強い仲間に恵まれた
「チャットのほうが早くから君を疑っていたんだが、いろんな確証を見つけたのは僕のほうだ」
『魔獣であることは隠していたつもりだが、どんな確証があった?』
鉤爪で僕を掴んで空を飛ぶ稀龍。
引き続き心の中に語りかけてくる。
「街道にあった古い墓を見たときの、君自身の科白だ。僕らは表面の蔦と苔を剥がして碑文を読むまで、それが墓だとは知らなかった。でもラグリィは違う。『その墓に何してる!』と叫んでいて、つまり年季の入った蔦と苔が生える前から墓だと知っていた。それはつまり、君が墓を作った本人だからだろう」
『なるほど。正しい推理だ』
墓の主はラグリィ・パヴァーヌだった。
彼女は数百年前に生まれ、流刑になり、死亡。
大地を彷徨う稀龍になった。
他にも推理の証拠はある。
ラグリィは小屋で僕と話していたとき、『聖典』の分冊を広げようとして何かに気づき、とっさにやめた。
あれは、中の文章が数百年前の中近世文字だと思い出し、自分が過去の人間である証拠を見せないようにしたのだ。
彼女に渡された「火喰禽」についても、魔獣と結び付けて考えるべきだ。すなわち、あの高威力を説明するには「魔獣が力を付与したから」という解釈が最も自然である。
邪哭龍に何度も遭遇したと言いながら平気な顔でその近くに住んでいる点も忘れてはならない。
この奇妙な行動は、「ああ見えて実は魔獣に対抗できるほど強く、いつもは真の姿を隠しているのでは?」という仮説を立てれば納得できる。
このようにラグリィについての違和感とそれを説明する理屈を考えた結果、その正体は稀龍だと僕らは確信したのだった。
「ユゼル様! 間に合ってよかったです!」
チャットは白い龍の首筋に乗っている。
歯車の挙身瞭に照らされ、眼下の僕に格別の笑顔を向けて手を振る。
「銀弾の射撃に失敗しそうなとき、あるいは失敗したとき、チャットはラグリィの助けを呼びに行く。ラグリィが来るまで僕は時間を稼ぐ」
事前に立てた三つの作戦の最後がこれだ。
火球の爆発に吹き飛ばされた元AIの少女は、ピストルの射程圏に近づくことは難しいと即断し、第三の作戦に移った。
辿ってきた道のりの記憶を正確に思い出して頭の中に地図を描き、現在の太陽の高度と日々の南中高度の記憶を照らし合わせて方位を特定し、ラグリィの小屋の場所を割り出した。
そして邪哭龍の視界に入らないように大きく迂回して目的地に到着し、「助けてください!」と頭を下げたのである。
地上の邪哭龍はしばらく呆気にとられたみたいに空を見上げていた。
その後、「グ……グオオオオオ!?」と喚き、熱光線を頭上に乱射。
ラグリィは機敏な飛行で全てを回避する。
飛びながら僕の体をひょいっと背中に乗せる。
座り心地は意外にふわっとしていて革張りの椅子のようだ。
『二人ともよく聞け。魔獣が魔獣を倒すことはできない。氷が氷を溶かせないように、力と存在の性質が相手と重なって、互いを害せないのだ。しかし銀弾なら――』
「銀弾なら倒せるんだな?」
『そうだ、王子。悪徳、憎悪、腐敗、執念を、銀の弾丸は浄化する。今から彼奴に接近するから、必ず当ててくれ。魔獣同士、我は彼奴の声が聞こえる。我よりもはるか昔に大地で死に、人間を恨み、呪い、滅ぼすことしか頭にないそうだ。救ってやるには汝らが倒すしかない』
そういうことなら僕は敢然と手を下すことができる。
悲運の古代人を送る葬式と思えばいい。
チャットが稀龍に対して気まずそうに口を開く。
「ラグリィさん。わたし……ずっとあなたを警戒してました。第一印象で完全にユゼル様の敵だと思ったんです。でも、こんなピンチに助けてくれて……わたしの誤解でした。ごめんなさい」
『誤解ではない。魔獣は人間の敵だ。頭の中では汝らを殺そうと思い、まだ人間であるふりをして、殺す隙を窺っていた。我は人間らしさが少し残っていたせいで、殺す決断ができなかったに過ぎない』
「それでも今、助けてくれてました。ありがとうございます」
「……ああ」
龍もメイドも複雑な表情。
だがしばらくして和解の笑みをわずかに浮かべる。
「ユゼル様。ピストルは返します。大事な一発はやっぱりユゼル様に撃ってほしいです。その方が確実に倒せます」
「分かった。だが、射撃のときは後ろから僕を支えてくれ。空を飛んでいる最中に撃つことになるから、少しでも狙いを安定させたいんだ」
「はいっ!」
チャットが胸の前でガッツポーズを見せる。
白い龍の背中の上を互いに移動し、僕が前、チャットが後ろに着座。
両脚に力を込めて振り落とされないようにする。
『二人とも準備はいいか』
と聞かれ、同時に頷く。
『――では、行くぞ!』
敵に向かってラグリィ・パヴァーヌが急降下。
その背に乗る僕らの全身に強烈な向かい風が吹きつける。
敵との距離が縮まっていく。
ピストルを前方に構える僕。
その前腕と背中にチャットの手が添えられて射線の固定を助けてくれる。
また、彼女の挙身瞭を浴びていると包み込むような温もりを背中に感じて緊張がほぐれる。
僕は必ず勝つ。
二人に支えられて。
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