第14話 土地神の精霊
3人はとある地方都市の駅に降りるとローカル線に乗り継いで、緑で覆われた山の集落が有る無人駅に降り立った。
「さて、ここが今回の目的地だが……大丈夫かね?」
稲葉が唖然としている二人に問いかける。
「いや、こんな平和そうな所と言うのが意外で……」
「逆に考えれば自然豊かだからこそじゃないわよね?」
二人はどこで誰が聞いているかも解らないのだから、言葉選びに時間をかけている様だった。
「半分づつかな? まぁ迎えが来たから、後は車の中で話すとしよう。」
稲葉は駅に向かって来る一台の車を指差すと、駅前の土がむき出しの駐車場に止まる。他の車が皆無なので思いっきり駅に横づけだった。
「久しぶりやねぇ、まぁ乗りなさんな。今回は若いのも連れて来とるんか。」
「ああ、今回は彼らに頑張ってもらう予定だ。」
「なんや、アンタの子供じゃないんか?」
「今だに独身貴族さ。むしろカエさんの孫達は大きくなったのかい?」
「もうとっくに成人してひ孫もおるさね!」
運転席から窓を開けて元気の良いお婆さんがニコニコ顔で挨拶すると、稲葉も気さくに返事をする。その様子は二人は唖然とした様子で見ていた。
「え? ひ孫って……あのお婆さん何歳? どう見ても70位にしか見えないわよ?」
「よっぽど早ければ可能性も有るが……普通に考えたっら80以上だよな?」
「見た目や活舌の良さ、運転を見ると……どう見てもそうは見えないわよ。」
「な~にアンタら言っとるん? 私しゃ今年で92だよ! そんなに美人だなんて褒めても何も出んよ!」
カエさんと呼ばれたお婆さんは二人のコソコソ話を確実に聞き取っていたのか、大声で語りかける。
「え? 聞こえてた!?」
「絶対に92歳に見えないわよ!」
「はっはっは、良い子達じゃねぇ。ホラ、稲葉。早う乗りぃ。」
驚いてる様子を余所に、豪快にカエさんは乗るように促す。稲葉が助手席に乗ると、レンとナギは後部座席へと乗り込んだ。
「では現場まで状況を話しながら行こうか。このカエさんは元スディレットの職員で今は現地協力員をやってくれている。」
車が砂利道の農道を走り出すと稲葉が説明を始めた。
「買いかぶり過ぎや、偶然こっちに派遣された時に旦那に一目惚れしてここに残っただけなんよ。もう60年以上も前の事や。」
「ああ、始まったな……カエさんの惚気話が始めると1時間は終わらん。先に任務の話をして行こうじゃないか。」
「よし、この話は帰り道でやね。お嬢ちゃんの方は聞きたそうな顔をしてるもんねぇ。」
カエは豪快な話口調で歳を感じさせる事は無かった。昔の恋バナを聞きたがっていたナギは身を乗り出していたが、稲葉に話を止められて残念そうな表情をしている。
「今回はこの地方に祀られている『水神様』の封印が綻び始めている。それの再封印か排除が目的になる。」
「再封印か排除だと?」
「人間界に顕現した精霊を『封神具』で閉じこめてたのが封印だわよね? つまり封神具にも耐用年数が有るって事かしら?」
「そうだ、封神具にも耐用年数が有る。恒常的に変わらないのは精霊の性質だけで、人間界で作られた道具には寿命が有る。再封印が出来ない場合は排除せねば災害が起きてしまうからね。」
二人の質問に稲葉は淡々と答えるが、逆にカエの表情は少しづつ曇っていた。
「再封印は同じ属性の精霊使いが一度『同調契約』してからその身に宿して、封神具に精霊力を移し替える必要が有るんじゃが……長らく日本は精霊使い不足が酷くてのう、海外からの応援が間に合わない事も有り精霊の数も減っておるんよ。」
「そう言えば……この前の桐生と霧崎の二人しか他には居ないと言ってたもんな。」
「人材不足も甚だしいわね。」
レンとナギはそれぞれ何か思う節があったのか、先程までと違って真剣な面持ちで話で聞いていた。
「精霊が減るとどうなるんだ?」
「そうだね、そもそも何で精霊は人間界に顕現すると思う?」
「質問を質問で返すのはズルいと思うわよ。」
「すまない、だが答えはある程度は自分で考えないといけないからな。」
稲葉の含みのある言い方に二人は少し考えてから答えた。
「人間界の精霊力のバランスを保つ為?」
「だったら災害は起きないだろう?」
「じゃあ、ただの偶然とかかしら?」
