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【BL】魔王様の散歩道  作者: のはな
第8章 誰よりも大切な人
55/60

55.奇妙な笑顔

――遺跡の中


「世界を統一って……どういうことですか?」

ハンナが不思議そうに首をかしげて尋ねる。


「すぐにわかりますよ……」

ティルが薄く笑った、その瞬間――


ガタガタッ!!


地響きとともに遺跡全体が大きく揺れ出した。


「皆、急いで出口へ!!」

カレンが叫び、ガルディアとハンナを促す。


三人は転がるように通路を走り抜け、外へ飛び出した。


ドガァァァン――!!


直後に遺跡は崩れ去り、粉塵を巻き上げながら完全に潰れた。


「ティルさんは……どうなったんでしょうか……」

ハンナが恐る恐る振り返りながらつぶやく。


「……さあな」

ガルディアが渋く答えたそのとき、


ドカーーーーン!!


遠く、マルア山の火口付近で大きな爆発音が轟いた。


「っ!」


「あそこは……確か、ランスさんたちが向かった場所です!」


ハンナたちは急いで火口付近へと向かっていた。


◇◇◇


「っ……大丈夫か?カンナ」

「はい……」


ランスとカンナの二人は、マルア山の火口付近を探索していた。

だが、そこで――思いもよらない人物と遭遇してしまう。


「あいつ……オルトにそっくりだが……一体何者だよ……」

ランスが震える声でつぶやく。


「……私にも分かりません」

カンナも険しい表情で応える。


その人物は赤い瞳をぎらりと光らせ、不気味に微笑んだ。


「今の攻撃を生き延びるとは……なかなかの腕前ですね」


オルトにそっくりなその男は、再び殺気を帯びて攻撃の構えを取った。


「くそっ……一旦退避するぞ!」

ランスが叫ぶ。


「はい!」

カンナも頷き、急いで転移魔法を展開しようとした――その時。


「……っぐ……!」

カンナが苦しそうにうめき声をあげた。


「どうした!?カンナ!」

ランスが声を荒げる。


「……分かりません……ですが......私を置いて……逃げてください……」

カンナは青ざめた顔で必死に言う。


「おい! 何言って――」


その声をさえぎるように、カンナが力尽きてパタリと倒れた。


「中々、効き目が遅くて焦りましたよ」


茂みの中からゆっくりと現れたのは、茶髪にそばかすのある男――ティルだった。


「ティル。……もう片付いたのか?」


オルトに似たその男が淡々と尋ねる。


「ええ。封印を解きました。ゲートが開くのも、もうすぐです」

ティルが淡々と告げる。


「そうか。よくやりました」

オルトに似た男はニヤリと笑い、そのまま冷たく二人を見下ろした。


「おい! こいつに何をしたんだ!」

ランスが声を荒げる。


「ははっ……ただ毒針を一本、打ち込んだだけですよ」

ティルが肩をすくめて笑った。


「ですが、その毒はね、巨大な獣ですら即死させるほど強力なんです。……でも、この魔人は効き目が遅くて本当に困りました」


「解毒しろ!!」

ランスが剣を構え、怒声を飛ばす。


「なぜそんな必要があります?こちらに何の得もありませんよね」

ティルは飄々と笑いながら、楽しげに答えた。


ガサガサガサ


「ランスさん!!」

茂みの向こうからハンナたちが駆け寄ってきた。


「ハンナ!!悪いがこいつを頼む!」

ランスが振り返り叫ぶ。


「はい!」

ハンナはすぐに倒れたカンナのもとへひざをつき、治療の構えを取った。


「ティル……」

ガルディアが眼帯の奥の鋭い視線で低く呼ぶ。


「もう追いつかれましたか。さすがですね」

ティルが肩を揺らして笑う。


「あなたたちの目的は何?」

カレンが息を整えながら問いかける。


「人間界と魔界を一つにすることですよ」

静かにそう答えたのは、オルトに酷似した赤い瞳の男だった。


「まさか……あなたがアジュール?」

カレンの声が震える。


「ええ、その通り。名前を知っていてくださって光栄ですよ」

アジュールは余裕の笑みを浮かべていた。


「……逃げましょう。」

カレンが小さく呟く。


「俺は戦う。」

ガルディアの声は低く、揺るぎなかった。


「ダメよ……分かってるでしょ。アジュールの魔力が、桁違いだってことくらい!」

