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【BL】魔王様の散歩道  作者: のはな
第8章 誰よりも大切な人
59/60

59.誰よりも大切な

ハルが静かに、だが確かな決意を込めてオルトの隣に立った。


「俺も、一緒に戦います。」


「……お前……」


オルトは目をわずかに見開き、息を呑む。


「もう……見ているだけなんて、嫌なんです。」


ハルは真っ直ぐにオルトの目を見つめ、迷いなくそう告げた。


「……はぁ、仕方ねぇな……」


オルトはわずかに笑みを浮かべ、肩の力を抜くと、前を見据えた。


グォォォォオォッ!!


その瞬間、邪神と化したアジュールが咆哮を上げ、漆黒の魔力をまとった衝撃波を放ってくる。


「行くぞ、ハル!!」


「はいっ!!」


二人は迷いなく前へ――アジュールに向かって、まっすぐに飛び込んだ。


バキバギィッ!!


アジュールは異様な力でツタを操り、鋭い鞭のように襲いかかる。

ハルとオルトは呼吸を合わせ、ツタを切り払いながら応戦した。


斬撃と魔法が交錯し、次第にアジュールは押され始める。


そして――

絡みつくツタの合間、アジュールの胸元に紫色に輝く、禍々しいコアが覗いた。


「ハル!見えるか!? あれがアイツの心臓だ! 狙え!」


「はいっ!!」


だが、アジュールの再生能力は異常だった。

すぐにツタが絡み合い、コアは視界から消えてしまう。


ドガァッ!!


ハルは渾身の力でアジュールの胴を切り裂き、吹き飛ばす。


オルトは黒の手を伸ばし、うねるツタを一気に引きちぎる。


そして、再びコアが露わになった――。


「今だ、ハル!!」


ハルは剣を構え、跳躍し、渾身の一太刀を振りかぶる。


だが――


シュパンッ!!