「それも考えずらい。そもそも何故そんな現象が起きる?」
「まさか……誰かが意図的に呼んでいる?」
レンが冗談交じりで言うと稲葉は深く頷いたのだった。
「そうだ、元々人間が身勝手に呼んだものだ。神降ろしの儀式、雨乞いや豊作祈願の祭り……いや祀りと言った方が正しいか。人間の身勝手なしわ寄せで精霊達は呼び出される。」
「そうじゃね。でも中には人間好きな精霊様もおってねぇ、運良く御神体として機能する封神具が近くに有れば、自ら入ってくださってその土地の守り神となってくださるんじゃよ。」
カエが稲葉の辛辣な言葉をフォローする様に口を挟んだ。
「稲葉、アンタはもう少し言葉を選びなさ。全ての精霊が嫌々で来てる訳や無いんや。逆に来たがってる精霊もおる。若いのも分かるじゃろうて?」
「そうだな……少なくても全部がそうじゃない事は知ってるさ。」
「そうだわね、精霊の性格も千差万別だものね。」
二人は少しだけ頷くとカエは静かに頷いて説明を続けた。
「今回のは帰還者の精霊様でね、契約者が亡くなる前に自ら封神具を使ってここら一帯の土地の繁栄に精霊力を使ってくださっておるんじゃ。」
「カエさん、帰還者の話はダメだろう?」
「何を言っておるんじゃ。この子達も帰還者なんじゃろ? 雰囲気で解るわい。」
稲葉が渋い顔で咎めるが、カエは気にする様子は無かった。すぐに言い当てられた二人は驚きながらも質問を返した。
「何で分かったんだ?」
「ふふふ、何でじゃろうねぇ……アンタらの雰囲気が帰還者の人に似とったからかもしれんのう。」
「その人と会った事が有るの?」
「ああ、なんせ旦那の祖父じゃったからのう。」
カエは笑いながらそう言うと、少しづつ昔話を始める。
「その方の名前は『水瀬 和夫』と言ってのう。契約精霊は『水面 月華』と名付けられててのう。写真でみた義祖父の若い頃の姿そっくりじゃった。ああ、義祖父もスディレットの隊員だったねぇ。」
「逆算すると120年位前と言う事だわよね? そんな昔からスディレットって存在してたの?」
ナギは色んな意味で驚いていた。そんなファンタジーの存在を肯定して対策する様な部隊がそんな昔から有ったのかと。
「国際的な繋がりが発生してから『スディレット』と名乗る様になったが、昔は『陰陽師』とか言われていた組織になるんだ。歴史は長く、それだけ人が自然と共に生きてきた証拠でもある。」
稲葉が目を外に向けると、二人もつられて外の風景に目をやる。外の夏の日差しと水田と山々が織りなす景色がまるでその精霊の加護を表している様に感じる。
「今回は『水面 月華』の再封印になるのだが、レン君には『同調契約』を月華と結んでもらい、そのまま新しい封神具に移して欲しい。」
「え? 俺が? 既にガラントと契約してるのに、これ以上契約なんて出来るのか?」
想定外の事に慌てて確認する。自分達の役割がパワープレイの退治仕事がメインと思い込んでいただけに想定外過ぎたのだろう。
「同属性との一時的な同調契約なら大丈夫だ。契約の際の誓約に再封印までと言の葉を紡げば君達なら耐えられるだろう。そしてナギ君はボディガードだ。今回の戦闘はナギ君に一任になる。」
「え? 索敵系の私がボディガードって……嫌な予感しかしないわよ?」
ナギも不得意な戦闘を担当するとは思っていなかったので不満そうにしている。
「そうだな、君達の適正はこちらでも調べておいたが、『前衛戦闘』がタツミ君、レン君、エル君だね。そして『後方攻撃』がリィム君、ヒジリ君、『索敵』がナギ君、『オールラウンダー』がユキ君と理解しているつもりだ。」
「何か……ユキのオールラウンダーの表現には少しイラっとするけど、まぁ確かにそうだわね。」
「相変わらずユキに対しては妙な対抗心を燃やすな……」
「別にそんなんじゃ無いわよ!」
さらに不満そうな表情になったナギを、レンが呆れた顔でツッコむと更に不服そうにするが、ユキに突っかかるのは昔の行動の名残なのだろうと理解していた。なので本当に仲が悪い訳でないのも全員が分かっていたし、むしろ仲良しの部類である。
「さて、着いたよ。ここからは祠まで徒歩じゃけぇ、頑張りんさい。」
カエが車を止めると、そこには山の中腹まで続きそうな石階段と鳥居が続いているのだった。




