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血と白骨の色だった

 白と赤の龍が頭上を通過。

 西へ飛びながら高度を下げていく。


 巨大な全身が次第に木々に阻まれて見えなくなり、僕らに吹きつけた強烈な風もやがて止んだ。


 今の騒ぎが夢だったみたいに樹海が元の様子に戻る。

 いつものように川がさらさらと流れ、いつものように野生動物の鳴き声が響く。


 僕は青ざめる。橋の延長線上に伸びていく街道を見つめて。


(まさか、あいつ、僕らが行きたい西の方角に着陸したのか……!?)


 ところで邪哭龍(ワイバーン)稀龍(ドラゴン)の差は足の数だ。

 邪哭龍(ワイバーン)が二本で、稀龍(ドラゴン)は四本。


 前者は強大な魔物であり、畏怖の意味を込めて魔獣とも呼ばれる。

 口から火を吐き、一夜で八万八千人を焼き殺したと『聖典(タブロー)』の中の『鬼物伝(ズーロジク)』は言う。

 また天上から大地を訪ねた探検隊を八つ裂きにしたとする歴史資料もある。


 一方、今目撃した稀龍(ドラゴン)は、善か悪か、実は判然としない。


 その姿を目撃した人間にとびきりの幸福を齎すとも、逆に邪哭龍(ワイバーン)よりも多くの人を虐殺したとも伝わる。

 本当は聖獣なのに邪哭龍(ワイバーン)の悪いイメージが混入したとか、個体によって性格がバラバラだとか、諸説ある。


 街道の先の景色に異変はない。

 しかし、この先のどこかに稀龍(ドラゴン)が着陸した。


 どうすればいい。


「うーん……二つの場合に分ける必要がありますね」と、チャットが頭をひねる。


「それが善である場合と、悪である場合だな」


「はい。稀龍(ドラゴン)が人間の味方なら話は簡単です」


「恐れずに予定通り、今日は橋の上で野営して、明日からまた街道を進めばいいだろうな」


 途中で出くわしても害はなく。それどころか、幸運や知識や武器を与えてくれたり旅の仲間になってくれたりするかも。


「でも敵だと……非常に困ります」


「『魔王を倒す運命にある勇者は龍くらいは普通に倒せる!』と豪語したいが、まだそんなに自信はないな……」


 遭遇を避けるいくつかの方法も一長一短だ。


 樹海の中を迂回して敵を避けたらどうだろう?


 ……いや、稀龍(ドラゴン)の居場所がそもそも判らない。

 迂回したつもりが相手の真正面に出てしまうなんてことが起きうる。


 街道を逆戻りするのはどうか?


 西方にいる敵から離れて安全に旅ができる。

 だが、渇きに耐えた最近の数日間の道程を今度は逆向きに歩かねばならず、心身ともにキツいことが予想され、選ぶには勇気が必要だ。


「前みたいに河原を歩いても、川が蛇行して稀龍(ドラゴン)の正面に出てしまったら……うーん、困りました……」


 賢いチャットでも悩むとは。


 誰かが思い切って決断しないと。


 ……そうか。僕が決めければ。


 もちろんよく考える必要がある。

 間違えば全滅するかもしれない選択だ。


――――――――――


 結論から言えば、偵察に出た。


 今晩スラー橋の上で野営をすることは確定とした上で、まだ日が暮れるまで時間があるので、その間に稀龍(ドラゴン)の居場所を掴めないかと考えたのだ。


 サーベルを抜いて四方に注意しながら街道を進む。

 腰に吊るしたピストルも当然、すぐ撃てるように弾と火薬を装填済み。


 後ろをチャットがついてくる。

 円匙(エンピ)を護身具として大事に両手で握っている。


 前の餓掠鬼(ゴブリン)戦で彼女は戦力にならず、それなら今回はもしものときに逃げ足を早くするため、武器を持たず全力疾走に備えるのが得策と思われた。

 でも円匙(エンピ)に触れているほうが何となく安心するようだ。

 僕はその心情を理解している。


 ちなみに、偵察はある意味、最も自分を過信し、油断した選択だった。


「密林の中に降りた稀龍(ドラゴン)はその場にじっとしている」と、僕は勝手に思い込んでいた。

 積極的に僕らを見つけようと動く可能性を忘れていた。


 また、もし向こうに目撃され、追い回された場合の対策も足りなかった。

「適度にふりむいてサーベルとピストルで牽制しながら走れば、チャットを連れて逃げ切れるんじゃないかなぁ~?」ってくらいの甘い考えだった。


 街道を進んでいくと周りの様子が変貌。


 生えている植物が熱帯のような種類になっていく。


 数ある浮遊洲(ロフトランド)の中には、高温湿潤でジャングルに覆われた島もあるのだが、そこの熱帯性の植生を紹介した図解を、僕は子供のときに読み、まあまあ中身を覚えている。

 ちょうど今見ている景色が本当にそれと似ている。

 大半の植物については名前が判らないが、判るものもある。

 すなわち、ヤシ、バナナ、マンゴー、パイナップルなどが茂って実をつけている。


 土壌も今までと違い、熱帯らしく貧栄養の赤レンガ色の土が広がっているし、聞こえてくる鳥や獣の鳴き声も別物だ。


 なのに気温は高くない。

 むしろ妙に涼しいくらいであり、湿度も低い。


 見上げると、空が赤い。

 血に染まったような紅色の太陽。

 千ヤード(900m)ほど歩いただけであり、まだ夕暮れには早いはずだが。


 さらに千ヤードほど行くと、もはや秋の夕方のように肌寒い。

 血の色の陽光が濃さを増している。


「あっ――」


 足を止める僕。


 箪笥のような四角い物体が街道のそばに立っている。

 蔦が何重にも巻きつき、分厚い苔に覆われ、全体が濃い緑色。


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