アジュールの巨体が突然、上空へと跳び上がった。


その全身に、濁流のような魔力が渦を巻く。


そして黒い魔力の球体へと変化した。


「……まさか……あれは……」

オルトが険しい表情で眉を寄せた。


「師匠、あれは一体……?」

ハルが不安そうに尋ねる。


オルトはしばし黙り込み、そして決意を込めて口を開いた。


「……タルールだ。タルールを探すぞ!!」


「え!?どうして今!?アジュールを止めないと――!」


「いいか、あいつは――しばらく動けねぇ」


オルトは荒い息を整えながら、鋭い眼差しで空を見上げた。


「けどな……今、あいつは自爆のために魔力を集めてる。もし爆発すれば……」


声が低くなる。


「この世界ごと、吹き飛ぶ……」


ハルは息を呑んで空を仰ぐ。空に浮かぶアジュールの巨体は、まるで黒い太陽のように禍々しく輝いていた。


「……だから、あいつを封じる方法を――」


オルトはぎゅっと拳を握りしめた。


「タルールに聞かなきゃならねぇ!!」


オルトの声が強く響いた。


「ですが、タルールの居場所が...」

ハルが食い下がる。


「オルダナ城だ。」

オルトが即答した。


「オルダナ城……!?なぜそんなところに?」


「アントとタルールはグルだったんだよ。オレはあいつらに暴走させられた。」

オルトの声に悔しさがにじむ。


「……許せませんね。」

ハルの瞳が鋭く光る。


「ああ。とにかく行くぞ。」

オルトは迷いのない足取りで歩き出した。


こうして、ハルとオルトはオルダナ城へ向かった。


◆◆◆


――その頃。

「ヒヒヒッ……魔界のゲートがこんなにたくさん開くとは……これでついに人間界は魔界のものに……グハッ!!」


ドサリとタルールが倒れる。

その背後に立っていたのは――


「そんなこと……させるわけないじゃないですか。」


教皇アントだった。


「魔人などという穢れた存在を、この城に招き入れてやっただけでも感謝していただきたいものですね。」

アントは冷たく笑った。


「ふふふ……タルールも国王も居なくなり、邪魔者は消えました。これでハルさんが“魔王”を倒せば、カイール神の予言は現実になる!完璧です!」

その声には異様な興奮が混じっていた。


「……それが、あなたの目的だったんですね。」

静かに問いかける声が響く。そこには、ハルとオルトが立っていた。


「どうしてあなた方がここに?おかしい……今頃ハルさんは、魔王を倒しているはずなのに……」

アントが目を見開き、狼狽する。


「おい、タルール!」

倒れているタルールに気づいたオルトが駆け寄った。


「おい……くそっ!」

オルトは即座に黒の手を発動し、タルールの治療を始めた。


「ふふ……その男は、あなたを暴走させた張本人でしょう? なぜ助けるんですか?」

アントが冷ややかに問いかける。


「助けたいわけじゃねえ! だがこいつがいなきゃ、本当にこの世界が終わっちまうんだよ!」

オルトは苛立ちながら答えた。


「……どういうことです?」

アントが怪訝そうに眉をひそめる。


「アジュールが邪神に堕ちて、自爆しようとしてんだ。邪神になった存在が自爆すりゃ、この世界そのものが跡形もなく消えるんだよ!」

オルトの言葉に、アントの顔色がさっと青ざめた。


「な、なんだと……」


パキパキパキ……

黒の手の中からタルールがゆっくりと姿を現した。


「タルール!!おい、目を覚ませ!!」

オルトが叫ぶ。


「オルト様……なぜ、助けたのですか?」

タルールが弱々しくつぶやく。


「アジュールが邪神になって、自爆しようとしてるんだ! どうやって止めるか教えろ!!」

オルトが詰め寄る。


「そんなこと……私が知っているとでも?」

タルールは虚ろに笑った。


「……お前を褒めるのは癪だが――」


オルトは眉間に皺を寄せ、タルールを睨みつけるように見つめた。


「一応、お前は魔界一の科学者だろ? 魔界の魔法を知り尽くしてるはずだ」


タルールはその言葉を聞いて、少し目に光を宿した。


「……倒し方は分かりませんが、封印の方法なら……お伝えできます。」

タルールが弱い声で言った。


「っ……! 教えろ!!」

オルトが一歩詰め寄る。


「それは……強い魔力が集まる場所。マルア山の火口に、アジュール様と……神であるあなた自身の身体を共に埋めるのです。そうすれば力が分離し、この世界が崩壊することも防げるでしょう。」

