46.ぶつかり合う力
カキンッ、カキンッ――
グチャ! ドカァン――!
あちこちで武器のぶつかり合う音、肉が潰れる音、魔法の炸裂音が響き渡る。
闘技場はまさに混沌そのものだった。
「うぉぉぉぉッ!!」
吠えるような叫び声とともに、オルトへ向かって巨漢の男が突進してきた。手には金棒。振り下ろされる軌道は凄まじい威力を誇っている。
「...ふん」
オルトは冷静に片手を上げ、魔法陣を展開。
すると、漆黒の魔の手が虚空から現れ、金棒ごと巨漢の体を掴み――
バキィッ!!
骨の軋む音と共に、一瞬で地面へ叩きつけた。男はピクリとも動かない。
「師匠!」
その隣では、ハルが剣を構えていた。足元にはすでに凍りついた10人以上の戦士たちが氷像となって並んでいる。
『あの黒いフードの2人組、なんという強さでしょうか!』
司会の熱のこもった声が会場中に響き渡る。
『ですが――他にも実力者が続々と残っています! 毎回優勝候補に名を連ねる戦士ダイヤ、魔人ヤジル、そして魔術師アイーナも健在です!!』
実況の声と共に、カメラの魔法球が各戦士に切り替わる。
戦士ダイヤは細身の青年。だがその剣捌きは鋭く美しい。無駄のない動きで次々と相手を斬り伏せていく。
魔人ヤジルは筋骨隆々で頭に二本の角が生えている。獣のような咆哮を上げながら敵を素手で投げ飛ばし、地面に叩きつける様子はまるで怪物。
魔術師アイーナは赤い衣を纏い、薄ら笑いを浮かべながら魅了の魔法を放つ。彼女にかかった者たちは目を虚ろにし、仲間同士で殺し合いを始める。
――ドォンッ!!
突如、空が裂けた。蒼雷が轟音と共に会場へ落ちる。
そこにいた者たちは巻き込まれ、爆風と衝撃で一斉に吹き飛ばされた。20人ほどが即座に戦闘不能になる。
その中心に立っていたのは、蒼い髪の青年だった。無表情で、静かに雷をまとっている。
「師匠……あの男……」
ハルが肩越しに声をかけてくる。
「あいつは.....タルールの研究所で見た……ジュウゴ....」
オルトは瞳を細めた。
――カンカンカンカン!!
鋼の鐘が高らかに鳴り響き、司会の声が闘技場に戻る。
『これにて、第一ラウンド終了です!』
「思ったより早く片付いたな....」
オルトが静かに呟いた。
『では、残った10名の名を発表します!』
『熟練の戦士・ガンズ! 妖艶な女剣士・リリー! 華麗なる剣士・ダイヤ! 操る魔術師・アイーナ! 怪力の魔人・ヤジル! 盗賊の双子・マイシャとギル! そして今回初出場の――ハル! オルト! ジュウゴ!!』
司会の熱のこもったコールに、会場のボルテージは最高潮に達する。
『では第二ラウンドの準備をいたします。参加者の皆様は、しばし控え室でお待ちくださいませ!』
――
オルトたちは、再び重たい扉をくぐり待合室へ戻る。
そこではすでに、血まみれの者や重傷者たちが担架で運ばれており、どこか静けさと死の匂いが漂っていた。
「……まるで、戦場だな」
オルトの呟きに、ハルはただ黙って頷いた。
「ハル……ジュウゴが参加しているってことは、タルール達がすでにこの中に潜んでる可能性が高い」
オルトが、誰にも聞こえないほどの小声で言う。
「はい。ハンナさん達にも知らせておきます」
そう言ってハルは胸ポケットから一枚の札を取り出し、そっと魔力を込めた。札は淡い光を放ちながら空中で変化し、小さな青い鳥の姿になって飛び立っていく。
――パタパタ……
◇◇◇
闘技場の客席。
「ハルさんとオルトさん、すっごく強かったですね!」
ハンナが目を輝かせて興奮気味に言う。
「ああ、あいつらならやってくれると思ってたぜ」
ランスが誇らしげに頷く。
その時――青い鳥がひらりと舞い降り、カレンの肩にとまった。
「……ハルかしら」
