重なるものを見出した
「付き人から聞いた今までの話を思い出すと、王子が宮廷の陰謀に巻き込まれた流浪の殿下だったことは解る。だが、あのメイドがそこに付き従う理由は、全く判然としない。私はこの点が納得できない!」
小屋の裏手でラグリィが僕に詰め寄る。
ちゃんと説明するまで逃がさんぞと言わんばかりの異様な迫力。
「だから私は推測した。答えは……愛だ! 甘い男女の愛だ! そうだろ?」
熱っぽい息づかい。
胸の膨らみや腰つきが、蓑に覆われているものの、僕のすぐそばに。
紅潮する彼女の顔と耳。
高い体温が伝わる。
「主人とメイドの関係だが、実は恋仲で、流刑になった王子を愛するがゆえに大地まで追いかけてきたのだろう? この推論で正解だな?」
……ま、間違っている。
「何? 恋人でないなら、すでに夫婦か?」
もっと間違っている。
首を振ったら、襟を掴まれ、
「おいおい待てッ! まさか内縁関係? いや、セ〇〇か!? 気が向いたときに隠し部屋でファ××したりディ△△△△△△させたりするような関係か!? お前はどういう了見だ! メイドにお手付きした挙句、関係を世間に認めさせず、性□□□□に甘んじさせるとは、恥ずべき所業!! 代わりに私に詫びろッ!! 」
何が逆鱗に触れたのか分からない!
ちなみに下品な部分は、高貴な王族である僕はこれを紹介したくないので、伏せ字とした。
ところがラグリィが急にスンッ……と真顔に。
僕から離れ、斜め下を向いて考え込む。
「……いや待て。しかし……あ、そうか。主人とメイドの関係においては、秘めた恋愛のほうが互いに盛り上がるのでは? 表面的にはビジネスライクな主従だが、裏では豹変する男女。二人きりになると始まる『特別な命令とご奉仕』。なるほど……いいな……私の趣味はやはりこうだ……」
何これ、性癖の暴露?
情緒不安定すぎて付き合いきれない……。
その後、また様子が一変。
全てを見抜こうとするような無表情の右目が僕に向けられて静止。
彼女自身の大問題であるかのように、単刀直入に訊かれた。
では、男女の仲でないなら、どんな関係だ。
単なるメイドが主人のために命を張るのか。
なぜ付き人は大地にいるのだ。
……。
…………。
僕は腕組みして、俯いたり、夜空を見たり。
言われてみたら難題だ。
天上界での順調な暮らしを放棄して大地に飛び降りたチャット・メイド――その行動原理を僕は「並外れた忠誠心」とだけ理解してきた。
しかし、なぜそれほどの忠誠心を持つに至った?
いつ、どんな出来事があって?
要するに僕は彼女について無知だった。
特に前世が分からない。
機械の人工知能として存在するとはどういう感覚なのか。
日々どんな感情で過ごしていたのか。
そもそも肉体がないのに「生きていた」「それが前世だった」と判断していいのか。
もっと彼女を知ろうとするべきだった。
なぜ出会ってからの十数日で僕はそうしてこなかった?
するとラグリィが、ふと思いついたように言う。
「――考えてみたら、付き人の心情は私のほうが解るかもしれない。なぜなら彼女は、昔の私に似ている」
昔の私?
「流刑になった理由を、まだ互いに話していなかったな。王子がそれを明かすかはさておき、私のほうは躊躇なく喋るつもりだ。これは大地を生きるお前たちの参考のためだ。甘い考えの人間に釘を刺してやろう」
左目の辺りを隠す前髪を、一瞬だけ、掻き上げる。
「ラグリィ……!?」
それから自身の来歴を話してくれた。
――――――――――
ロクリアン島はフィスモル島から北西に百七十マイルほど離れた空に浮かんでおり、ラグリィ・パヴァーヌはその都市国家で生まれた。
宮尉の家系の十四代目だった。
王族の盾や槍となる崇高な使命を継承していた。
八歳のとき、ある姫君の遊び相手になった。
白い肌、蜂蜜色の髪、おとなしい年下の七歳。
その彼女とともに双六、ままごと、読書、動植物の世話などに明け暮れた。
遊びとはいえ使命だった。
表面的には子供の娯楽でも、それは王女の情操教育という大切な側面を持つ。
一つ年下の主人を喜ばすだけでなく、時に厳しく接する必要もあった。
褐色の少女は真剣にその役を務めた。
自分の働きを振り返り、夜を徹して悩んだりもして、成長。
そして……運命の七年後。
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