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焼き尽くされて転がった

 異変は僕の目の前に。


 邪哭龍(ワイバーン)の首の先端が今までと違う、激烈な黄金色の光を発している。


 じきに僕は、敵の鱗を掴んでいた左手に強烈な熱伝導を感じて「うわっ!!」と叫び、その場から飛び降りた。

 離れるのが遅れていたら、僕の手はおそらく焼きついて取れなくなっていた。


 片手凧を開き、滑空で逃げながら振り向く。


 得体の知れない光の玉が邪哭龍(ワイバーン)の頸部に生成されている。

 最初は人間の頭くらいのサイズだったが、みるみる膨れ上がって、敵の胴体と変わらないほど巨大に。

 真夏の太陽が目の前に現れたように眩しく、そこから放射される熱波だけで目と肌を焼かれそうになる。


 長い首が投石機のごとく振られる。


 黄金色の大光球が真横に放たれ、虫が飛ぶような中途半端なスピードで空を進む。


 狙われたのはチャット・メイド。

 慌てて逃げ始めたメイドの少女を、巨大な光が追尾。


「ぼ、僕に何かできることは……!?」


 着陸して火喰禽(ロワゾー・ド・フー)を引く。


 火矢の放物線が空に描かれたが、距離が遠くて命中させにくい。


 三本外し、四本目が黄金の球に直撃。


 それが破滅的な誘爆を起こす。

 暴風が生まれ、焦げた木々と砂塵と僕を猛然と吹き飛ばす。


 密林で魔獣に出くわす直前に経験したあの爆発と同じ現象だ。

 数百フィートの距離をバウンドして僕は飛ばされていく。


 しばらくして土煙が晴れてくる。


 全身の痛みを感じながら起きて周囲を見渡す。


 炭化した木々さえも吹き飛んで消えた、灰だけが地面を覆う爆心地が、邪哭龍(ワイバーン)の横手に出現している。


 メイド服の少女は――どこにもいない。

 姿を隠していそうな物陰さえも見つからない。


「チャット!? チャット!?」


 どうなったんだ。どうなってしまったんだ。


「グオオオオオ! ブオオオオ!」


 歓喜のごとく敵が鳴き、その後、ゆっくりと首の先をこちらに向ける。

 人間があと一匹残っているな、と言わんばかりに。


 確実に一つ分かることがある。


 この怪物に立ち向かえる存在は現状、僕だけだ。


 灼熱の苦痛に満ちた最期を迎えたくないなら、少女の安否を気にする心を自分の意志で絶ち切り、戦闘に集中しなければならない。


 邪哭龍(ワイバーン)が再び黄金の光を生成し、膨らませていく。


「……さ、さっきのように火矢を当てて光球を壊そう。それから接近して反撃だ!」


 連射しながら前に走る。


 だが僕の手は震えている。

 チャットについての絶望的な予想が脳裏から振り払おうとしても浮かんできてしまい、狙いが逸れて火球を壊せない。


 脅威の光球がまたしても発射されて今度はこっちに向かってくる。


 相手との中間あたりで、光球に火矢が衝突。


 誘爆がまたも僕を吹き飛ばす。

 人間の弱さを嘲笑うような熱の暴風。


 創傷や打撲で全身が痛み、口の中は土と灰と血が混ざり合う。


「上手く近づく方法を考えないと何の攻撃も当たらない……でも、本当にその方法があるのか?」


 熱光線の二連射。


 炎の壁ができて左右を塞ぐ。


「もう一度滑空すれば行けるか……?」


 片手凧を取り出して広げる。

 上昇気流に乗って急浮上。


 滑空の態勢に入り、一気にスピードを出して前進。

 敵がどんどん近くなる。


 ――だが、魔獣には翼がある。


 僕に向けて大きく羽ばたくと、火球の爆発には劣るが災害に匹敵する暴風が生まれる。

 僕は軽い紙きれのように容易く飛ばされてしまう。


 やがて背中から墜落したその場所は、燃え盛る炎の壁に挟まれており、つまり元の窮地に押し戻されてしまった。


 片手凧が壊れている。

 骨組みを風にへし折られ、これではもう飛べない。


 立ち上がりたいが、全身が痛くて力が入らない。

 立ち上がったとしても、僕はどうするつもりだ?


 敵の急所を攻撃できたのは結局、首にしがみついて滅多切りにしたあの一度きりだ。それ以降は接近すら難しい。

 ここから僕が盛り返す可能性がどれほどあるだろうか?


 邪哭龍(ワイバーン)が首をこちらに向け、先端を眩しく光らせる。


 立ち上がれない人間を、じきに熱光線が焼き尽くすだろう。


 正直、僕は良くやったと思う。


 普通の人なら一瞬で黒焦げになりそうな戦場で、こんなにも長く生き延びたのだ。

 武芸の第三王子ユゼル・フォルシュピール・フィスモルの名に恥じない最善の働きではないか。



 だから――あとは人に任せる。

 空に叫ぶ。


「僕はここだ!! 来てくれ、ラグリィ(稀龍)!!」



 巨大な獣が東の空から矢のような速さで飛来。


 鉤爪を持つ強靭な前足が僕の体を持ち上げ、炎の包囲から救出する。


 直後、僕が倒れていた場所を熱線が焼き尽くす。


 稀龍(ドラゴン)が西の空を上昇していく。

 骨のように白い鱗に覆われ、血のように赤い翼で羽ばたいている。


 長い首の先にあるワニのような顔、真っ赤な瞳を進行方向に向けつつ、僕の心の中に語りかけてくる。

 しわがれた老女の声で、


『王子よ。(われ)の正体を先に察したのは(なんじ)か? 付き人か?』


「二人同時だよ。戦う前に洞窟で考えを出し合ってわかった。『ラグリィは稀龍(ドラゴン)だ』と」


 僕は腐れ縁と再会したみたいに微笑する。


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