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僕のひらめき冴えていた

 四月と思えない暑さ。

 ひたすら歩く僕たちの旅路は、ぎらぎらした太陽光と白い河原の照り返しに晒され、延々と汗が流れる。


 僕は上に着るものをインナーシャツだけにして、装飾だらけの王族の上着は腰に巻きつけている。

 一方、チャット・メイドは自分がメイドであることにこだわり、どれだけ暑くてもメイド服とパンストの装いを崩さずにいる。


 昼間の行軍はたくさん休憩と水分を取らないといけない。

 かと言って夜に動き回るのは視界が悪くて危険が多く、比較的涼しいけれど推奨されない。

 だから僕たちは明るいうちに進む。


 暑すぎるせいで茹だってしまった魚がよく川に浮かんでいる。

 死肉を食べるのは危険と考えたチャットは、朝夕の食事時になると、いろんな食材を調達してくれる――鳥の卵やサワガニ、カメ、ヘビ、カタツムリなど。いくつかは食べるのに抵抗があったが、シェフの腕が素晴らしいので、実際に頂戴すると意外に悪くない。


 食後は服を脱いで川へ。


「ゆ、ユゼル様……お背中、流します……」


 チャットがひどく恥じらいながら僕と一緒に行水する。

 洗ってくれる両手からこちらの背中に緊張が伝わってくる。


「………………か、体の前のほうは、どど、どうしましょう?」


 毎回そう訊かれる。

 本当にそれをさせたら悶死してしまいそうなくらい彼女の顔は真っ赤だし声も震えている。だから僕は今までもこれからも前を洗わせることはないだろう。


 チャットは洗濯もしてくれる。

 行水を終えると、天上界から持参したバスローブを僕に着せ、彼女も自分のものを着る。脱いだ二人分の服は川べりに持っていき、石鹸をこすりつけて揉み洗いし、濯いで絞って河原に広げる。風で飛ばないように石を乗せておけば、暑さで翌朝には乾く。


 洗濯が終わるころには暗い夜になり、僕もチャットも寝床に。

 暑くて寝苦しいし、バスローブ一枚の少女が近くにいることも気になる。


 それに僕は、彼女をフィスモル島に送り返す手段がないものかと頭をひねっている。睡眠不足がしばらく続いた。


熱気船(ねっきせん)」という計画を思いついたのは四月七日の昼下がり。


 野営で僕が初めて火起こしに挑み、成功したときに閃いたのだ。


(!! そうだ、火の上昇気流を受け止める大きな傘や袋を用意しよう。そこに人が乗れる籠を吊るせば、空を浮上する乗り物ができるぞ!!)


 名付けて、熱気船。

 完全に僕のオリジナルのアイディアである。


 作る材料はこの大地に山ほどある。

 木や草から繊維を取って糸にすれば、時間はかかるが、布を織って袋や傘にすることができる。

 人を乗せられるサイズの軽い籠は藤の木などの柔らかい素材を編んで作れるはずだ。


 まるで満月のごとく欠点のないプラン!

 その日の晩は気持ちよく寝られた。


 ……ところが、どんな人間でも、翌朝になると落ち着いてきて重大な見落としに気づくというのは、よくあることである。

 皆さんもどうか、深夜のテンションで思いついた「妙案」は、翌朝以降にちゃんと再検討してほしい。


 熱気船を飛ばすには籠の中や上で焚火をしないといけないが、すると間違いなく船に引火し、火だるまになってしまう!


 焚火を不燃性の素材で囲めばいいのか?

 いやいや、樹海で調達できるのは燃えるものばかり。

 鉄鉱も銅鉱も見当たらないし、見つかったとしても僕には精錬や加工ができない。


 石や粘土、それを使った焼き物などはどうだろう? それなら僕でも作れるかも。

 でも、陶器で焚火を囲めば大変な重量になるはずだ。こんなものを積んだら船は浮かばない!


 どれだけ考えても解決策は出てこなかった。


――――――――――


 四月九日、別の案が浮かぶ。


(……凧はどうだろう?)


 寝床で眠りかけていた夜だった。


 子供が遊びで工作するような簡易な凧ですいすいと人間を飛ばせないことは流石に僕でも分かる。


 モデルにするべきはチャットが大地に降下してきたときの緑青色の凧だ。

 浮遊晶(ロフタイト)の染料でシルクの布地が染められて浮力が発生するため、彼女は一万七千フィート(5000m)に及ぶ滑空を安全にやり遂げたのである。


 実はその凧、僕も使った。


 流刑の際に同型の凧を渡されてフィスモル島の端から飛び降りることを強いられたのだ。


 開けた場所に行きたかったが風に流されて樹海に着陸し、木の枝が刺さって破れてしまった。このシルクの布地を、僕はどこかで使えると思い、いくつかの断片に分けて上着のいろんなポケットに突っ込んでおいた。


 ただし、これを繋いで再び凧に仕立てても足りない。一枚の布では降下しかできなかったのだから、上空へ向かうには浮遊晶(ロフタイト)の布を追加し、浮力を増やすべきだろう。


(チャットもまだ布を持っているはずだ)


 大地に降下したあと、彼女は自分の凧を解体し、骨組みは焚火の薪にしてしまったが、布のほうは確かエプロンの下にしまっていた。


(それを手に入れて作った凧にチャットを乗せて飛ばそう。そしたら、僕のところへ戻ることは諦めて、上手い具合に操縦してフィスモル島へ帰ってくれるだろう……よし、これで行けるぞ!)


 ところが翌朝、改めて考えてみたら、凧を作るって難しい。


 僕の手先は器用じゃない。材料をうまく加工できる自信がない。

 そんな凡人が作った稚拙な凧で天上界まで飛べるだろうか?

 浮力の微妙なバランスを取れず、真っ逆さまに墜落するのでは? あるいは、部材の組み方がダメダメで強度が足りず、あっという間に空中分解するのでは?


 この計画も杜撰だったのだ。


 そして僕は熱気船や凧よりも良いアイディアを思いつくことができず、諦め、打ちひしがれた……。


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