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【BL】魔王様の散歩道  作者: のはな
第8章 誰よりも大切な人
52/60

52.そばに居たのに

数日後。

オルトたちはオルダナ王国へ戻り、これまでの出来事を教皇アントに報告した。


「そうですか……つまり、今回の化け物騒動の背後には、そのタルールという男と、アジュールという魔人の策略があったのですね」


アントは重く低い声でつぶやいた。


「はい」


ハルがしっかりと頷く。


「そして……人間もまた、魔人を奴隷にしていたのです」


ハルは目を伏せながら続けた。


「……そうですか……」


アントは深く息を吐き、険しい表情でしばし沈黙した。そして視線を戻し、柔らかい声で言った。


「皆さん、本当にお疲れでしょう。少し休まれてください」


そう告げると、アントはゆっくりと部屋を出ていった。


「ふふふっ、お休みですって。今回の報酬で、ちょっとお買い物でもしようかな。カレンさんも一緒にどうですか?」


ハンナが楽しそうに微笑みながら、隣のカレンを見上げる。


「ええ、いいわよ。たまにはそういうのも悪くないわね」


カレンも微笑を浮かべて、やわらかく答えた。


「俺は、新しい鎧を一式揃えるか」


ランスもわくわくした様子で声を弾ませた。


「師匠はどうしますか?」


ハルがオルトの顔をのぞき込むようにして尋ねる。


「ん? そうだな……エリーナたちのところにでも顔を出しに行こうかと思ってるが……お前はどうするんだ?」


オルトが少し笑って返す。


「俺も、師匠と一緒に行きます」


ハルは迷いなくそう答えた。


こうして、オルトとハルはサーシャたちのいるアチアル山へ向かった。


◆◆◆


山奥に佇む、白亜の協会。静かに鐘の音が遠くで響いている。


コンコン


「エリーナ!サーシャ!いるか?」


オルトが声をかけると――


ガチャ


扉を開けたエリーナが、ぱっと笑顔を咲かせた。


「オルト!!帰ってこれたのね!」


思わず飛びつくようにオルトを抱きしめる。


「お二人とも、お疲れ様です」


その後ろから、穏やかな表情のサーシャが落ち着いた声で挨拶した。


「中へどうぞ」


サーシャとエリーナに案内され、オルトたちは部屋の中へ入った。


部屋にはあたたかな灯りがともり、机の上には焼きたてのクッキーと湯気の立つ紅茶が並んでいる。


「ふふっ、このクッキー、私が焼いたのよ?」


エリーナが少し誇らしげに笑う。


「どれどれ……ん、うまいな!」


オルトが頬をほころばせると、エリーナの表情はぱっと華やいだ。


(……こいつも、年相応の顔を見せられるようになったんだな)


そう思いながら、オルトはそっとエリーナの頭を撫でた。すると、エリーナの顔はたちまち赤く染まった。


「なんだよ?」


ハルが突然オルトの手を、掴んで引き戻した。


「……師匠は無自覚すぎます」


ハルはため息交じりに呟き、わずかに眉間に皺を寄せた。その後もしばらく、穏やかな団欒が続いた。


コンコン


教会の扉を叩く音が響く。


「私が出ます」


サーシャが椅子から立ち上がり、玄関へ向かった。


ガチャ


扉の向こうには、黒髪の少年が立っていた。


「……あら?こんなところにどうしたの?迷子になってしまったのかしら?」


サーシャが優しく声をかける。


「ううん。迷ってなんかないよ。」


少年は落ち着いた声で、しかし不気味に微笑んで答えた。


ガタッ


その少年の姿を目にした瞬間、オルトは椅子を蹴るようにして立ち上がった。


「サーシャ、離れろ!!」


そう言うと、オルトは咄嗟にサーシャをハルの方へ引き寄せた。


そして、少年の前に立ちはだかる。


「エル!なぜここにいる?」


オルトの声には焦りがにじむ。


「……先生がね、僕の体はもう役に立たないって言うんだ……」


エルは少し悲しそうに、ポツポツと話した。


「だから、最後はちゃんと役に立ちなさいって……」


その瞬間、エルの体の奥から、恐ろしいほどの膨大な魔力が膨れ上がっていくのをオルトは感じた。


「くそっ……! ハル!!サーシャとエリーナを頼んだ!!」


「師匠!?」


ハルの声が響くが、オルトは迷わず、エルを抱きかかえるようにしてその場から転移魔法で一気に空中へ移動する。


冷たい風が吹き抜ける夜空で、オルトはしっかりとエルを抱きしめた。


「オルト……僕……役に立ちたかっただけなんだ……」


エルの震える声に、オルトは言葉を失った。


そして――


ドカーン!!


