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【BL】魔王様の散歩道  作者: のはな
第7章 雪国に潜む影
44/60

44. 勇者の故郷

オルトたちは分厚い上着を脱ぎ、椅子に腰を下ろした。


「どうぞ」


青年は温かな湯気を立てるお茶を差し出した。


「で……どうして急に帰ってきたんだよ、ばあちゃん」


青年が不安げに問う。


「コンゴ独裁国家の国王に、こいつらをここまで案内してやってくれって頼まれたのさ」


老婆が淡々と答える。


「国王から……?」


「そうなんだよ。俺たち、この国に大事な用があってな。ばあさんに連れてきてもらったんだ」


ランスが補足する。


「ああ……そうだったんですね……」


「あの、私ハンナっていいます!あなたのお名前は?」


ハンナがにっこりと笑顔を見せて声をかけると、青年は少し戸惑った様子で、それでも丁寧に頭を下げて答えた。


「えっと……俺はリアンって言います。よろしくお願いします」


「俺はランスだ。よろしくな!」


「私はカレン。気軽に呼んでちょうだい」


「俺はオルト。まぁ、よろしく頼む」


「俺はハルといいます」


皆が続いて挨拶を交わすと、リアンはハルの顔を見て一瞬、目を見開き、どこか複雑な表情になった。

リアンが小声で老婆に尋ねるように呟く。


「ばあちゃん……その人……」


視線の先には、金髪に青い瞳のハル。


「そうさね...よく似てるよ」


老婆は静かに答える。


「……おばあさん、俺に何か?」


ハルが不思議そうに訊ねると、老婆は穏やかに、しかし重く言葉を紡ぐ。


「言っただろ?この国では、金髪と青い瞳は隠した方がいいって.....それには理由があるんだよ」


「理由?」


オルトが呟くと、リアンが一枚の絵を持ってきた。


「これは、ナルシア国の新聞に載っていた国王の肖像画です」


そこに描かれていたのは、金髪に青い瞳を持つ、五十代ほどの男性――その面差しは、まるで年を取ったハルのようだった。


「これは……」


オルトが言葉を詰まらせる。


「ハルさんそっくりです!」


ハンナが目を丸くして驚く。


「……ただの他人の空似ですよ」


ハルは眉間に皺を寄せ呟く。


「そうとは限らないよ」


静かに、だが重みのある声で老婆が口を開いた。


「この国の王族は皆、青い血を持っている事を知っているだろう?」


「……十八年前、この国で第三王子が生まれたんだ。でもね――その子の“血”は赤かったんだよ」


場の空気が凍る。


「青い血をもつ王族の中に、“赤い血”が混じっていた。それは王家にとって、大きな汚点だった。王の血統を疑わせるものとして、その子は存在を消され……とある貴族の家に密かに預けられたのさ」


老婆の目が遠くを見つめるように細められる。


「けれど、その貴族の家は――数年後、魔人に襲われて跡形もなく焼かれてしまった」


老婆が淡々と続ける。


「王子も、その時死んだとされてる。でも……本当にそうだったのかどうか、誰にもわからないまま」


ハルはその話を聞いて目を見開き黙り込む。

老婆の語った話は、あまりにもハル自身の過去と重なりすぎていた。


「……つまり、この国が、ハルの生まれ故郷かもしれないってことか?」


オルトが低く呟く。


「さあね。私には分からないよ」


老婆は首を振りながら答える。


「ハル、大丈夫か?」


放心しているようなハルに、オルトがそっと声をかける。


「……はい、大丈夫です」


ハルは小さく頷いた。


静まり返った雰囲気の中、リアンがそっと声を出した。


「皆さん……お疲れでしょう。今日はぜひ、ここに泊まっていってください。この店の上の階が宿になってます。部屋をご用意しますね」


「おお!助かるぜ!」


ランスが明るく答えた。


オルトたちはリアンに案内され、階上の部屋へ移動する。


「結構広いのね……」


カレンが感心したように部屋を見渡す。


「はい。お一人ずつお部屋をご用意できますので、ご自由にお使いください」


リアンが誇らしげに微笑む。


オルトたちはそれぞれの部屋に入り、休憩することにした。


バタン――


オルトは部屋の扉を閉めると、肩から荷物を下ろし、静かに椅子に腰を下ろした。


ひと息つく間もなく、左手のブレスレットに指先を添える。そこには、淡く光を宿す緑の魔法石がはめ込まれていた。


「ハンス……聞こえるか?」


静かに呼びかけると、魔法石が一瞬強く輝き、懐かしい声が返ってくる。


『はい、魔王様』


「連絡が遅れてすまなかった。こちらも……いろいろと立て込んでいてな」


オルトが低く呟くと、魔法石の向こうでハンスの声がわずかに曇る。


『いえ……こちらも魔界の方で、少々厄介なことが起きておりまして。なかなか通信が繋げられない状態でした』


「厄介なこと?何があった」


身を乗り出すようにして問うと、ハンスの声が静かに、だが重々しく続く。


『人間界と魔界を安全に繋ぐゲートの開発を進めていた矢先、突然――人間界の各地から、魔界へのゲートが複数、無断で開き始めたのです』


「なに……!?」


オルトの表情が険しくなる。


「鏡の森以外のゲートは、すべて封じたはずだ……!」


『ええ。ですから、おそらく今回のゲートは、魔界側からではなく、人間界側から強引に開かれていると考えられます。そしてそこから――魔人化した人間と思われるもの達が入り込み始めたのです』


