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【BL】魔王様の散歩道  作者: のはな
第8章 誰よりも大切な人
53/60

53.本当の目的

パチッ――


まぶたの隙間から、ぼんやりとした薄明かりが差し込む。オルトはゆっくりと目を開けた。


ガチャン――


ジャラジャラ……


重く鈍い音が、静寂を切り裂く。


「……目が覚めたと思ったら……なんでまた、こんな場所にいるんだよ……」


低く呟くように言いながら、オルトは冷たい石の床に腰を下ろす。無骨な鎖が彼の両手首に絡みつき、その重みが容赦なく存在を主張していた。


周囲はうす暗く、灯りはほとんどない。湿った空気がじっとりと肌にまとわりつき、奥底から不快感を引き上げてくる。


オルトは黙って鎖を見つめたまま、静かに息を吐いた。


「ヒヒヒッ……おやおや、お目覚めですか。オルト様」


気味の悪い笑みを浮かべながら、白衣の男――タルールが薄暗い牢の奥から現れた。


「……タルール。ここはどこだ?」


オルトは低く唸るような声で問いかける。


「ヒヒヒ……ここは、オルダナ王国の地下牢獄でございます」


「……なんだと?」


オルトの眉がぴくりと跳ね上がる。


「ヒヒヒ……オルト様。なぜあの子、エルがあんなにも簡単にあなたのもとへたどり着けたのか……お分かりになりますか?」


タルールがにやにやと嘲るように尋ねる。


「――答えは単純です」


コツコツコツ……


冷たい足音が、地下牢の階段をゆっくりと降りてくる。


やがて姿を現したのは、薄い青の髪を持ち、聖教服に身を包んだ男だった。


「……お前は……教皇アント……」


オルトの視線が鋭く光る。


アントは、冷ややかにオルトを見下ろし、無感情に声を発した。


「――計画は順調に進んでいますか?」


「ええ、しっかりと」

タルールが卑屈に笑いながら頷く。


「計画……? おいアント、お前……何を企んでいる……?」

オルトは鎖をきしませながら、にらみつける。


「魔人を憎んでいたはずだろう、お前は……!」


「ええ――憎んでいますとも。」


アントは静かに、しかしぞっとするほど冷ややかな声で答えた。


「……なら、なぜタルールに手を貸す?」


オルトが鎖を引き、低く唸るように問いただす。

アントの薄い青い瞳にわずかに狂気めいた光が走った。


「――カイール神の予言を、成就させねばなりませんから。」


「予言だと……?」


「そうです。カイール神は四年前に啓示をくださったのです。」


アントはゆっくりと息を整えながら続ける。


「黒き闇が世界を襲い、全てを壊すだろう。しかし、その底から金色の光が現れ、暗闇を払うだろう――と。」


アントは予言を口にしたあと、じっとオルトに視線を向けた。


「――あなたには、黒き闇になっていただきます。」


その言葉に、オルトの目が見開かれる。


「……何を言ってやがる……?」


低く押し殺した声で問い返すオルトを、アントは冷たく見下ろしたままだった。


するとタルールがくぐもった笑い声をあげた。


「ヒヒヒ....ジュウゴ、来なさい。」


タルールの呼びかけに応え、物陰から現れたのはジュウゴだった。


「彼に、これを。」


タルールが差し出したのは一本の注射器。光を受けて鈍く黒く輝いている。


「……はい……」


ジュウゴは迷うように一瞬だけ視線を泳がせ、それでも震える手で注射器を受け取った。


ガチャン――


冷たい金属の音とともに、ジュウゴがオルトの牢の扉を開けた。


「……何をするつもりだ」


オルトが低く唸るように問いかける。


ジュウゴは悲しげに顔を伏せたまま、小さくつぶやいた。


「……すまない……」


その声と同時に、ジュウゴは震える手でオルトの首元に注射器を突き立てた。


「ぐっ……!」


焼けるような痛みが一瞬にして走り、オルトの視界はぐわんぐわんと揺れ始める。


「ヒヒヒ……オルト様。二つの世界を……ひとつにするのです。」


タルールの歪んだ声が遠くで響いた。


――バタッ。


オルトは床に崩れ落ち、そのまま深い闇に沈んでいった。


◆◆◆


一方その頃――。


ハルたちはついにアルファ国へと辿り着いていた。


「見てください!あそこに村が!」


ハンナが明るい声で指をさす。


ハルはその先をじっと見つめ、わずかに表情をゆるめた。


「……サント村です。俺の育った場所です。」


そう静かに答えたハルに、ハンナはぱっと笑顔を見せる。


「えっ、じゃあ早く行きましょう!」


そう言ってハルの手を取ると、そのまま村の中へと足を踏み入れた。


すると――


「ハル兄!?」


お下げ髪の少女が、目を大きく見開いて立ち尽くしている。


「……ヒナ。」


ヒナは涙をいっぱいに浮かべたまま、ハルに飛びつくように抱きついた。


「もうっ……!帰ってくるの、遅いよ……!」


震える声に、ハルは優しく微笑んでそっと頭を撫でる。


「ごめん……いろいろあってな」


そう答えるハルの顔は少しだけ切なげだった。


「……あれ? オルト様は?」


ヒナは腕を離し、心配そうにきょろきょろと周りを見渡した。


「師匠は……今回は一緒に来れなかったんだ。」


ハルはわずかに眉を寄せながら答えた。


「えぇーーっ!残念……。ねぇ、今度はぜーったい顔見せてって言っておいてよね!」


ヒナの言葉に、ハルは少しだけ複雑そうに笑いながらも頷いた。


「それで……そちらの方々は?」

ヒナがハンナたちに目を向けて尋ねる。


「初めまして。私はハンナと申します。あなたは……ヒナちゃん、で合ってるかな?」

ハンナが優しく微笑んで言うと、ヒナはにこっと笑って頷いた。


続けてランスとカレンも自己紹介を済ませると、ヒナは目を輝かせて言った。


「へえ〜!!すごいじゃんハル兄!勇者なんて!」


「それで……確か、マルア山に用があるんだよね?」


ヒナが少し不安そうな表情で小さくつぶやいた。


「何かあったのか?」

ハルが問い返す。


「ううん、別に何かあったわけじゃないんだけどね。ハル兄たちが来る少し前に、ガタイのいい眼帯の男の人と、銀髪で綺麗な男の人、それからピンク髪の女の子の三人組が村に来てさ。マルア山に行きたいって話してたの」


ヒナは少し考え込むようにして続けた。


「悪い人たちじゃなさそうだったけど……なんか人探ししてるみたいだったよ。オレンジ髪の男の人と、赤紫の女の人を見なかったかって聞かれて」


「それで、ヒナはなんて答えたんだ?」

ハルが確認する。


「うん。そんな人見たことなかったから、『わからないです』って答えたよ」


「一体、何者なんでしょうね……」

ハンナが不安そうに呟く。


「……とにかく、マルア山へ向かおう」

ハルが決意を込めて言う。


そして、一行はマルア山へと足を進めた。

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