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番狂わせの夢だった

 小屋でラグリィが言う。


「私は魔物と魔獣を分けて考える。魔物はどこかから湧いてくるモンスターだが、魔獣は人間の成れの果て。お前たちが見つけたあの墓の主もおそらくそうだ。浮遊洲(ロフトランド)に戻れない全ての人間は、救いようのない嘆きを抱え、等しくそうなる」


「何が言いたいんです? ラグリィさん」


 チャットが立ち上がって相手を睨み、敵愾心を隠さない。


「いつかあなたもわたしもユゼル様も魔獣になるって言うんですか?」


「……さあな。所詮は憶測だ」


「憶測で語らないでください。未来を信じてるわたしたちに失礼です」


「未来? 甘いな、付き人。日々の糧を探して命を繋ぐだけの我々に未来があるものか」


「ううん、わたしたちは違う。浮遊洲(ロフトランド)に帰る計画をちゃんと立ててます。ユゼル様が魔王を倒せば、世界中がユゼル様を尊敬して迎えの船を出すんです」


「『黄金照記(ゴールデンベルク)』に描かれる魔王を信じているなら、やはり考えが甘い。私は『聖典(タブロー)』の分冊を何百周も読んだが、救われたことはない。だから魔王の伝説は信じない」


「ほんとにわたしを怒らせたいんですか?」


 衝突のエスカレートを危惧する僕の顔をちらりとラグリィが見て、


「――なるほど。気分を害したようだ。反省しよう」


 と言いつつ、全然反省してなさそうな無表情。


「だが、私は流刑の先達として伝えるべきことは今後も伝えるつもりだ。そして――」


 椅子から立ち上がってメイドを睥睨する。


「付き人よ。お前は賢いが、常に正しいとは限らない。たとえばお前は、あの墓にフルーツを捧げて祈るのが最善と判断していたが、本当に最善か? 魔獣になったかもしれない元・人間の怨念が、果たしてその程度で癒されるのか? 実はその魔獣を倒して滅ぼすことが一番の弔いだったかもしれんぞ?」


――――――――――


 スラー橋の野営に戻って夜を明かす予定だったが、そうしなかった理由はこうだ。


 あの近辺は、なんと邪哭龍(ワイバーン)の水飲み場であり、ラグリィはふらっとそこへ行ったとき、最も厄介な戦いになったそうだ。

 水浴びなどをして緊張感ゼロだった僕らが襲われなかったのは、単にそのころの邪哭龍(ワイバーン)が遠くにいて人間の侵入に気づかなかったから。

 要するに極めて幸運だったのだ。


 ラグリィがこれらのことを教えてくれて僕は青ざめた。


 そして彼女の提案に従い、一晩この家で泊まることにした。


 ちなみに夕食は、家主が作ってくれたトマトとモグラのシチュー。

 土臭くて吐きそうだった。


――――――――――


「王子よ。話がしたい。少し外に出ないか」


 いきなり囁かれて面食らった。


 何の話なのか分からない。


 あからさまに不味そうな表情で食事をしていた配下のメイドへの苦情?

 それとも家が狭いから外で寝ろとでも?

 久し振りに屋根の下で休めるなら、僕は土間でゴロ寝でも構わないのだが。


 チャットはベッドで毛皮の布団に包まれ、気持ちよさそうなふにゃふにゃの笑顔で爆睡中。

 よだれを垂らして寝言。


「わぁ、ユゼル様……Googleが西松屋に買収されましたよ。うへへ……」


 さっきまでは真逆の様子だった。

 このメイド少女はラグリィ・パヴァーヌを根本的に信用しておらず、ここで泊まることに反対だった。そして渋々了承した後は、二人が交代で寝て家主を監視することを提案した。「うっかりしてたら寝首を掻かれるかもです!」とか言って、まるで殺人犯と同居するような警戒ぶりだった。


 ところが彼女は長いサバイバルで疲れ切っていて、三人揃って食後に外の井戸端で食器を洗っていると、うつらうつらと揺れて目が閉じかけていた。

 ラグリィがベッドを貸すと言い、チャットは嫌がったけれど、どう見ても寝かすしかない状態。

 僕が抱き上げて毛皮の布団に押し込むと、彼女は一分足らずで眠りに落ちた。


 これでいい。


 ずっと支えてくれた功労者にはたくさん寝てほしい。


 あと僕は、左目の隠れた少女を、そんなに警戒するべきとは思わない。


 人当たりは悪いが、ラグリィの自給自足の暮らしは大変参考になる。

 今までどのように生き延びたのか、詳しくインタビューしたいくらいだ。


 という風に思っていたら突然「外に出ないか」と耳打ちされたのだった。


 褐色の少女戦士に従ってそっと玄関を出ると、井戸端で食器を洗ったときも気になった奇怪な光景が目に入る。


 この密林では昼の太陽だけでなく夜空さえも赤い。

 月と星と天の川が紅茶のごとく深い赤みを帯びている。


 これは普通の自然現象?

 いや、何か超常の力が働いている?


 煙突の裏手に進んだラグリィが僕のほうを向いて空を指さす。


「赤いだろう。なぜかずっとこうだ。怒りの炎、あるいは滅びの美しさのようであり、ただし私は見慣れているから、もう感銘は受けない。まあこれは単なる話の枕に過ぎないのだが」


「……本題は何だ?」


 すると急に彼女がグイッと接近。


 無表情の右目が僕の顔に迫る。


「ところで、王子と付き人は、恋人か?」


「は……?」


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