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【BL】魔王様の散歩道  作者: のはな
第7章 雪国に潜む影
50/60

50.クーデター

――リアンの宿の一室


「その....クーデターを起こした第一王子、トーマスってどんなやつだ?」


オルトがヘンリーに尋ねる。


「何を考えているか分からない人だよ……。

今まで一度も父様に逆らったことなんてなかったのに、突然、昨夜クーデターを起こしたんだ。母様も父様も捕まってしまって……助けたいけど……僕、弱いから……」


悔しそうに涙をうかべるヘンリーの肩に、そっとヤジルが手を置く。


「俺が助けに行ってやる。」

ヤジルは、力強く言い放った。


「でも……僕たち2人だけじゃ……」

ヘンリーは不安げに、小さくつぶやいた。


「……俺たちも行こう」

オルトがゆっくりと立ち上がりながら言う。


「はい...でも、師匠はまだ休んでください!」

ハルがオルトを止める。


「ハンナのお陰でもう傷は治ってる。心配すんな」

オルトは静かに笑う。


「私たちも行くわ!」

「おう!」

カレンとランスも声を上げる。


「な、なんで……? 皆さんは……関係ない人たちなのに……」

ヘンリーが震える声で言った。


「……お前だって、俺たちを助けようとしてくれただろ?それだけで十分さ」


オルトがにっと笑って見せる。


「……ありがとう……」

ヘンリーの目から涙があふれ、ぽろぽろと頬を伝った。


◆◆◆


一方、城内――


「トーマス!! 何故こんなことをした!! 許されるはずがないぞ!!」


体を縄で縛られている国王が、怒声を響かせる。


しかしトーマスは、冷たく澄んだ瞳で父を見据え、淡々と告げた。


「……父上。あなたは、あまりにも多くの罪を重ねすぎた。」


その言葉に、国王の顔が険しく歪む。


「なにをほざくか!」


その背後から、奇妙に笑う声が聞こえた。


「ヒヒヒ……さすが、トーマス様ですな……」


ゆらりと現れたのは、頭の異様に長い男――タルールだった。


「トーマス……!! お前……まさか魔人と手を組んだのか!!」


国王の声が震える。

「ええ。そうです。――あなたが忌み嫌ってきた“魔人”と、私は手を組みました。」


トーマスの瞳が鋭く光る。


「トーマス……どうしてだ……」


国王の声は、しだいに震えを帯びる。


「トーマス……」


王女の声が小さく漏れる。


「血の色で王族が決まり、その濃さで、次の国王を選ぶ……。そんな理不尽があっていいんですか?」


王女がわずかに目を伏せる。


「……気づいていたのね……」


「ええ……知っていました。私よりも血の色が濃いヘンリーが、次の国王に選ばれると。」


トーマスの拳が憎しみに震える。


「ですが!!これほど国のために尽くし、父の望むことをすべて成し遂げてきたというのに……!! 結局は血の色ひとつで全てが決まるなんて、あまりにも理不尽ではありませんか!!」


その声は玉座の間に鋭く響き渡った。


「だから――私は、その理不尽をすべて壊してやる。覆してやるのです。」


青い瞳に狂気の光を宿し、トーマスはゆっくりと剣を引き抜いた。


「トーマス……やめて……!」


王女の震える声が玉座の間に響く。


「……すべて……この“血”が悪いのです。」


トーマスは冷たくつぶやくと、そのまま剣を振り下ろした。


ガキィィン!


鋭い金属音が響き渡る。


「なっ……!?」


トーマスの剣を受け止めたのは、二本の黒い角を生やした魔人だった。


「誰だ……貴様!!」


トーマスが剣を構え直しながら叫ぶ。


「ヤジル....」


国王がヤジルを見て、驚きながら呟いた。


「お前は……なぜ……魔人のくせにそいつを庇う!?」


トーマスの声が怒りに震える。


ヤジルはゆっくりと視線を向け、静かに答えた。


「――ヘンリーが、助けろと言ったからだ。」


そして、国王をかばうように一歩前に出た。


ギィィィ


「お父様!お母様!」


ヘンリーとオルトたちが玉座の間に駆け込んできた。


「ヘンリー!!」


王女が声を上げる。


「ヒヒヒ……どうやら少し形勢が悪くなってきましたね。では、こちらからも少し“お力”をお貸ししましょうか……」


タルールが不気味に笑った。


ぐっ、ぐぁぁぁあぁ!!


