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第0話 日常からのトラブル

 高校の体育館にセミの声と共に暑苦しい程の声が響いている。


 剣道部の気合の入った声と全身を防具で包んだ男性陣の道着姿はセミの声と相まって暑苦しさを倍増させている。


 その光景を入り口付近で三人の少女達が手持ち扇風機を使いながら眺めていた。


「まだ6月の頭なのに何でセミは元気なのかしらね? 時期的に早すぎる気がするわよ。」


 他の2人に比べて頭一つ分くらい小柄で、毛先だけ茶色に染めた軽いクセ毛をお団子頭にした、活発そうな少女が冷感シートを取り出して汗を拭き始める。


「最近は異常に暑いからね、セミが出て来る時期も早くなったんだね。」


 腰まであるの長い綺麗な髪を背中の真ん中辺りでゆったりと一本結いにしている、先程の少女とは対照的に大人しそうな少女はハンカチで汗を拭きながら同意する。


「そもそも何でこの暑いのに見学に来てるの? 私が一番無関係なんですけど?」


 3人目の胸元まで伸びた髪をおさげにした少女は鞄からうちわを出して手持ち扇風機から変えて仰ぎだした。こちらの少女はお団子頭の少女とは別の活発さが伺えた。


「ユキ……うちわは辞めなさいよ……おっさんポイわよ? それにみんなで待ち合わせて行こうって言ったのはアンタじゃないの。」


 お団子頭の少女がジト目でユキと呼んだ少女に嫌なら早く帰れと言う表情をしている。


「だって1人で行くの寂しいじゃない! 何で仲間なのに私だけ1人行動になるのよ! ナギは解って言ってるわよね!?」


 ナギと呼ばれたお団子頭の少女は面倒臭そうな表情をして手でシッシと追い払おうとしている。


「わざわざ彼氏待ちの私達に付き合ってる時点でそうなるって解っているわよね? 嫌なら先に待ち合わせの涼しい場所で待っていれば良いじゃない? 1人でね! 大事だからもう一度言うわね、1人で!」


「アンタねぇ! 相変わらず扱いが雑すぎるんですけど? 少しは治したら? そんな感じじゃ友達作りに苦労するわよ?」


 ユキも負けじと嫌味で返すとナギも負けじと口論が始まる。


 その様子を呆れた様子で見ている長髪の少女が頃合いを見計らって止めに入る。


「2人とも、もうすぐ終わる様だから辞めた方がいいよ? 稽古が終わるとどんな声でも響いちゃうから。」


「ヒジリちゃんの言うとおりね。クールダウンが始まるから静かにするわよ。」

「そうね、わかったわ。」


 ヒジリと呼ばれた長髪の少女に言われて2人は口を閉じて静かになる。


 しばらくすると先程までの喧騒が静まり返ったように静寂が場を支配する。部員達は防具を外して瞑想をしていた。


 パン!


 顧問の先生の手を叩く合図とともに全員が目を開ける。



「礼!」

「「「ありがとうございました!!」」」

「互いに! 礼!」

「「「ありがとうございました!!」」」


 全員が深々とお辞儀をして稽古が終わりの合図を告げる。



「本当に……この瞬間だけは軍隊かと思うような動きだわよね。」


 ナギが感心した様子で眺めている。


「私はこの静と動の切り替わる瞬間が好きかな。」

「私的には努力している姿は好きだけど、この暑さだけは勘弁してほしいわ。」


 ヒジリは嬉しそうな表情で眺め、対照的にユキはやっとかと言った表情をしている。




 そんな話が始まると同時に、挨拶の合図をしていた180cm程の長身で、剣道部にしては少し長めのボサボサ頭で少し目付きが鋭い少年と、それに比べて10cmほど低い背の対照的に優しそうな目付きのスポーツ刈りを少し長くした感じの髪型の少年が三人の元へと歩いて来た。

 

「ナギ、お前の声は稽古してても響くからもう少し声のトーンを落とせ!」


 目つきの鋭い少年がお団子頭の少女、ナギに注意すると負けじとばかりに反論が始まる。


「どうせ私の声が判別つくのはレン位だわ。彼女の声だけ特別に聞こえるんでしょ? もう少し稽古に集中したら?」


「相変わらずのへらず口を……、タツミ! お前からも少し言ってやってくれ!」


 レンと呼ばれた目つきの鋭い少年は後ろから来た、優しい目付きのタツミと呼んだ少年に助けを求めた。


「レン、流石に俺も居るなぁ位にか思わなかったぞ? そこはナギの言う方が正しいんじゃないか?」


「ほら見なさい! アンタが自意識過剰なの!」


 ナギが勝ち誇ったように胸を張る。


「デカいのは胸だけにして、態度はもう少ししおらしくなってくれ。」


 レンは援護が無いと諦めたのか、苦し紛れの一言を言うと女性陣から苦情の表情を浴びせられた。


「レン! それはセクハラよ!」

「レン君……ちょっと無いかな?」

「最低〜って言うか私とヒジリちゃんに対する宣戦布告と認識して良いのかしら?」


 三人娘からの苦情を受けてレンは隣のタツミに助けを求めると、タツミは大きなため息をついて肩に手を乗せる。


「お前が悪い。素直に謝ってさっさと着替えるぞ。ヒジリ、悪いがもう少し待っててくれ。」


 タツミはヒジリと呼ばれた長い髪の少女に微笑むと更衣室へと歩きだした。レンも慌てて一言謝るとすぐにその後を追いかけていった。






 2人は着替え終わって3人と合流すると、校舎の入り口に移動して人を待つ事にした。

 