ぽふっ。
鳥は小さく爆ぜて札へと戻り、そこには短く警告が記されていた。
「タルールが近くにいる可能性がある。警戒して」
カレンはそれを見て、すぐに表情を引き締める。
「……よし。私たちも会場を回りましょう」
「おう、異変があればすぐ知らせるからな!」
ランスが気合を入れる。
「ええ。ランスとハンナは周囲を警戒してちょうだい。私はおばあさんとこの観客席から様子を見るわ」
「了解!」
4人は二手に分かれて行動を開始した。
「ねぇ、おばあさん。あそこにいる人……」
カレンが老婆に視線を送る。指先の先には、長い金髪に青い瞳をもつ青年が立っていた。
「ああ……あれは国王の第二王子、ヘンリーさ」
「王族が、こういう場に直接来ることもあるの?」
「ああ。言ったろう?この国には娯楽が少ない。王族も例外じゃないのさ」
◆◆◆
一方その頃、オルトとハルは再び待合室に戻っていた。
「おう、お前らも勝ち残ったんだな」
スキンヘッドの男・ガンズが笑って声をかけてきた。
「だがここからは一対一のガチ勝負だ。仲良しごっこはここまでだな」
「そうね。勝ちたいなら、誰であろうと倒さなきゃいけないわ」
妖艶な剣士・リリーが涼しい顔で呟く。
「ああ……本気で行くしかねぇな」
オルトもそれに応じた。
ふと、オルトは隣に佇む青髪の青年――ジュウゴへと視線を向けた。
「……なあ、そこのあんた。なかなかの手練れだったが、どこから来た?」
「…………」
ジュウゴは何も答えず、オルトを鋭い目で睨みつけた。それを受けて、ハルが一歩前に出てかばうように立つ。
「あなたの目的はなんですか?」
冷静な声音で、ハルが問う。
「……俺は……」
ジュウゴが口を開きかけた、その時だった。
――ブーブーブー
『第二ラウンドが開始されます。第一試合、アイーナ vs ジュウゴ。呼ばれた方は会場へお進みください』
アナウンスが入り、二人は無言で立ち上がり、静かに出て行った。
『それでは、第2ラウンド開始です!』
司会の声が待機室まで響く。
「戦いを見るなら、こっちの窓から覗けるぜ」
ガンズが指差す先には、待合室から闘技場の一部が見える小窓があった。
その窓を覗いた瞬間――
ドカーン!!
轟くような青い雷鳴が響き、アイーナは一瞬で地に伏していた。
「一撃……」
オルトの表情がわずかに曇る。
戦いは続いた。
・ガンズ vs ギル
→ ガンズ勝利(ギルは血まみれで倒れる)
・ダイヤ vs リリー
→ 華麗な剣裁きでダイヤが勝利
――そして、ついに。
『次の対戦は――剣士ハル vs 魔人ヤジル。指定された方は会場へ向かってください』
「気をつけろよ」
オルトが言う。
「大丈夫です。必ず勝ってきます」
ハルは真剣な眼差しを向けてから、闘技場へと歩いて行った。
『それでは剣士ハル vs 魔人ヤジル――対戦、スタート!!』
開始の合図と同時に、ヤジルが地面を殴りつける。
ゴゴゴゴッ!!
土がうねり、爆発的な衝撃波となってハルを襲う。
だがハルは即座に氷の魔法を発動。冷気が大地を覆い、迫る衝撃を凍てつかせて防ぐ。
「やるな……!」
ヤジルが唸る間に、ハルは背後へと瞬時に移動し、氷の槍を放つ。
――ズシャッ!
だが、ヤジルは反射的にそれをかわした。
「……あの魔人、相当の手練だな」
オルトが唇を噛む。
「そりゃそうさ。この舞台に出られる魔人は一体だけって決まってる。つまり……こいつは召喚された魔人の中の頂点ってわけだ」
ガンズが低く語った。
ヤジルが再び地面を叩き、裂け目から巨岩を引きずり出す。それを渾身の力で投げつけてきた。
「はあっ!!」
ハルは剣を抜き、構える。
ズバァァァッ!!
巨大な岩を一刀両断するハル。氷の魔力を纏った刃が閃光のように光った。