タルールは震える声で説明した。


「師匠!!」

ハルが声を張り上げる。


「……本当に、それで封印できるんだな。」

オルトが静かに問い返す。


「ええ。私の知る限り……可能です。」

タルールがうなずいた。


「わかった。」

オルトは短く答え、決意のこもった瞳で前を見据えた。


「師匠!!それが嘘だったらどうするんですか!? それに……そんなことをしたら師匠が――」

ハルが必死に言葉をつなぐ。


オルトは静かにハルを見つめ、ゆっくりと口を開いた。


「ハル……オレはな、お前が生まれたこの世界が――好きなんだよ。姉さんが愛してくれたこの世界を……オレも、守りたいんだ。」


穏やかな声の奥に、強い決意が滲んでいた。


「……それに……オレは昔、人間をたくさん傷つけた。奪って、壊して……何も見えてなかった。だから今度こそ、償わせてほしいんだ。オレに……罪滅ぼしをさせてくれ。」


その言葉を聞いたハルは、唇をかみしめながら俯いたまま、強く拳を握りしめた。


「行くぞ」

オルトが振り返り声をかける。


ハルは深く息をのみ込み、黙ってその背中についていった。


◇◇◇


再びアジュールの元へ向かうと、その球体はすでに先ほどの倍以上に膨れ上がり、不気味に脈動していた。


そして、その球体の近くにひとりの茶髪の男が浮かんでいた。

「……あれは……誰だ?」

オルトが小さくつぶやく。


二人は慎重に球体へ近づいた。


「……アジュール様は、ついに邪神になられたのですね。」

その男――ティルが淡々と口を開いた。


「ティル……。お前、ガルディアの隊の兵士だったはずだろ?まさか魔人だったとはな。」

オルトがにらむように問いかける。


ティルは一歩前に出て、表情を変えずに答えた。

「はい。アジュール様にお声をかけていただき、人間界へ潜り込んでおりました。」


ティルの視線が、静かにオルトたちを射抜いた。


「なんだ? お前が俺たちと戦っても、アジュールはもう戻らねえぞ。」

オルトが低く問いかける。


ティルはわずかに目を伏せ、静かに答えた。

「封印するのでしょう? 手伝います。」


「どうして……ですか?」

ハルが疑わしげに尋ねる。


「……ただ、心変わりしただけです。」

ティルはかすかに笑って、淡々と言葉を紡いだ。


そして、ゆっくりと手をかざすと巨大な魔法陣が浮かび上がる。

「マルア山の上空まで、移動させます。」


その瞬間、

シュパンッ

大きな球体が音を立てて転移した。


しかし――

パタリ。

ティルの体が崩れるように倒れた。


「……なんでいきなり……」

ハルが支えながら問いかける。


「神を……移動させたんだ。相当、体に負担がかかったはずだ。」

オルトはティルの脈を取り、静かに言った。


「大丈夫だ。しばらく休めば、目を覚ます。」


「オレはマルア山に行く。……お前はどうする?」

オルトが静かに問いかける。


ハルは一瞬、迷うように目を伏せたが――

「……俺も、行きます。」

力強く答えた。


二人は視線を交わし、そのまま転移魔法を発動する。


シュパンッ


マルア山へたどり着くと、山頂の空に――禍々しい光を放つ球体が、静かに浮かんでいた。

それはまるで、世界そのものを呑み込もうとする異形の太陽のようだった。


ハルはその光景を見上げながら、震える声で口を開く。


「……師匠、本当に……」


俯いたまま、言葉が喉につかえて出てこない。


そんなハルを、オルトは静かに見つめていた。そして、穏やかな声で名を呼ぶ。


「ハル。」


その声に、ハルははっとして顔を上げた。


――ちゅっ


突然、オルトは迷いなくハルの唇に口づけた。


「……俺は、お前を――誰よりも大切に思ってる。」


低く、けれど確かに心に届く声だった。


ハルは目を見開いたまま、しばらく動けずにいた。


「し、師匠……!」


ようやく手を伸ばしたときには――

オルトはすでに球体の前に立っていた。


その背中が、ほんのわずかに振り返る。


「ハル!!……幸せになれよ!!」


叫びとともに、オルトは“黒の手”を展開し、自らと球体を包み込んでいく。


そして、そのままマルア山の火口へ――静かに、確かに沈んでいった。


――ゴゴゴゴゴ……


大地を震わせるような、深く重たい音が山全体を包み込む。


だがその音が消えた瞬間、すべては――静寂に閉ざされた。


「……師匠……俺は最後まで……あなたに守られてばかりだった……」


ハルはその場に膝をつき、崩れ落ちるように地面に手をついた。


「くそっ!!!!」


拳が地を打ちつける音が響き、青い瞳からこぼれ落ちた雫が土に吸い込まれていく。


「俺は……これから、何のために生きていけばいいんですか……師匠……」


その震える声は、山の風にかき消され、静かに空へと溶けていった。


――オルダナ国


シュン!


