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片目を秘めて現れた

 衣服らしい衣服を着ていない。

 褐色の肌が光沢を放つ。

 胴も四肢も引き締まって若木のように張りがある。


 蓑に覆われた胸と腰には、隠しきれない女性的な膨らみ。

 背は五フィート五インチ(165cm)ほど。


「誰だ。その墓に何してる」


 ジャングルに現れた戦士が火矢を向けながら問う。

 狙いはただ一点。僕の心臓を射抜く準備ができている。


 チャットが震えて答える。


「こ……こちらにいらっしゃるお方は、都市国家フィスモルの第三王子、ユゼル・フォルシュピール・フィスモル殿下です。わたしのほうは不惜身命・捨身飼虎の決意でユゼル様を支えるメイド、チャット・メイドです」


「――殿下(プリンス)とメイド?」


 戦士の、抑揚の少ない声。


「ユゼル様は流刑になった人です。お父さんやお兄さんたちに罪を着せられて、大地に流されてしまったんです。悪い人じゃありません」


「冤罪の流刑者だと?」


「ど、どうか射ないでください」


「面白半分の探検者じゃない、というのか」


「はい。わたしたちはそんなんじゃありません」


「…………」


 しばらく静止した後に「解った」と呟き、矢をピュッと振って火を消し、腰の矢筒に戻す。


「脅かしたことの謝罪はしない。私はその墓が大事だ。昔の人物が墓碑銘に込めた悲痛な心情を後世に残そうと思っている」


 熱帯植物の葉によるカモフラージュを脱いで顔貌が明らかになる。


 髪型はショートカット。

 左の前髪だけ長い。

 黒炭のような色味の黒髪が左目を隠している。


 隠れていない右目のほうは全くの無表情だ。

 鈍い真鍮色の瞳。

 不機嫌か、虚無か。どちらにも見える。


 歳はチャットと同じくらい。


「もしお前たちが探検者で、その墓を天空に持ち去ったり壊したりしたら、私は許さなかった。死角から火矢で突然攻撃しただろう」


 怖い人……。


「私はラグリィ・パヴァーヌ。ロクリアン島の流刑者だ」


 ロクリアン島は僕の故郷・フィスモル島の北西百七十マイル(280km)に浮かぶ独立都市国家だ。


 あそこにも大地への流刑があるとは知らなかった。

 むごい罰を下す政治家がどの国にもいるらしい。


 そしてこのラグリィこそが、僕らが発見したかった「大地で生き延びた人間」の第一号。

 十数日の旅が報われたのである。


「それにしても、久しぶりに人間と会って妙な気分だ」


 弓の弦をボヨンボヨンと弾く。

 結構面白い音だが、楽しんで鳴らしているようには見えない。

 褐色の戦士は無表情のままだ。


「そうだ。お前たちが望むなら、我が家に寄ってくれて構わない」


「え、我が家?」


 僕が聞き返す。


「長い間大地に住んでいれば、家がないと不便であるのは自明だろう」


「まあ確かに」


「当然、頼れるのは自分一人。木を丸太にして組み上げるのも、石を積み上げるのも」


 僕は純粋に声を上げた。


「自分で丸太や石を! すげーっ」


「なんだ、お前たちは家を用意していないのか。つまり、大地での暮らしが浅いから、家に定住する必要性を感じていないらしい」


「はあ」


「それは甘い考えだ。そんな甘い認識でいつまでも生存できると思ってはいけない。大地とは食うか食われるかの世界だ」


 急に説教臭い。


 ラグリィが僕らに背を向け、


「やはり我が家を見て学ぶべきだ。来い」


 元の茂みの中へズンズンと進んでいく。


 ……何これ?

 どうしよう。ついて行く?


 しかしあまり迷わなかった。


 ラグリィ・パヴァーヌが魔王の手がかりを知っている可能性を考えれば、性格に難があろうと、しばらく彼女に付き合うべきだ。


 褐色の戦士を追いかけて獣道に入る。


 しばらく赤土や木の根を踏みしめて歩いていき――

 ――驚いた。


 密林が突如ひらけた景色になり、畑が現れる。

 およそ八十ヤード(70m)四方の土地。

 獣害を防ぐ木製のフェンスとバリケードに囲まれ、整然と畝が並ぶ。

 サツマイモ、トウモロコシ、トマト、サヤインゲンなどが順調に育っている。


「……!!」


 僕は子供のごとく純粋に目を見張った。


「この程度の畑を自分で作れないようでは、安定的に命を繋ぐことは出来ない。呑気に大地を歩き回っているお前たちは甘い」


「ラグリィ、このあたりを全部一人で開墾したのか?」


 褐色の戦士が血のように赤い日差しを浴びて振り向く。


「そうだ」


「種や苗はどこで集めたんだ?」


「ジャングルを探し回れば、野生のものが意外と見つかる」


 平坦な声。自慢のようには聞こえない。


「水やりはどうしているんだ?」


「井戸水を撒いている。井戸の掘り方は自分で考えた」


「すごいな……肥料は使っているのか?」


「薪を燃やしたあとの灰と生ゴミを混ぜてしばらく寝かせると、いい肥料になる」


「ひたすらすごいな……」


 畑のそばに小屋が建っており、これが彼女の家だという。

 樹皮を剥いで刻み目を入れた丸太を何十本も噛み合わせた平屋のログハウスだ。


 玄関に板戸がついている。

 屋根に大量のヤシ、バナナの葉を葺いている。

 裏手の外壁に密着して煙突が聳える。

 石を高く積んで隙間を粘土で埋めており、中で火を焚いても丸太や屋根が燃えない。


 完成までの手間を思うと気が遠くなりそうだ。

 板戸を一枚削り出すだけでも、どれだけ大変なことか!


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