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第13話 最初の任務

 その後7人は普段通りの生活を続けていた。正確には期末試験間近で学生の本分を全うしているとも言えた。


「レン~ここってどうなってるの? 全然わかんないわよ。」

「相変わらずだな……どこから解けない?」

「えっと……」


 レンとナギは放課後の教室で勉強会をしていた。この二人はクラスも違うが、あまりの目立つ行動で校内でも公認のバカップルになっているので、誰も邪魔せずにその場から居なくなるのが暗黙の了解になっていた。


 だが、それを破るのがユキだった。


「あ、やってた。ねぇ、私にも教えてよ! 全然わかんないんだけど!」

「うっさいわね! ジャマすんな!」

「だって学年上位のレン君に教えてもらった方が確実じゃない!」

「だったらバイト先の颯太さんに教えてもらえばいいわよ。」

「颯太さんは仕事で忙しいし、試験終わるまでは顔出すなって!」


 二人の言い合いが初まると、レンは天を仰いで目を閉じる。


(うん、俺の勉強時間はどうなるんだろう……)


「と言うか、ユキは火神に見てもらった方が良いんじゃないか?」


 レンは負担を減らそうとヒジリへと矛先を向けてみる。


「ヒジリちゃんは……タツミ君の赤点回避に色々と問題を作ってるから、今回は時間が無さそうなの。」


 レンは渋そうな顔をしながらその光景を思い浮かべている様だった。


「タツミ……アイツ少しは成績が上がって来たと思ったら、火神にそんな事をさせていたのか?」


「いや、ヒジリちゃんの場合は世話好きだから、タツミ君が悲鳴を上げているのを無視してやってる気がするわよ。」


 頬をかきながらナギが引きつった笑いを浮かべている。


「ナギの言う通りね。それが正解。だからレン君! お願い! 助けて! 数学と物理がヤバいの!」


「物理ならナギに教えてもらえ! 物理と化学だけなら俺よりも優秀だ!」


 負担を減らそうとレンも少々躍起になる。だがユキが即座に否定した。


「ダメに決まってるでしょ!? ナギの説明なんて抽象的過ぎて全く理解出来ないんだから! ゲームとかは理論的に説明する癖に勉強を教える才能は皆無なんだからね!」


「ちょ! アンタ何を言ってるんだわよ! 自分の理解力が足りないだけでしょうが!」


 口論が始まり、その様子を諦めた表情のレンが眺めていると急に聞き慣れない着信音がレンとナギの携帯から鳴り出した。


「コレは……まさか?」

「ぇ? だとしたら何で二人だけなのよ?」


 不思議に思いつつも二人がメッセージを開いて内容を確認すると、その表情がドンドンと曇って行くのが見えた。


「えっと……問題無い範囲で教えてもらえるかしら?」


 ユキが気まずそうに尋ねると、二人は気怠そうな声で返事を返して来る。


「明日からナギとペアで仕事らしい……場所が隣県って……」

「普通テスト前の週末にぶち込んで来るなんて、常識を疑うわよ。」


 内容を聞いてユキはポカンとしていたが、意味を理解して素っ頓狂な声を上げた。


「え!? 私の勉強はどうなるのよ!?」


「そっちかよ! 自分で何とかしやがれ!」

「むしろユキより成績が悪い私の方が問題だわよ!」


 結果的に一番悲壮な表情を浮かべていたのはナギだった。その様子を見たユキは諦めてヒジリの方へとお願いに行く事にしたのだった。


 ちなみに7人の学力は下記の通りになる。


 レン>ヒジリ>>>ユキ>>ナギ>>リィム≧クリューエル>>タツミ


 単純にレンとヒジリの成績が良いだけでユキは普通よりやや上、ナギが平均。リィムとクリューエルは平均よりやや下、赤点キングがタツミである。




――――――翌日―――――――


「……で、待ち合わせが何で新幹線のグランクラスの貸し切りなんだ?」

「初めて乗ったけど……贅沢だわよ。」


 二人が驚いた様子で車内を見回していると、先に座っていた稲葉が二人を中央の席へと手招きしていた。


「来たね、こっちだ。指示通り朝食は取って来てないね?」

「ええ、食べないで来たわよ。」


 返事を聞いた稲葉は無線を使うと暫くして3人が座った席へと軽食が運ばれて来たのだった。


 しかし軽食とは言ってもその中身は明らかに高級そうな盛り付けのホタテや、ローストビーフ。魚白身をソースで添えた物等だった。


「そう言う事か……この前はタツミが気を利かせてくれたからな、これは強制の食事なのか?」


 レンはその意図を深読みして稲葉に喰って掛かるが、ナギは意味を理解出来てない様だった。むしろ前回と言い、目の前のご馳走をお預けを食らう事に少し不機嫌そうにしていた。


