第12話 違反者の処分
タツミ達は別室に通されると、そこには豪華なホテルの様なビュッフェが並べられたテーブルが有った。
「え? ちょっと……豪華すぎない?」
「ユキ、引き気味に言ってるけど、ヨダレがたれてるわよ。」
「いや、ナギも少し目の色が変わってるぞ……。」
様々な和洋中の最高級とも言える料理が並んでいた。流石にこればかりは全員が驚きを隠せなかった。
「今日のお詫びもかねております。もちろんSSSランクの特権を使えばいつでも使えますが……」
「いや……それよりも最初に行く予定だったファミレスに送ってくれないか?」
「そ、そうだね。あんまりこう言うのは、良く無い気がするから。」
タツミとヒジリは毅然とした態度で断りをいれると、少し驚いた表情で晴香は質問してきた。
「何かお気に召しませんでしたでしょうか? それともまだ私達を疑っておいででしょうか?」
「素直に言うと半分はそうだ。」
「では、残り半分は?」
「この歳で身の丈に合わない贅沢は覚えたくない。物を知り過ぎるとろくな事が無いからな。」
タツミの発言にユキとナギは少し怒った表情を見せつつも素直に従った。確かにすぐに信じて良いかも謎だったからだ。
「お若いのに素晴らしい考えをお持ちですね。先程の特権の件と言い、目の前の料理に対してもその様な言動が取れると言うのは素晴らしい事だと思います。」
「ふん、褒めても何も出ないぞ。」
「タツミ君。さっきのって、お兄さんの事を言ってるの?」
「ヒジリ、古傷をえぐる事を言わないでくれ……」
「あ、ご、ゴメンね……」
二人のやり取りを見て晴香は首をかしげたが、この若者達は下手な大人よりも色々と経験して来たのではないかと感じ始めた様だった。
「かしこまりました。しかし、この料理は皆様に作った物。このままでは廃棄になってしまうのですが……」
「だったら、さっき俺達と戦ってた人達にあげてくれ。あの人達も今回は被害者なんだろ? だったらそっちの方が筋が通る。」
「……かしこまりました。その様なお気遣いを頂けるとは感謝に耐えません。今回の騒動に巻き込まれた隊員達の治療が終わり次第、彼らに振舞わせて頂きます。では出口にご案内いたしますのでこちらへどうぞ。」
晴香は深々をお辞儀をすると、施設の入口へと続くエレベーターへと案内を始めたのだった。
――――――同時刻 別室―――――――
「さて、桐生君と霧崎君。何かワシに言う事は有るかね?」
稲葉は二人が収監された部屋を訪れて問いただす。
「うるさい! 貴様さえいなければ俺はもっと権力を得れたはずなんだ!」
「隊長! 精霊が居なければ私達はAランクと変わりません。司令に謝りましょう。」
二人は稲葉を無視する様に醜く言い合っている。
「お前だって権力が欲しがってじゃないか!」
「だからと言って破滅するまでは要りません!」
「俺はもう搾取される側にはならん! 俺は奪う側の人間だ!」
「もう私達に力は有りません!」
「だったらもう一度精霊を従えさせれば良いだけだ!」
「どこに精霊が居るんですか! 確認されている精霊は全てスディレットが管理してます!」
「ふぅ~、まだ精霊と契約したいのか?」
二人の言い合いを聞いて、大きなため息をつきながら稲葉が言葉を遮った。
「そうだ! もっと良い精霊と契約すれば貴様なんか!」
「だったら見つけてこい。」
「「え?」」
稲葉の返答に二人は固まる。このまま刑罰に処されると思っていただけに、意外な言葉だったのだろう。
「もう一度Sランクとして働かせて頂けるのですか?」
雪子は驚きの表情で訪ねると、稲葉の眼は射殺す様な冷たい視線を向ける。
「ああ、ただし貴様らが小馬鹿にした精霊達の世界で探して来い。運が良ければ契約して生き延びられるだろう。そして人間界に帰って来れる事を祈ってるよ。」
「何を言ってるんだ? 頭がおかしくなったのか?」
「まさか……でも、意図的にそんな事が……」
桐生は意味が理解出来なかったようだが、雪子の方は可能性を考慮して驚愕の表情になる。
「もう会う事も無いだろう。」
「司令の能力の時の跳躍』は時間停止しながら自分だけ動く能力で、他の物体には影響を与えれないと言う能力では?」