空中で激しい爆発が起こった。


ヒューーーーー……


オルトとエルは爆風に巻かれ、そのまま地面へと落下していく。


バサッ


土煙を上げながら地面に叩きつけられた二人。


「師匠!!!」


駆け寄ってくるハルと、後ろからエリーナ、サーシャの声が重なる。


そこには、血まみれのオルトとエルが倒れていた。


エルが、うっすらとまぶたを開けた。


その瞳はまだ焦点が定まらず、かすれた声が彼の唇から漏れる。


「……ぼくは……」


奇妙なことに、エルの体には傷一つなかった。


「どけ。」

低く、静かな声でハルが告げる。


そして、ハルはオルトをそっと抱きかかえると、そのまま全力でオルダナ城へと駆け出した。


バンッ!

「ハンナ!!ハンナさんはいますか!?」


大広間の扉を乱暴に開け、ハルが必死な声で叫ぶ。


「おやおや、どうされたのですか?」


落ち着いた口調で教皇アントが現れる。


「師匠が……!」


ハルは険しい顔のまま、震える声で言葉を絞り出す。


「……これは、いけませんね。ハンナさんはカレンさんと外出中で、今は城にはいません。ひとまず、近くの病院へお連れしましょう」


「……はい。お願いします……!」


ハルは唇を噛みしめながら、アントに深く頭を下げた。


ガラガラガラッ


オルトは緊急治療室の中へと運び込まれていった。


ガチャ


手術室のドアが開き、医者がゆっくりと姿を現した。


「師匠は!?」

ハルが食い入るように問いかける。


「魔力を急激に過剰吸収した影響で、体の内部がひどく損傷していました。なんとか処置は施しましたが……あとは彼の生命力を信じるしかありません。」


医者はそう告げると、静かに去っていった。


「くそっ……俺がそばにいたのに……」

ハルは悔しそうに拳を震わせた。


──翌日。


ハルと仲間たちは、教皇アントに呼び出された。


「先日、オルトさんが魔人と思われる存在に襲われました。」


「オルトが……!」

ランスが声を上げる。


「私が傍にいれば、すぐに治療できたのに……」

ハンナが悲しそうにうつむく。


「突然のことでしたし、仕方ありません。いまだに目を覚ましておりませんが、治療は成功したとのことでした。」

アントが落ち着いた声で告げる。


「それで、襲ってきた魔人はどうなったの?」

カレンが尋ねる。


「それが……現場にいたサーシャさんやエリーナさんの話では、自爆して命を落としたようです。」


「……」

ハルは黙ったまま、眉間に深い皺を寄せた。


「そして同時に、アルファ国にあるマルア山の付近で、魔界のゲートが開かれているという情報が入りました。」

アントの声がさらに重くなる。


「マルア山付近……?」

ハルが目を見開く。


「たしか……アルファ国って、ハルさんとオルトさんが住んでいた国ですよね?」

カレンが確認する。


「はい……。」

ハルが小さく頷いた。


「帰ってきたばかりで申し訳ないのですが、皆さんにはマルア山周辺の調査に向かってほしいのです。」

アントがお願いする。


「はい!分かりました!」


ハンナが元気よく返事をした。


こうして、勇者一行はアルファ国のマルア山へ向かうことになった。


◇◇◇


――ガタゴト……


アルファ国へ向かう馬車の中。


「ハルさん……大丈夫ですか?」

ハンナが心配そうに声をかける。


「ああ……」

ハルは静かに頷いた。


「オルトは丈夫なやつだ!だから、きっと大丈夫だ!なっ?」

ランスが明るく笑い、ハルを励ました。

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