「安心したまえ、この前の様な贅を凝らした物ではない。これは普通にグランクラスで出て来る一般サービスだ。まぁ普通の物よりは少し贅沢かも知れないがね。」


「どう言う事? レン、いい加減に私にも分かるように説明して欲しいわよ?」


 二人のやり取りを見ていたナギがいい加減にしろと言わんばかりに不機嫌な表情で問い詰め始めた。


「そうだな、お前が普段一番飲む物は何だ?」

「え? そうね、紅茶かしら?」

「普段はどんなものを飲んでる?」

「普通のスーパーの特売のパックの紅茶だわよ……知ってるわよね?」


 質問の意味を理解出来ないナギは更に不機嫌そうになるが、ここでレンは普段の意地悪そうな表情では無く、至極真面目な表情だった事に気が付いて憤りを抑えた。


「最高級の紅茶を飲んだ後に、普段の紅茶が飲めると思うか?」

「え? 多分だけど、余韻に浸りたいでしょうから飲まないわよ。」

「じゃあ、いつでも最高級の紅茶が飲めるなら、普段の紅茶を飲むか?」

「え……あ!?」


 そこで初めてナギも意味を理解した様だった。すぐに稲葉をジト目で睨み付け出した。


「贅沢を覚えさせて、特権を普段から利用する様に仕向けてたって事? そうすれば私達はドンドン拒否権が無くなるわよね。」


「そこにすぐにたどり着け。それに、最高に美味いもんの味を覚えたら……普段の家族との食事が不味く感じちまうぞ? 一番大事な時間の味が台無しになる。」


 レンの言葉を聞いて稲葉は嬉しそうな表情を浮かべると再び無線で指示を出した。


「聡明な子供達だ。そして説明を聞いて自制出来るナギ君も素晴らしい。試す様なマネをして申し訳ない。桐生達の様に私利私欲に駆られる者はもう要らなかったものでね。」


 稲葉が頭を下げると、乗務員らしき人が来て料理を下げる。そして代わりに今度は様々な駅弁とお茶が持って来られた。


「さて、今度は正真正銘の普通の駅弁だ。高校生には少し贅沢かも知れないが、流石にこれは問題なかろう? 好きな物を選びたまえ。」


「そう言う事なら遠慮無く……ってナギ。お前何個食べる気だ?」

「え? 普通に2,3個はいけるでしょ? レンも人より食べるでしょ?」

「いや、お前は空気を読めよ……」

「うっさいわよ。ハイ、レンはお肉好きだから牛焼肉弁当でしょ?」

「いや、チョイスは良いけどな……あ、海鮮弁当狙ってたのに!」

「そこはレディーファーストよ。諦めなさい!」

「食い意地だけは誰よりも張りやがって!」


 いつもの夫婦漫才が始まると、稲葉は大きく笑って楽しそうにする。


「はっはっは! 構わんよ。電車と駅弁は旅の醍醐味だ。気にせず楽しみたまえ。足りなければ追加しようじゃないか。仲良くて結構だ。」


「そう言ってるわよ! 良かったわね。」

「いや、種類が多すぎる……少し分け合わないか?」

「良いわね。でもさっきの話じゃ無いけど今度の楽しみに取っておくのも良いと思うわよ?」

「それもそうだな。一度に全部じゃ勿体無いからな。」


(ふふふ、良いコンビだ。思慮深いレン君に、素直に意見を聞き入れる度量の有るナギ君か。それにたとえ話に家族との食事を出すのも好ましいな……)


 楽しそうに選ぶ二人を見ながら、これから始まる任務の緊張感など微塵も見せない二人に稲葉は色々と頼もしく思うのであった。



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