カレンが必死に止める。


「ああ……分かってる。だからお前たちは逃げろ。」

ガルディアの視線はまっすぐで、決意に満ちていた。


「なっ……!?お前、一人でやるつもりかよ!」

ランスが焦りをにじませる。


ガルディアはゆっくりと大剣を抜き、構えを取った。


「こいつらが、黙って逃がしてくれるとでも思ってるのか……。いいから、行け!!」

その一喝に、場の空気が震えた。


「くそっ! 俺も戦う!!」

ランスが叫ぶ。


「ランス! あなた、その怪我で足を引っ張るだけだわ!! 行くわよ!」

カレンが鋭い声で言い放ち、無理やり転移魔法陣に引きずり込んだ。


シュパンッ

光が弾けるようにして、カレン達の姿が消える。


「さすが、部隊長なだけあって……勇ましいですね。」

ティルが薄笑いを浮かべながら呟く。


「……部下の汚点は、上司が拭いてやらないとな。」

ガルディアは静かに息を整え、大剣を振り下ろした。


◆◆◆


シュパンッ。


カレンたちは転移魔法でサント村に戻ってきた。


「くそっ……!」

ランスは拳を地面に叩きつける。


「まずは怪我を治さないと。ハンナ、カンナさんの様子はどう?」

カレンが問いかける。


「少しずつ解毒していますが……かなり強力な毒なので、時間がかかりそうです。」

ハンナが額の汗を拭いながら答えた。


「わかったわ。大変だけど、頼むわね。」

カレンはそう言って、ランスのもとへ向き直る。


「私、治療魔法は得意じゃないの。……だから、痛くても許してね。」

そう前置きすると、カレンは杖を構え、そっとランスに魔力を送った。


「うわぁーーーーーー!!!」

ランスの叫び声が村に響いた。


ビリビリビリッ!

雷のような治癒魔法がカレンの杖からランスに放たれる。


「これでいいはずよ。」

カレンは冷静に言った。


シューーー……

治療の終わったランスの体からは、ほんのりと煙が立ち上っている。だが傷は綺麗に塞がっていた。


「……ちゃんと言ってから治療しろよ!」

ランスが涙目で叫ぶ。


「ええ、だから最初に“痛くても許して”って言ったわ。」

カレンが肩をすくめる。


「……そういえば、ハルさんとマニエールさんは大丈夫でしょうか?」

治療を続けながらハンナが不安そうに呟いた。



ハルとマニエール、そしてグエールは必死にジュリアの後を追っていた。


「なんだ……ここは……」

ハルが目を見張る。


そこには、さまざまな神の像が整然と並べられた、まるで儀式場のような庭が広がっていた。


「これで……すべて解放されるのよ……」

ジュリアが一つの像に手をかざし、力強く破壊した。


バリンッ


砕け散った瞬間、地面が激しく揺れ始める。

ガタガタガタガタガタ!!


「くそっ、なんなんだよさっきから!!」

グエールが叫んだ。


「これで……二つの封印が解かれたわ」

ジュリアは満足そうに小さく笑うと、すぐに転移魔法の詠唱を始めた。


「待てっ!!」


とっさに、グエールとハル、そしてマニエールもその魔法陣へ飛び込んだ。


シュパン


移動するとそこは、ハマルア山の火口付近だった。


「あらあら……お客様まで一緒にいらしたとはね」

低い声が響く。


黒いスーツに身を包んだ男――アジュールがそこに立っていた。


「アジュール……」

ハルが険しい顔で呟く。


「……あなたは一体.....オルト様ではありませんね?」

マニエールが驚いた表情で尋ねた。


「ええ。残念ながら私は彼ではありません」

アジュールは余裕の笑みを浮かべると、視線をハルに向けた。


「ん?そこの金髪の坊や……どこかで見覚えがありますね」


「タルールの研究所で一度、会いました」

ハルが冷たく答える。


「……いや、それよりも、もっと前にもお見かけした気がするのですが……」

アジュールは少し首を傾げ、考え込む仕草をした。


「ああ、思い出しました。ランドール夫妻の養子の子供……あなたでしたね?」

スッと表情を緩め、満足げに笑う。


「……なぜ、それをお前が知っている」

ハルの声が低く、眉間に深い皺が寄った。


「ふふふ……あの夫妻はとても優しい人間でした。ナルシア王国で魔人奴隷を解放したいと夢を語っていたので、私も少し協力して差し上げたんです。……まあ、目的を嗅ぎつけられてしまったので、最終的には“処分”しましたが」