「なんだと……!?」


オルトは思わず拳を握りしめ、声を荒げた。


『幸い、現時点では数は多くなく、こちらの防衛線で何とか抑え込んでいます。しかし、もしこれが大規模な侵攻の序章であれば……民が危険に晒されるのも時間の問題かと』


ハンスの声には、悔しさと焦りが滲んでいた。


「タルールのやつ……ッ!なんてことを……!」


オルトは奥歯を噛みしめながら呟いた。


『タルール……? まさか、接触したのですか?』


「ああ……あいつは人間を魔人に変える“飴”を量産していた。さらに、人間と魔人の融合体――新たな生物を創り出す研究も進めているようだった」


『……そちらも、深刻ですね』


しばらく沈黙が流れたあと、ハンスの声が再び静かに響く。


『ですが……ご安心を。我々が、あなたの築いた魔界を守り抜きます。どうか、そちらの任務に集中してください』


「……すまない、ハンス。今はお前たちに託すしかない。民を、頼む」


『はい、魔王様』


通信が途切れると同時に、ブレスレットの光がふっと消えた。


オルトはしばらく無言のまま、眉間に皺を寄せていたが、やがて何か思ったのか静かに立ち上がり部屋を出た。


◇◇◇


オルトが向かった先はハルの部屋だった。


コンコン


オルトがノックするが反応がない。オルトはそっと扉を開けた。


ガチャ


ハルはベッドの端に腰を下ろし、両手を組んで額を当てたまま、じっと俯いていた。しかし、オルトが部屋に入ってきたことが分かると、静かに顔を上げ、ぽつりと呟いた。


「師匠……」


「お前……顔がすごいことになってるぞ?」


疲れきった様子のハルの顔を見て、オルトは冗談めかして言いながら部屋に入る。


「そこに座ってください」


ハルは椅子を引き、オルトにすすめると、再びベッドに腰を下ろした。


「師匠……俺、昔の記憶がほとんど曖昧で……」


「……ああ、そう言ってたな」


「でも、……あの二人だけは、俺の中で間違いなく“親”だったと思うんです。どんなに断片的でも……あの人たちの温もりは、とても温かかった...」


ハルは手を震わせながら語る。


「それでいいじゃねえか」


オルトの声は、とても穏やかだった。


「え……?」


ハルが目を見開く。


「だからさ。お前の両親は、その二人だ。それで十分だろ?」


「でも……俺を産んだのは、たぶん――」


「ああ、産んでくれたことには感謝する。でもな、血の色だけで捨てるような親のことなんか、俺は絶対に許せねぇ」


オルトは真剣な瞳で言った。


「.......」


ハルはオルトの瞳をじっと見つめた。


「それに、お前には俺が居るだろ?」


オルトがニッと笑いながらハルの頭をくしゃくしゃっと撫でた。


「……そうですね」


ハルもつられて笑い、少しだけ潤んだ目を伏せた。


「……師匠」


「ん?どうした?」


オルトが優しい声で返事をする。


「俺の傍にずっと居てくれますか?」


ハルは震える声でそう呟いた。


「.......」


オルトは少し黙り、考え込んだがそっと口を開いた。


「お前が、望む限りずっとそばに居てやるよ」


そう言って、そっとハルの隣に座って肩を組んだ。


「...ありがとうございます」


ハルはオルトの肩に頭を寄せて目を閉じ、しばらく休んでいた。


コンコン


ガチャッ


「ハルさーん!お夕食の時間らしいですよー……あ!オルトさんもいたんですね!」


ハンナが無邪気に扉を開けた。


「お、おうっ!?ハンナ!? 今行くからちょっと待ってろ!」


とっさにオルトはハルを突き飛ばす。その勢いでハルはベッドへ倒れ込んだ。


「……ハルさん、どうかしたんですか?」


「だっ、大丈夫だって!ちょっとふざけてただけだから!ほら、先に行ってろ!」


「?はい、わかりました~」


ハンナは不思議そうにしつつも扉を閉めて出ていった。


「……師匠、そんなに強く押さなくてもいいじゃないですか……」


ベッドの上から、ハルがむくれたように言う。


「仕方ねぇだろ。急に入ってきたんだから……」


オルトはため息をつき、ハルの頭を軽く撫でた。


「……さ、行くぞ。冷める前にな」


「はいっ」


二人は並んで部屋を出て、食堂へと向かっていった。

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