僕はいつでもそうだった
猛獣に対する防壁として焚火を並べて橋の上で野営する。
こうなったのは誰のせいかと言えば、ヒグマの急所に弾丸を当てなかったやつが悪い。
やはり僕は少女を危険に晒しており、それは自尊心の過剰な馬鹿王子が流刑にならなければ最初から防げたことだ。
メイドに迷惑ばかりかける主人は第一級の愚者であり、毎日それを自覚して反省を続けなきゃいけない。本当に馬鹿は重罪だ!
このように自分を責め、ろくに眠れないまま朝に。
――――――――――
結末は呆気なかった。
翌四月二十日の午前、旧街道を進んで再び出会ったヒグマにチャットが火矢を放つと、稀龍の力が込められたその爆発的威力で、ヒグマが真上に五十フィートほど吹っ飛ぶ。
たった一発の「ちゅどーん」という爆風や、地面に落ちた際の「どさーっ」という衝撃により、頭や首の骨が砕かれたらしい。
ヒグマは白目を剥いて死亡。
僕が握っていた、長い木の棒の先に麻紐でサーベルをくくりつけた即席の槍は、使う場面がなかった。
「…………ハハッ! ハハハッ! アハハッ!」
乾いた笑いが出て止まらない。
これほど簡単に事が片付くなら、昨晩の僕は何をそんなに悩んでいたのだろう!
神は不思議な巡り合わせを用意してこの第三王子にチャット・メイドを与え、稀龍を通じて彼女に炎の弓を授けた。
こうして知力と武力を完備した僕に対し、誰が対等な敵になれるだろうか? いや、なれない!
立ちはだかる全ての壁は打ち倒される運命にあり、やはり僕は最強の「神に選ばれた王子」だ。魔王さえも足元のちょっと邪魔な石ころにすぎない! かもしれない!!
心の中でこのように怪気炎を上げ、ニヤニヤした。
チャットが僕の肩にポン……と手を置き、いやいや……と首を横に振りながら告げる。
「ユゼル様……調子乗りすぎです……」
――――――――――
都市国家フィスモルは今頃どうなっているのだろう。
隣国と開戦するって話だったが、もう始めたのか、それともまだか。
とっくに勝負が決まったのかもしれない。
僕がいなくなってからの政治権力の様子もいろいろ想像できる。
兄たちは三男という当初の敵を排除し、今度は自分たちが互いに蹴落とし合っているかも。
その場合、父はどちらの味方をするのだろう。
宮廷は何が起こるか分からない面妖な場所だから、早くも一人くらい毒殺されていたりして?
ともあれ、僕は故郷に帰りたいと思う一方で、帰ったあとのことはあまり考えていない。
飢えも渇きもない快適な天上界で平和に暮らす以上の望みは現状ないのだが、魔王を倒して英雄になったとして、父や兄たちがどんな風に僕を出迎えるのか全く予測できないため、そんな遠い未来についてはいちいち考えないようにしている。
だから今は今やるべきこと――大地での旅に集中するだけだ。
――――――――――
四月二十一日。
道端に設置された六角形の石柱を発見。
古風な言い方をするならそれは一里塚であり、古代文字が刻まれている。
チャットが解読した結果は「セグエ峠まで、西へ四千ヤード」。
僕らは早足になる。
森の中の旧街道は石柱のあたりから起伏が激しくなったが、その上下動がむしろ楽しい。
歩き続け、やがて登り坂の頂点からパアッと陽光が差し込む。
永遠に続くかと思われた大森林がそこで途切れている。
「ユゼル様!」
「うん! あれが峠だ!」
競うように走り、二人同時に峠に立つ。
そこは爽やかな風が吹いている。
景色を遮るものがない。
石畳の街道がそこから下り坂になり、非常に広大な草原の中を通っている。
鏡のように澄んだ川や湖、果物の実った林などが点在する。
天上界では絶滅した馬の群れがあちこちで草を食んでいる。
さらに遠くを見渡すと、噴煙を上げる火山がある。
雪に覆われた山脈や、麦藁色のサバンナ、一枚岩の台地、鳥たちが住む湿地帯などもある。
青空に浮遊洲がいくつも浮かんでいるが、その複雑かつ奇妙な形状はどれも既知のものではない。有人か無人かもわからない島々だ。
笑顔を向け合う僕とチャット。
思っていることが何も言わなくても理解できる。
この果てしない世界のどこかに魔王がいる。
見つけて、倒すことができる。
いや、僕はご存じの通り、猛烈に自信があるときも全くないときもあり、今はその中間くらいなので、絶対にそれが可能とか、絶対に魔王が実在するとかの断言はできない。
だから単純に、旅をしながらその時々で信じられるものを信じる。
無理せず、焦らず、協力し、できる範囲のことを今後もやっていくつもりだ。
さあ。
これから二人で、どこへ行こう?
[おわり]
全部を読んでくださった方も、部分的に読まれた方も、ありがとうございました!
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