破滅の炎 吹き荒れた
コウモリ型の魔物・貶翼がギャッギャと楽しそうな声で鳴きながら邪哭龍の周囲を飛んでいる。
おそらくそいつが人間二人の存在を知らせ、親玉を呼び寄せたのだ。
ところが、その鳴き声が嫌われたらしい。
邪哭龍の斬首されたような部位が空中の小うるさい魔物に向けられ、そこから突然、一直線の光が飛び出す。
融けた鉄のごとき色の熱光線が貶翼を瞬時に焼き殺し、塵ひとつ残さない。
魔物を仲間と思わない暴力性。
それが今度は僕らに向けられる。
魔獣の首が旋回を始めると同時に、僕は走り、チャットの手を引く。
危険の中心から少しでも遠ざかるために。
頸部の切断面が人間二人に狙いを定め、発光。
僕が射線を読んで直前で切り返さなければ直撃していた。
熱線が、黒く焦げた一直線のラインを地面に刻み、その先で密林を爆発・炎上させる。
少女を連れて全力で駆ける。
「なんだ、あの攻撃! 射程が長すぎる!」
敵の視界に僕らがいる限り、遠くから延々と発射されるだろう。
まだ燃えていない方角のジャングルへ逃げ込むことに。
姿を隠して光線の狙いをつけさせない策だ。
チャットが後ろで叫ぶ。
「あのっ! 逆に接近して銀弾で撃てば倒せませんか、ユゼル様!」
「餓掠鬼のときみたいに瞬殺できるかもしれないし、全然効かないかもしれない! 二択に賭けるのは危険だ!」
「なるほど、さすがユゼル様! 『三十六計、逃げるにしかず』ですね!」
そんな格言を僕は知らないが、ともかく正面対決を挑むつもりはない。
密林の中を南向きに進む。
走りながら振り向く。
木々と下草の向こうから、また赤熱の閃光が発射される。
僕らの姿が見えないので狙いをつけずに撃ったらしい。
射線が東方に逸れ、その方角のあらゆる草木を炎上させる。
まるで炎の壁が現れたかのよう。
(炎に東を塞がれて、そっちに逃げられなくなったな……)
走るベクトルを西寄りに変更。
チャットは決して躓いたりせず、しっかりついてきている。
足が速くないのによく頑張っており、頼もしい。
だが、次の熱線が、今度は森の西側を炎上させる。
東西の逃げ道を封鎖された。
「グオオオオオン!!」
しかも、鳴き声が響くと同時に、突風が吹き始める。
爆心地を見ると、密林に遮られて判りにくいが、邪哭龍の翼が力強く羽ばたいている。
「まさか……!?」
絶句する僕。
敵が、飛ぶ。
ゆっくり浮上して百七十フィートほどの高度に達し、しばらく空中を旋回。
人間二人を探す。
幸いにも、まだ焼けていない木々の鬱蒼とした樹冠が目隠しになってくれる。
僕らは下手に動かず息を潜める。
空から熱光線は飛んでこない。
――人間を発見できなくても、邪哭龍の作戦通りだったらしい。
敵がすーっと南へ飛んでいく。追撃を諦めたのかと思ったが、
(……いや、これ、まずくないか?)
姿の見えない遠い場所からズシン……と着陸の音が響く。
その方角は真南。
爆心地から見て南東と南西に光線が発射され、炎の壁ができたことにより、密林は扇形に区切られている。
すると南が唯一の出口となるはずだったが、そこへ魔獣がおそらく移動した。
囲まれた。
逃げられずに焼死か、それとも無理に南を突破しようとして返り討ちか。
人を憎み、残らず殺そうとする邪哭龍の、残忍かつ狡猾な戦略。
この魔の手を破る方法を、僕は思いつくことができない!
「――ユゼル様! 今の風向きってわかりますか!?」
見ると、チャットが決然と弓を引き絞っている。
「風!? 木の揺れ方から考えて、西から東へだいぶ強く吹いているが、それがどうしたんだ!?」
「わたしの前世にあった日本って国に、ヤマトタケルという英雄の伝説があります」
こんなときに伝説の話?
「彼は、敵に騙されて草原の真ん中に呼ばれて、周りに放火されました。どうやって助かったと思います?」
「わ、分からない」
「ヤマトタケルも放火して、火と火をぶつけて消したんです!」
ニヤリと笑ってメイドの少女が炎の弓を引く。
東の密林に次々と火矢を撃つ。
射られた大木がたった一撃で凄まじく炎上する。
そうして生まれた新たな火の手が、強風に乗って東へ進んでいき、僕らのほうにはやってこない。
じきに、東の遠方で二つの炎がぶつかった。
空を刺すような猛火。バチバチと鳴って舞い上がる火の粉。
何十本もの大木が真っ黒に焦げ、ひっきりなしに倒れる。
しばらく待つと本当に火が消えた。
燃えるものが全て燃え尽き、炭化した木々がひたすら転がっている広大な逃げ道が東方に出現した。
「グオオオオオオ!!」
南の空から近づく咆哮。
包囲を破られた黒い龍が、小賢しい人間を許すまいとしている。
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