第10話 司令官 稲葉
「まぁ、君達が学業や普段の生活を優先したいと言うならば、それは自由だ。しかし有事の際は手伝ってもらう事になる。」
稲葉は改めて近くの椅子に座って7人に向かって話を続けた。そしてその奥に隠されている意味も瞬時に理解した。
「ゆ、有事の際の拒否権は無いって事ですか?」
ヒジリが重い口を開くと満足そうな稲葉の表情が答えになっていた。
「その代わりに君達には特権が与えられる。コレは危険手当みたいな物と思ってくれていい。あ、ちなみに現金が欲しい場合は面倒だからウチに就職してからだ。」
「特権? と言うか何気に就職させようとするの辞めてくれ。」
レンが透けて見える誘いに少々ウンザリしながら答えるが、対照的に稲葉は明るい表情で喜々として話し始める。
「待遇は良いぞ! Sランク判定なら初任給は上場企業の3倍! ボーナスは夏冬合わせて8か月分! 昇給有りで危険手当が任務ランクごとに変わるが最低100万からだ! 家賃の完全補助! ローンも全て無利子で組める! 緊急任務時は例外だが福利厚生もバッチリだ!」
「だから勧誘すんな!」
「何その高待遇……ってダメだわよ! 旨い話には罠が!」
レンが叫んで話を止めるが、ナギだけが少しだけ食い入る様に身を乗り出していた。当然周りの視線は冷たかった。
「な、何よ! レン位は私の味方で居なさいよ!」
「いや、場の空気を読んでくれ……。」
「いや、別に構わんぞ? まぁせめて高校は卒業してからだがね。君達は才能が有るから試験無しで大丈夫だ。それに悪人でもなさそうだからな。」
稲葉は大きく笑いながら言うと、改めてスクリーンに別の画像を映し出した。
「先に行っておくが、君達が協力するにあたっての報酬特権だ。これにも拒否権が無い事を覚えておいてくれ。」
その内容を7人は食い入るように見ると驚きの内容が書かれていた。
―――Sランク特権(国内のみ)―――
・有事の際のスディッレット構成員への命令権限
・警察組織を使用しての避難誘導等の命令権限
・全ての公共交通機関のフリーパス券の付与
・家族、親族等へのシークレットサービスの無料提供
・学費等の自己啓発に関する資金の無償提供
・スディレット専用の航空機の無料利用権限
・スディレット所有の機材の使用権原(一部は司令の承認は必須)
・任務にあたっての賠償保障・被害弁済の免除
・納税免除(消費税等、一部自動徴収の物は除く)
・任務にあたってのホテルの無料使用権(提携先に限る)
―――SSランク特権―――
・自国の国会議員への面会権限と法案の提出権限
・他国のSランク以下の精霊使いへの自由面会権限
・自国・他国における任務上の軽犯罪の免除
―――SSSランク特権―――
・緊急時に現場に居る他国のSSランク以下の者への命令権限
・緊急時に他国のスディレットへの命令権限
・司令官の指示を仰がずに施設の機材の使用権限
・任務以外の業務への命令拒否権
・自国・他国含めて独断での任務命令・遂行権限(精霊関係に限る)
・任務上における重犯罪の免除
・任務以外での提携一般施設の無料使用
―――ExTended権限―――
・各国において国賓待遇の義務
・全てにおいての命令拒否権
・国際的治外法権の権限
※SSランクまでは守秘義務、不当な任務拒否は権限剝奪の上、国際法に則って処分が下ります。
「コレがランク毎に与えられる君達の特権になる。何か質問は?」
「あ、あの……国際法に則って処分って……ど、どう言う事でしょうか?」
ヒジリが恐る恐る聞く。
「ああ、国内外からSSSランク以上の者が暗殺に入る。もちろん情報漏洩で知り得た人達も問答無用で処分されるので十分に気を付けて欲しい。」
笑顔でサラリと怖い事を言われて全員が固唾を飲むと、続けてリィムが質問を続けた。
「SSSランク以上に関しては何もありませんが、理由が有るのですか?」
「ん? 単純に処分できる人材が少ないからだよ。ただし巻き込まれる一般人やSSランク以下の者は容赦されないがね。」
全員がドン引きの表情になるが、逆に言えばSSSランク以上の人材が希少であるという事の表れなのだろうと理解出来た。
「と言うか……ExTendedの国際的治外法権ってなんだよ?」
「単純にExTendedは制御不可能のレベルと認識されている。なので下手に手を出して怒りを買うと国が滅びかねないという事さ。」
「上手く隠している様だけど、ExTended同士を戦わせたら、その後に起こる反動による自然災害が危険すぎるだけだわよね?」
ナギがすかさず先程の説明を含めて理解した事実を述べると、稲葉は更に満足そうに微笑んだ。
「勘が良くて助かるよ。つまりSSSランクも野放し状態になるのはそう言う事だよ。まぁ日本では私が居るからトラブルは起きないがね。」
「そう言えば司令もExTendedと言ってたもんな。」
タツミが思い出した様に言うとレン達は驚きの表情を浮かべた。
「じゃあアンタも『神器』を使うのか?」
「その話は国内でもトップシークレットだし、君達には教えれない。今の話を踏まえてタツミ君も意味は理解出来たね?」
レンの質問に今まさにその権限を利用した言い方をする。そしてその意味を誰よりもタツミが理解していた。
「俺がアンタに関して知り得た事を話せば、その人が消されるって事か……そして俺はExTendedだからアンタの事を知ってもお咎め無しって事か。」
「想像以上に素晴らしいね! 君達は本当に優秀だ! ワシが釘を刺す前に喋ってしまっていたら、問答無用で有能な若者を消さねばならん所だった。」
稲葉の笑顔とは裏腹にタツミ達はしてらやれたと実感していた。
偶然とは言え精霊弾による誤射、そしてこの施設に連れて来られて精霊使いとしての覚醒、そして稲葉の言動。
全てにおいて偶然とは思えない。しかしそれを推測するには稲葉の事を調べる事になり、それをすれば自分達が世界中から狙われる立場になるという事だ。
それを全員が理解した時、稲葉に対しての全員の警戒心が上がったが、その毒気を抜く様に稲葉は言葉を続けた。
「と言う事で、Sランク以上の仕事が発生したらスマホで呼ぶから普段通り生活すると良い。特権を使って旅行なんかも有りだぞ? 3つ星ホテルだって提携先ならタダだ。同伴者も無料に出来るぞ! あ、ちなみにワシのお気に入りは草津だ。あそこの温泉は最高だからな。」
先程までの緊張感がウソの様に無くなった稲葉が次々と遊びを提案して来る。
「それとスディレットの件で話をする時は提携先ホテルや食事処の個室を使用する様に。ついでに最高級の食事でも楽しみながら話すと良い。」
話す姿はどこにでも居る陽気なオジさんと言った感じだ。そんな陽気なオジさんが椅子から立ち、去り際にタツミに若い子供のような声で一言だけつぶやいて去って行った。
「ボクは君達の味方だ。コレだけは真実だ。」
タツミはそれが事実だとは確信を持てたが、意図が不明だった。ただ自分達に危害を加える気が無いと言う事だけは理解出来たのだった。