突然、トーマスの率いる兵士たちの何人かが苦しみ出した。


「おい……お前、何をした!?」


トーマスが振り返り、タルールに叫んだ。


「ヒヒヒ……役立たずを、役に立つようにしただけですよ」


タルールがぞっとする声で笑った。


兵士たちの姿はみるみる変わり、その体に角が生え、肌は黒ずみ、魔人へと変わっていった。


「なんて……ことを……」


王女が目を見開き、声を震わせた。


「トーマス!!目を覚ませ!!」


国王が必死に叫ぶ。


しかし、トーマスはその声に応えず、わずかに震える手を握りしめた。


「……父様……あなたが今までやってきたことと……いったい何が違うというんですか……?」


トーマスの瞳はどこか焦点を失い、虚ろに揺れていた。


「……もう……元には戻れないんです。何もかも……」


かすれた声でそう呟く。


グォォォォォオッ


元は兵士だった魔人たちが、理性を失った獣のように敵味方の区別なく暴れ出す。


「ハル!!」

「はい、師匠」


オルトとハルはすかさず身を翻し、その魔人たちに立ち向かった。


「私たちも行くわよ!」

「おう!」


カレンとランスもすぐに後に続く。


「僕……どうしたら……」


ヘンリーが震える声で立ち尽くす。


「ヘンリー様は、私の後ろにいてください!」


ハンナが盾のように立ち、すぐさま防御魔法と回復のサポート魔法を広げた。


トーマスは血の気の失せた顔で、それでも剣を引きずるように持ち上げ、国王に向かってじりじりと歩み寄る。


ヤジルはすぐに国王の前に立ちはだかり、鋭い視線でトーマスをにらみつけた。


「ヤジル……」


トーマスはその視線を受け止め、試すような口調で語りかける。


「お前があの男を庇ったところで、結局また魔人たちは召喚され、監獄で飢え死にするだけなんだぞ……?」


わずかに息を吸い込み、言葉を続ける。


「……だが、俺が王になったら、お前たち魔人を必ず解放し、召喚そのものを禁じる。約束する。」


ヤジルの黒い瞳が、わずかに揺らいだ。


「……だから、そこを退け。」


わずかににじむ涙と決意を混ぜた声が、玉座の間に沈んだ。


「ヤジル!! もし、俺を助ければ……お前だけは助けてやる!!」


国王は縋りつくように叫び、震える声を吐き出した。


だが――


「……うるせぇよ。」


ヤジルの低く唸るような声が、玉座の間を刺した。


「あっ……あぁぁ……」


途端に国王の顔が青ざめ、小刻みに震えだす。


トーマスがわずかに笑みを浮かべ、ヤジルに語りかけた。


「な?分かっただろう……?あいつは結局、魔人をただの使い捨ての奴隷にしか見てないんだよ。」


ヤジルはぎゅっと拳を握り、わずかに頷く。


「……ああ。よくわかった。」


その声には、静かな決意が滲んでいた。


「良かったよ、お前がまともなやつで……」


トーマスが安堵の吐息をもらしながら剣を下ろし、ヤジルに歩み寄ろうとした瞬間――


ドゴッ!!


ヤジルの拳が、強烈にトーマスの腹部を打ち抜いた。


「がっ……!!」


トーマスはその勢いで壁に叩きつけられ、崩れ落ち気を失った。


その様子を見ていた王女が、震える声で問いかける。


「……なぜ、国王を助けたのですか?」


ヤジルはゆっくりと振り返り、その視線を王女に向けた。


「別に、監獄で殺し合いさせられるのも、奴隷扱いされるのも……俺にとっちゃどうでもいい。」


低く吐き出すように言い放つ。


「ただ……俺の友達の願いだけは……どうしても叶えてやりたかったんだ。」


その顔に、ふっと優しい笑みが浮かんだ。

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