雪子は小刻みに震えながら確認する様に聞くと、稲葉はゆっくりと首を横に振った。
「精霊界で考えろ、戻って来れたら全力で戦ってやる。」
稲葉が二人の頭を掴むと同時に、その姿は一瞬で消え去ったのだった。
―――――――――――――――――
「ここは何処だ?」
「何です? 何が起きたの!?」
荒れた一面の荒野が広がる大地の上に桐生と雪子は放り出された。二人は慌てて立ち上がると辺りを警戒するが、人はおろか生物の気配すら無かった。
「あのジジィ、精霊界とか言ってたが……」
「しかし、この付近の精霊力の濃度はかなり高いです。屋外でここまで高いのは異常です。」
二人は敵が居ない事を認識するとへたり込む様にその場に崩れ落ちた。
「何だこの濃度は……く、苦しい……耐えられん。」
「うっ……肺が押し潰されそう……」
濃すぎる精霊力に二人の体調は一気に悪化していく。顔色が土気色になり、全身がむくみだす。
「い、嫌だ……死にたくない……俺は……もっと……」
「そんな……こ、こんな所で……」
間も無く二人が意識を失うと、その体は白い光に包まれたのだった。
――――――――――――――――――――――
「では、この通路をまっすぐ行きますと『八乙女駅』の極秘改札に出ます。」
「この通路、地下鉄に繋がってるのか!?」
「ええ、極秘部隊ですから。出入りは基本的に不自然無く出入りする必要が有りますので。」
レンが意外そうな声を上げると冷静に晴香が説明を続ける。
「皆様の隊員カードが改札を開ける鍵になります。また、施設は複数箇所の出入り口がございますので、呼び出しの際は秘匿ツールから最寄りの出入り口を案内させて頂きます。」
「何と言うか……現実味が湧かないわね。こんな秘密部隊が有るなんて思わないわよ。」
ナギがぼやくと晴香はクスクスと笑いながら答えて来た。
「現実味が無いというなら、皆様が精霊界からの帰還組と言う事の方が現実味がございませんよ? スディレットの情報に『ExTendedは帰還者しか持ちえない力。そして契約者と精霊の姿が同じ場合は精霊界からの帰還者』とあります。皆様はそうなのでしょう?」
「……知ってて黙ってたのですか?」
「と言う事は稲葉さんも帰還者と言う事です?」
リィムとクリューエルが再び警戒の色を濃くして晴香に尋ねる。
「司令に関してはお答えできません。が、最低限の情報をお渡ししたと思ってください。そして、私も半信半疑だったのですが、今の反応で事実だと知る事が出来ました。失礼な態度を取り、申し訳ございません。」
「ふ、これは一本取られたわね。」
「だな、事情を知っているなら逆に気楽になるってもんだな。」
ナギとレンは開き直った様子で全員に声を掛けると、各自がそれぞれの面持ちで頷いたのだった。それを見てレンは晴香に説明を続けた。
「俺達は数カ月前に精霊界に迷い込んだ。そこで自分の精霊を具現化して『命名契約』を結んだんだ。そしてタツミが自分の精霊を犠牲にして具現化した神器『雷帝刀・鳳雷』を使って人間界に帰還した。」
「神器を使って帰還……なる程、それで『ExTendedは帰還者』と言う事になるのですね。」
晴香が納得し話を続けようとすると、不意に後ろから声が響いた。
「晴香君、そこら辺にしなさい。知り過ぎると碌な事にならない。それにそれ以上は機密扱いになる。君達も下手に喋らないようにしなさい。」
「稲葉司令!? も、申し訳ありません!」
稲葉が急に現れたのだ。その場の全員が驚き一歩身を引く中、タツミだけはさも当然の様にその光景を見ていた。
「精霊界帰りの詳細は最高機密になる。意図的に悪さをする奴らが居ない訳じゃない。それに危険人物扱いにされても問題になるからな。知った事で逆に身を危険にさらす事になりかねん。君達も不必要に知り過ぎたり、話し過ぎない様に。」
稲葉は人差し指を口に当てて注意を促すと全員が静かに頷いた。
(今の会話の流れも稲葉の思惑の中か? 敢えて泳がす所は泳がせて、これ以上はダメと判断したら出て来るつもりか?)
一人だけ何かを察しているタツミは稲葉と言う男に警戒を向けているのだった。




