作戦 三つ考えた
激流に通じる洞窟の出口を見ながら、僕は孤児院での行動を振り返る。
あれは善意ではない。
第三王子が好人物だとアピールして大衆の人気を得ようとする演技だ。
(僕が恩人? 僕が天子? 馬鹿な! 物置にいたボロボロの少女があのあとどうなったか、僕は全く興味がなかった。それに、十一月二十四日のことだと言われても、ああいう慰問のパフォーマンスは当時他でもしていたから、細かい日付は今でもピンと来ない。こんな薄情な偽善者にチャットは恩を感じて一生メイドをやるというのか? おかしいだろう!)
僕は「困っている人を救う」と理想を言いつつ、本気で他人を幸せにする気がなかった。
しかし――
(そんな僕のおかげで、少なくともチャットは救われた……)
自分の行いを父や兄たちに否定されてきたユゼル・フォルシュピール・フィスモル。
この馬鹿王子に救われたという人間を見るのは初めてだった。
頭の中でこの事実を反芻していたら、
「ユゼル様……!?」
勝手に両目から涙が出ていた。
チャットに指摘されて「あっ……」と気づいた。
考えてみれば、子供のころは独善ではなかった。
いい政治をすればたくさんの人を幸せにできると知り、純粋に憧れて、そういう王子になろうと思った。
だが、父や兄たちが立ちはだかり、無邪気な綺麗事だと否定された。
それで僕はだんだんと意地になり、彼らへの対抗心だけで行動するようになった。
すると結局、誰が正しくて、誰が間違いだったのか?
その答えが今見えたような気がする。
……当然、今でも僕は馬鹿だ。
自分のことをやたら肯定する期間と逆に否定する期間を繰り返し、現在はプラスの気分の波が来ているが、直後にはまた惨めなどん底に転落するのかもしれない。
でも、ここから述べる考えは、きっと今後のどんなときも変わらない。
僕はチャットが大事だ。
僕に救われた、と初めて言ってくれた人だ。
だから、失いたくない。
彼女にどうしようもない事情があって天界に一人で帰りたいと望むなら泣く泣く応援するが、こちらから積極的に彼女を送り出そうとは、もう絶対にしない。
涙を拭き、その人の手を握る。
「チャット。君は素晴らしい人間だと分かった。君は僕の光明だ」
「!!」
「二人で旅と戦いを続けよう」
「ユゼル様……!」
メイドの少女が瞳を潤ませて主人を見つめる。
その背後にパアッと出現した歯車の挙身瞭は、完全に元通りの輝きを放ち、ゆっくりと確実に時計回りをしている。
「邪哭龍を倒す方法を考えよう! 二人で考えれば大丈夫だ! こんなところで僕らは死なない!!」
力を込めて伝える。
まぶしい笑顔が返ってくる。
「はいっ!!」
――――――――――
僕らは洞窟の奥を調べ、濁流に通じる以外の安全な出口を探し、やがて上から差し込む光を発見。
僕一人が先行してその縦穴をよじ登り、直径二フィート四インチほどの円形の出口から顔を出して外界を観察する。
邪哭龍は降りてこなさそうな様子。
赤い太陽に染まった上空を巨大な影が旋回する。まだこちらには気づいていない。
穴の周囲は焼け野原が広がる。
炭化した倒木が無数に転がっている。
チャットも同じように登ってきて顔を出す。
狭そうに体をよじる動作をして、ふふっと僕に微笑んだので、こちらも笑顔を返す。
その後、二人とも真剣な目を空に向ける。
僕らは魔獣を倒すつもりだが、これは無謀なことではなく、計算の結果だ。
大丈夫と確かめ合うように二人で頷く。
僕らには「三つの作戦」がある。
互いに意見を出して練り上げた作戦だ。
AIだった彼女に頼り切ったわけでも、人間の僕が独断したわけでもない。
互いを尊重して最善を尽くした。
これが駄目なら、運がなかったと諦めがつく。
ピュウ、ピューイッ!
僕が口笛を吹く。
空に向かってよく響くように。
音に気づいた邪哭龍が、首の赤い断面を地上に向ける。
「グオオオオン!!」
抹殺するべき人間二人を見つけて叫び、急降下してくる。
チャットは東へ、僕は西へ、穴から同時に駆け出す。
直後、熱光線が洞窟の出口を切り裂く。
背後から灼熱が伝わってくるが、僕らに被害はない。
邪哭龍にはしっかりと知能があり、東西の両サイドに回り込もうとする人間共を見て、対処の優先順位を考える。
男よりも女のほうが弱そうで早く倒せると判断したらしい。
チャットに向かって飛びながらビームを撃ちまくる。
少女は跳んだり転がったりして必死に回避する。
ところが突然、その攻勢が停止。
進撃を慌てて取りやめ、横へ回避するように羽ばたく。
なぜなら――
チャット・メイドがピストルを向けている。
これが「三つの作戦」の最初の一手だ。
銀弾と火薬を再装填したピストルを彼女に渡しておいた。
僕はそれと交換して炎の弓「火喰禽」と矢筒を持っている。
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