「ランスさん!カレンさん!魔界へのゲートが、次々と閉じていってます!!」


ハンナが弾けるような笑顔で叫んだ。


「やったな……!きっと、ハルとオルトがやってくれたんだ!!」


ランスが叫び返す。


「ええ!私たちは、まだ残っている魔物たちの掃討を急ぎましょう!」


カレンが凛とした声で言う。


「おう!」

「はい!」


ランスたちの戦いぶりは圧巻だった。

その剣さばきと魔法の連携は、まるで戦場に舞い降りた神々のように鮮やかで――


街に溢れていた魔物たちは、次々とその力の前に倒れていった。


カレンの風魔法が魔獣の群れをなぎ払い、ハンナの支援魔法が仲間たちを次々に立て直していく。

そしてランスの剣が閃くたび、恐るべき力を誇る魔獣すら一撃で地に伏した。


「あと少しよ!もうひと踏ん張り!」


カレンが叫ぶと同時に、風の矢が魔物の頭上から降り注いだ。


やがて――


街に満ちていた混乱の気配が、徐々に静けさへと変わっていく。


ランスたちはその場に立ち尽くし、まだ戦いの余韻が残る空気の中で、次第に力を抜いていった。


「……終わったのか……」


ランスが剣をゆっくりと下ろし、肩で息をしながら呟いた。


「……ハルさんとオルトさん、きっと無事ですよね……?」


ハンナは胸元に手を当て、不安そうに空を見上げながら呟いた。その瞳には、祈るような光が揺れていた。


「ええ……」


カレンが隣でそっと頷く。

静かに風が吹き抜け、あたりに漂っていた血と煙の匂いが少しだけ薄れた。


しばらく、三人は何も言わず、静まり返った街を見つめていた。


こうして、「オルダナ王国魔王襲来事件」は、ついに幕を下ろした。


***


その後、国王暗殺の罪により、教皇アントは捕らえられた。

一方で、魔力飴の流通に関わった首謀者――タルール、エル、ティル、そしてジュウゴの四名は姿を消し、その行方はいまだ知れないままだ。


「ハルさん……大丈夫かな……」


ハンナがふと呟く。


「……さあね」


カレンは視線を伏せながら答えた。


マルア山から帰還し、オルトを失ったハルは、以前よりも、無口になり、一切笑わず、まるで心の一部を置き去りにしたかのように、静かに、ただ毎日を耐えるように生きていた。


そんなある日――


「お綺麗なお二人。ハル様という方をご存じありませんか?」


城の廊下で会話をしていたハンナとカレンに、ひとりの男が話しかけてきた。

深い緑の長髪を左に三つ編みに束ね、知的な印象の四角い眼鏡をかけた男だった。


「ええ、知ってますけど……?」


ハンナが戸惑いながら答える。


「あなたは……?」


カレンが鋭い目つきで問い返す。


「失礼。私は、オルト様の部下の一人――ハンスと申します」


彼は静かに頭を下げた。


「オルトさんの……!」


ハンナの顔がぱっと明るくなる。


「……」


カレンは少し驚いたように目を見開く。


「ハルさんなら、この先の青い扉の部屋にいます!」


ハンナがすぐに案内する。


「ありがとうございます」


そう言って、ハンスは礼を述べ、ハルの部屋へと向かった。


コンコンッ


「……どなたですか?」


「オルト様から、あなた宛のお荷物を預かってまいりました」


その言葉を聞いた瞬間、ハルは勢いよくドアを開けた。


ガチャッ!


「おやおや、随分とお疲れのようですね。初めまして、私はハンス。オルト様の部下のひとりです」


ハンスが穏やかに微笑む。


「……荷物って……?」


ハルが息を呑んで尋ねる。


「ええ、こちらです」


ハンスは手提げの小袋から、青い宝石が散りばめられた一本の剣、白いローブ、そして手紙を取り出した。


「それでは、私はこれで――」


ハンスは丁寧に一礼し、背筋を伸ばして静かに踵を返した。


「待ってください!」


ハルが思わず呼び止める。


「師匠が……オルトがいなくなって、魔界は……皆さんは大丈夫なんですか?」


ハルの問いに、ハンスは振り返りわずかに目を細めて答えた。


「……“大丈夫じゃありません”とは、言えませんね。ですが、魔王様が何百年もかけて築かれたこの平和を……私たちが必ず守り抜いてみせます」


そう言って、ハンスは背を向け、静かに歩き去った。


ガチャン――


ハルはそっと、渡された手紙を開く。


中には一通の手紙と、四角く切られた紙片が一枚――


震える手で封を切り、読み始める。



「ハルへ」


お前と離れてた三年間、誕生日プレゼントもまともに渡せなかったから、まとめて渡すぞ!


剣とローブは特注品だ。大切にしろよ。


あともう一つ。18歳の誕生日プレゼントは……何をあげたらいいかわかんなくてな。


そこで思い出したんだ。15歳のとき、お前がくれた“なんでも言うこと聞く券”。


あの頃、少し生意気になってきてたくせに、その券の間は文句も言わず、素直に俺の言うことを聞いてくれたよな。

あれは、ちょっとだけ……いや、かなり楽しかった。


だから、この券は今度は俺からだ。

欲しいもんでも、願いでも、なんでも言え。1回だけな。よーく考えて使えよ?


最後に――


お前は、俺の誇りだ。

どんなことがあっても、幸せに生きろ。


オルトより


──


「....」


ハルはその手紙から乱雑な文字で書いてある何でも言うこと聞く券を取り出しギュッと握りしめた。


「俺は......この命が尽きるまで.......あなたの為に...生きます....」

ハルはもうこの世に居ないオルトにそう誓った。

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