アジュールは薄ら笑いを浮かべて答えた。


「……お前が……お前が殺したのか!!」

ハルが声を震わせて叫ぶ。


「まあ、そういうことになりますね」

アジュールは楽しそうに肩をすくめた。


ハルは腰に帯びた剣を素早く引き抜き、鋭く構えた。

パキパキッ——周囲の空気ごと凍りつくほどの魔力が剣に宿る。


「ハルさん、落ち着いてください!」

マニエールが慌てて叫ぶが、その声はハルには届かない。


「おお……素晴らしい。楽しませてくれそうですね」

アジュールが薄く笑みを浮かべ、ゆっくりと構える。


次の瞬間、ハルは全力の一撃を振り下ろした。

だが——

アジュールはたった一方の手で、その斬撃を軽々と受け止める。


ザラザラザラ……

剣から放たれた氷の力が、まるで砂のように崩れ落ちた。


「そんなに焦らなくてもいいのに……」

アジュールはゆるりと指を鳴らした。


ゴゴゴゴゴ……

大地が震え始めた。いや、マルア山全体が軋むように揺れている。


ドカァァァン!!

凄まじい爆発音が響き渡り、山の火口から灼熱の炎が噴き出した。


ハルはほんの一瞬、マニエールたちの安否を確かめようと視線を送った。


「ほう……仲間の心配をする余裕なんてあるんですね?」

アジュールの声が背後から響いた。


気づいたときにはもう遅く、アジュールの手がハルの頭に触れようとしていた。


その刹那——


ガブッ!!


「ぐっ……!」

何かがアジュールの足に噛みついた。


「グエールさん!?」

ハルが声を上げる。


「……小物が」

アジュールは冷たく吐き捨てると、グエールを容赦なく蹴り飛ばした。


ボギッ、と鈍い音がしてグエールの鋭い牙が砕け散り、そのまま意識を失って地面に転がる。


「グエール!!」

近くで様子を見ていたジュリアが叫び声を上げ、グエールに駆け寄った。

その隙をついて、マニエールが背後から彼女をしっかりと拘束する。


「なっ……!離して!!」


「もう、やめなさい!」

マニエールが鋭く叫ぶ。


「たしかに、あなたの妹は人間に殺されたのかもしれない。でも今のあなたは、その憎しみに囚われて……

まるで弟のように可愛がっていたグエールを、自らの手で失いかけているのですよ!」


マニエールの言葉に、ジュリアは一瞬、戸惑ったように目を見開いた。


「……わたしは……わたしは……」


声が震え、手もわずかに揺れる。

やがてジュリアはその場に立ち尽くし、ゆっくりと力を抜いた。

マニエールの腕の中で、大人しくなっていく。


「魔人も人間も……つくづく、愚かな存在だ」


アジュールはどこか遠い目をしながら、切なげに、しかし冷たい声で呟いた。


「そうとしか思えないあなたの方が、よほど愚かだ」


その声と同時に、ハルの姿がアジュールの背後に現れる。

迷いは一切なかった。

ハルは静かに剣を振りかぶり、その刃を一閃――アジュールの胸へと深々と突き立てた。


「……ぐっ……はっ……」


アジュールの目が大きく見開かれ、やがてその体から力が抜けていく。

重力に逆らえず、ゆっくりと火口のマグマへと沈んでいくその姿を、ハルはただ無言で見下ろした。

その視線はまるで氷のように冷たく、揺るぎがなかった。


だが――沈む直前。

アジュールの唇には、なぜかうっすらと満足げな笑みが浮かんでいた。

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