「で、エルとリィムは?」

「2人は生徒会に呼ばれているらしくて。遅くなるようね。」

「目立つからなぁ……クォーターと言う事で見た目が日本人っぽく無いからな。」

「そうだね、リィムは綺麗な亜麻色の髪だし、エル君はアッシュグレーだから日本人離れしてるよね。」


 タツミとヒジリの会話を聞きながら、後ろの3人も別の会話を始める。


「あの2人って付き合ってないの? 常にワンセットで動いているんだからくっ付いちゃえば良いと思うんだけど?」


 ユキが呆れた表情で言う。


「ん? タツミとヒジリは付き合ってるだろ?」

「バカ、エルとリィムの事だわよ。話の流れを読みなさい。」


 レンの斜め上の返答にナギが素早くツッコミを入れる。その流れの速さにユキは夫婦漫才を見ている表情になっていた。


「アンタ達も大概だけどね……バカップルで校内一有名だしね。もう少し前の2人みたいな付き合い方出来ないの?」


「「誰がバカップルだ!」」


 2人の同時の返答にそう言うところと言いたくなったが、ユキは黙ってため息をついた。


「逆にそう言うリアクションの方がダメージを受けるわよ……? ねぇ、ちょっと? 本当にバカップルって言われてるの私達!?」


「むしろほとんどナギの行動が原因じゃないのか?」


 2人の口論が始まるのを見て、ユキは前の2人の方へと近づいていった。



「いつもの状態になったからこっちに避難するわ。」


 ユキがヒジリの隣に移動すると2人も呆れた表情で後ろの二人組に視線をうつした。


「飽きないよな。ケンカしてる様に見えて何だかんだで仲良いし。」

「まぁ……ナギちゃんもレン君も昔からあんな感じだしね。」

「ヒジリちゃん。それフォローになって無いからね?」


 そんなやり取りを見ていると校舎から、とても小柄な少女と背の高い青年が玄関側から小走りで出て来たのだった。


「お待たせしました。いや~本当に目立つだけで生徒会にって言われると困るんですけど……。」


 レンよりも更に少しだけ高い身長の青年がアッシュグレーでセンターパートの髪を掻き分けながら汗を拭いている。


「エル君がハッキリと断れば良いのですよ! 何故か保護者扱いにされている私の身にもなってください!」


 ショートボブの亜麻色の髪を上下に揺らしながら走って来た小柄な少女は、困った表情をしながらエルと呼ばれた青年に苦情を入れる。


「いや、それを言うならリィムさんだって嫌だと言えば良いじゃないですか! 何で俺に任せるとか言うんですか!」


「それは私がいつも子供扱いされるせいで、みんなエル君の意見しか聞いてくれないからじゃないですか!」


 二人は口論しながら靴を履き替えて5人の元へと近づいてい来る。


(((子供扱いされてるのに保護者扱い? 絶対にエルが保護者として見られてるよな?)))


 全員が思ってはいたが敢えて口には出さなかった。リィムとエルは孤児院で姉弟のように育ったため、リィムは姉としての威厳を持ちたがっていると周りからは認識されていた。


 なので表面上はリィムを保護者として立てているが、実際は逆と言うのが暗黙の了解になっていた。


 実際にリィムは普通に見れば、かなり小柄で16歳の高校2年生だが未だに小学生に間違えられる事も有った。普段は理知的な振舞いなのだが、その話だけはキレるのでその度にエルが止めに入るという光景が良く見られた。


 一方エルは背も高く、見た目が日本人離れしている事も有って余計に大人びており、対照的に年齢よりも大人に見られる事が多かったのも拍車をかけているのだろう。


「さて、せっかく友達グループでファミレス寄って帰るんだから口論は無しにしようぜ? せっかく優待券を使うんだから楽しく行くぞ。」


 タツミが兄から貰った優待券をカバンから取り出すとそこには「全品5割引」と書かれていた。


「ホラ、早く行くぞ。俺らは部活やって来たから腹が減ってるんだ。」

「そうよ、折角だから今日はスイーツ系も攻めるわよ!」

「いや、アンタいつも食べてるじゃない……」


 3人は待ちくたびれた様に二人を急かすと一緒に歩き出した。


「しかし、お兄さん株もやってたんだね。と言うか半額優待券って凄いよね。」

「そうだな、俺も初めて聞いた。まぁ兄さんよりも義姉さんの方からかも知れないけどな……」


 ヒジリが驚いた様に券を眺めていると、タツミの顔が少し曇りがちになって引きつった笑いをしている。


「アハハ……ヤッパリお義姉さんの事、苦手?」

「そりゃな……あの二人も大概にバカップルだから……」

「レン君とナギちゃんを見ているタツミ君が言うんだから、よっぽどだね……」


 察したヒジリは同調して笑うしかなかった。




 他愛もない話をしながら7人は目的地へと向かうのだが、路地裏から急に何か見慣れないトカゲの様な物が走り出て来たのだった。


「え? 何だこのトカゲ?」

「何か……普通のじゃ無いですよね? かなり大きいですし。」


 先を歩いていたエルとリィムが足を止めた。普通の3倍は有る大きなトカゲは二人を見上げると背中から火が噴き出した。


「え? 火? って熱い! 本物だ!」


 幻かと思ってタツミが近づくと、その炎は確かな熱を持っていた。そして現実なのだと確信した時、同じ曲がり角から一人の軍人らしき人物がマシンガンを構えて飛び出して来た。


「居た! 今度こそ逃がさない……って何で一般人が居る!」


 軍人は火トカゲしか見て無かったのか銃を引く指が止まる前に、目の前に居たタツミ達に気付くの事が出来なかった。


「「「え?」」」


 7人が呆気に取られていると、マシンガンから発射された弾丸は火トカゲもろとも彼らを撃ち込まれたのだった。

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