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男はそれに憧れた

 少女が一人で拓いた畑。

 そして一人で建てたログハウス。


 玄関扉は、右側が木の蔓で蝶番のようになっている。

 左側にも木の蔓が付属し、こちらは適宜ほどいたり結んだりしてドアノブのように使うらしい。


 左目の隠れた少女、ラグリィ・パヴァーヌが左の蔓をほどく。


 早速僕も中へ入ろうとする――しかし、チャットが来ない。


「どうした」


 無愛想に訊いたラグリィに対し、三十フィート(9m)ほどの後方からメイドの少女は敵対的な視線を送る。


「ラグリィさん。このへんで稀龍(ドラゴン)って見かけます?」


 あっ、それは僕も気になっていた。


 そもそも、行きたい西の方角に稀龍(ドラゴン)が飛んで行ったので、そいつが街道のどこに潜んでいるのかと偵察に出たのだ。

 古い墓を見つけ、ラグリィと出会い、ついていき、家と畑を見せられ……多くの出来事で気が散りそうだったが、僕は決して当初の目的を忘れていない。


「骨みたいな白と血のような赤の、禍々しい怪物です。何か知ってることあります?」


 チャットの口調は問い詰めるかのよう。


 ラグリィが冷徹に応じる。


「私が稀龍(ドラゴン)と会うことはないぞ。付き人」


「え、わたしのこと『付き人』って呼ぶんですか」


「メイドとはすなわち付き人だろう。何の問題が?」


「正直、嫌いな呼び方です。相撲部屋の弟子みたいでしょう」


 スモーベアとは何なのか僕には分からない。


「ちなみに邪哭龍(ワイバーン)なら近場でよく見るぞ」


 僕が「邪哭龍(ワイバーン)?」と聞き返す。


「ああ。黒くて二本足で火を噴く、あの厄介な魔獣だ。このジャングルを縄張りにしている」

 

 二度目になるが紹介しよう。

 邪哭龍(ワイバーン)の足は二本。稀龍(ドラゴン)は四本。

 前者は残虐な魔獣。後者は諸説ある。


「ラグリィさん、じゃあなんで、その邪哭龍(ワイバーン)のいる危ないジャングルに住んでるんです?」


「答えよう、付き人。この辺りは熱帯のフルーツが多く穫れる上、苦労して作った家や畑を簡単には捨てられない。しかも全てのエリアが危ないわけでもない。魔獣の縄張りは、休む場所、餌をとる場所、見回りをする場所、などという風に分散している。私の家はそれらから離れていて安全だ」


 チャットは初対面で火矢を向けられて根に持っているのだろうか。

 気を許す気配がない。


「ほんとに安全って言えるんですか」

 

「もちろん言える」


「何か証拠があるんですか」


「長らく住んでいて敷地に入られたことがない」


「具体的にどのくらい住んでるんです? 何ヶ月? 何年?」


「さあな。日付を数えなくなって久しいから、自分でも分からない」


「――――――――そうですか」


 距離を取っていたメイド少女が家のそばへ。


 納得した様子ではなく、一時休戦して相手の責めどころを探ろうという雰囲気だ。


「入れ」


 ラグリィが僕らを玄関に導く。


 ログハウスの内部はおよそ十七フィート(5m)四方。

 まず靴を脱ぐ土間がある。


 部屋の右はベッド。左は机と椅子。

 板張りの床に筵が敷かれている。


 暖炉を兼ねた竈が奥にある。今も火が焚かれて室内は暖かい。

 ベッドに広げられた二枚重ねの大きな毛皮は、掛布団と敷布団の役割。

 机はインクの小瓶、羽ペン、『聖典(タブロー)』の古めかしい分冊|(数十巻のうちの一冊)が立てて置かれている。


 一人でサバイバルをしてきた家にしては整頓されて清潔。

 これらの調度を独力で揃えたというから、まさに驚異的だ。


 丸太の壁に打ち込んだ木の釘に弓と矢筒を引っかけ、ラグリィが椅子に座る。

 無愛想にベッドを指さす。

 そこに座れと僕らに言っている。

 断る理由が無いのでその通りにした。


「魔獣の話をまだ聞きたいようだな」


 左目の隠れた少女がメイドを一瞥し、その後はもっぱら僕のほうを見る。


邪哭龍(ワイバーン)は縄張りに入った人間を必ず殺そうと追い回す。私も何度か縄張りに入ってしまい、面倒な戦いを強いられた。しかし頭ごなしに責めてはいけない。あれでも、わずかに人間性を備えている」


邪哭龍(ワイバーン)に人間性?」


「その通りだ。王子」


 僕のことは王子と呼ぶらしい。


「実は『聖典(タブロー)』にもそのように解釈できる記述がある。丁度私が持っている分冊の、確か二五〇ページあたりに書いているはずで……」


 机に立てられた古書をラグリィが取ろうとする。


 だが、何かに気づいて思い留まったのか。

 スッと手を引っ込めてしまった。


「……人間性の説明を続けよう。私は邪哭龍(ワイバーン)に出会うと、必ず『声』が聞こえる」


「声?」


「実際の声ではなく心の中に送られるテレパシーだ」


 魔獣は左目の隠れた少女を殺そうとしながら、こう告げるという。



 聞ケ!


 (ワレ)モ人間ダッタ。


 ダガ、愛スル者ニ裏切ラレ、コノ地デ、犠牲ニナッタ。


 愛シタ者デサエ、コレホド醜イノダ。

 全人類ハ、ヨリ醜イニ違イナイ。


 コノ事実ガ、我ヲ絶望サセタ。

 人間トイウ存在自体ガ、罪深ク危険ダ。


 アア! 憎イ、憎イ! 人間、憎イ!

 人間、死ネ! 死ンデシマエ!!



 ラグリィが淡々と語る。


「要するにあの黒い龍はこう言っている。『自分は昔、人間で、大地で殺され、人を恨むようになった』。王子、この意味が分かるか?」


 ……!!


 大地で死んだ人間が、魔獣に変化した。


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