かを察した様だった。


「ハル……春雄さんの事かの? 月華様、そこにおられるんですか?」


「お主、知っているのか! ハルは息災か!?」


 カエの言葉に今度は月華が反応するが、精霊使いの才能の無いカエには月華の言葉は届いていなかった。


 パティスとの会話が成立したのはナギと言う肉体の依り代が有るからで、実体を持たない今の月華とは無理とレンは即座に理解した。。


「月華、彼女と話したいなら依り代として俺と契約してくれ、カエさんとの話の間と再封印までの間だけで良い。」


 レンの再度の言葉に月華は不服そうな表情をする。


「断る、貴様の素性も知らん! 貴様が代弁してあ奴との会話を成立させたら考えてやる。」


「分かった、カエさん。月華はハルは元気かと尋ねている。多分その春雄さんって人の事で間違いない様だ。」


 返事を聞いたカエは驚きながらも頷く。


「春雄さんは……夫は去年亡くなりました。」


「なん……だと? そんなに年月が……いや、夫と言ったな。貴様はハルの妻なのか? 子孫達はどうしておる!?」


 月華はハルが亡くなったと聞いて動揺しているのが感じ取れた。それと同時に激しく精霊力が乱れ始めると、パティスの警戒のレベルが引き上がるのだった。


「レン、落ち着かせて! 乱れた精霊力に下位精霊達が一気に寄って来てる!」

「パティ! 連射モードに! 数が異常よ!」


 二人の声が響くと同時に前方からイタチの様な水の下位精霊が数体現れるのが見えた。


 パティスは両手に見えない風のハンドガンの様な物を具現化すると圧縮した風の弾丸をイタチ目掛けて次々と撃ち込む。


「次! 上方から4体、9時の方向から8体! 時間差で17時の方向から6体!」


 ナギの指示が次々と飛ぶと、パティスは器用に体をひるがえしながらハンドガンで近付いてくる下位精霊を撃ち抜いて行くのだった。

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