何を支えに生きてきた
十五歳になったラグリィは、誰もが認める「姫殿下の宮尉」だった。
行事や会食に出席する姫君のそばに必ず彼女がいた。
若く健やかな肉体を持ち、眉目秀麗、頭脳明晰。
命令されずとも主君の望みを察して振る舞える。
日々武芸を鍛錬し、特に弓術は同年代でライバルがいないほど上達。
『うふっ、ラグリィ。わたしの大好きな宮尉様』
年下の王女は公の場では澄ましていたが、人目がなければいつも戦士に微笑む。
『昼も夜も寝るときも、わたしが呼んだら来てくださいね? あなたとはいつまでも一緒ですよ?』
『はい、姫殿下。そのご命令は絶対です』
少女は厳粛に跪き、主君の手指にキスをするのだった。
――ところが、この比翼の関係を妬む者がいたらしい。
突然ラグリィは「王女への凌辱」で告発された。
告発者の用意は周到だった。
裁判がすぐさま開かれ、「深夜に姫君の寝所に乱入していた」「おいたわしい叫び声が聞こえた」「姫君のベッドシーツに鮮血が付いていた」という証言者が続々登場。
この審理の存在は少女の家族や王女には知らされず、また弁護人も用意されなかったため、ラグリィの味方はいない。
必死に無実を訴えたが、最後は拷問の苦痛に耐えられず、暴行を自白。
五人の陪審員が一致して有罪を告げた。
まだ若いという理由で斬首を免じられ、流刑に。
姫君に別れの挨拶もできず追放された。
その後はひたすら大地で孤独だったのである。
――――――――――
僕は自分よりも彼女のほうが悲惨だと思った。
第三王子ユゼルは高慢で周囲に嫌われて流刑になった。つまり因果応報だ。
一方のラグリィは、真面目に宮尉を務めていただけで冤罪を食らった。
しかも僕はチャット・メイドに出会って助けられたが、褐色の少女はずっと孤立無援。
その境遇を想像するだけで胸が痛くなる。
ただし少しだけ疑問もある。
僕は王宮にいたとき、数年に一度フィスモルを訪ねる都市国家ロクリアンの外交使節と何度か会食をした。
彼らによれば、その国の王族は男ばかり。若い王女がいるという話は聞いていない。
……当然、僕は他国について何でも知っているわけではなく、ラグリィの話を無闇に疑うことはできないが。
褐色の少女戦士は無感情な右目で夜空を見つめている。
「思い返せば、姫殿下と過ごしたあの日々は、人生の全てだった。あの人が喜べば嬉しく、ムッとされれば落ち込んで、それでも心を鬼にしないといけない時もあって、悩んで――結局、あの人のことばかり考えていて、それで満足だった。あの頃に戻れるなら戻りたい……」
「…………」
僕にはわからない。
彼女にどんな声をかけるべきか。
「私は何の話をしていたのか――そうだ、付き人のことだ。あの忠義なメイドは昔の私に似ている。当時は主人に尽くして全身全霊を捧げることが当然の義務だった。それが人生の意味だった」
人生の意味。
重い言葉の響き。
「姫殿下に出会って、私は人生を決定付けられた。おそらくあのメイドも、そういう経験があるから、王子に命を捧げると決めたのだろう」
……と言われても分からない。
僕はチャットの過去を全然知らない。
「これは推測だが、あの付き人が不惜身命、捨身飼虎の決意をしたきっかけは王子、お前ではないのか?」
まさか!
彼女は浮遊洲から飛び立った頃から規格外の忠誠心だった。
それが僕の影響だと?
出会う前の人間にどうやって影響を与えるんだ。
……もしかして、あれより前に僕らは出会っていたのか?
いつ? どこで?
ただしラグリィも僕も結局、チャットの心理と来歴を想像で語っているだけ。
自分が絶対に正しいと言える根拠はない。
天を仰ぎ、ハァー……と息をつく僕。
じっとこちらを見ている右目に気づき、そこで彼女に、気になっていたことを質問する。
「ラグリィ……流刑の先輩なら教えてくれ」
「何だ」
「今の君は、なぜ強いんだ? 家も畑も井戸も作って、一人でたくましく生きて、何を心の支えにしてきたんだ?」
――――――――――
翌日。
赤い太陽に照らされた密林で、十一番目の「標識」を発見。
長さ三フィートほどの木製の支柱が立っている。
二つの矢印が支柱の先端で別々の向きを示す。
すでに僕らが通った方角の矢印には「三百ヤード先 第十番」と書かれ、これから行きたい方角の矢印には「四百ヤード先 第十二番」と書かれている。
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