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【BL】魔王様の散歩道  作者: のはな
第2章 ミンゼル街と謎の魔物
12/60

12.仮面の魔人オルグール、宣言す

――どこかの国の不気味な地下から


ザッ、ザッ……ザァッ……


何かを引きずる音が、薄暗い部屋の床を這うように響く。


部屋の中には、奇妙で無機質な機械がずらりと並んでいた。

金属音、電子音、かすかな蒸気の音――まるで生命を持ったかのように、装置たちは静かに脈打っていた。


「……ちっ、また失敗か」


その声は、部屋の隅。

後頭部が不自然に膨らんだ白衣の男が、モニターを睨みつけながらパソコンのキーをカチカチと叩いていた。


――バタン。


重たい扉が開き、小さな影が部屋に入ってきた。


少年だった。


年の頃は10歳前後。

だが、その細い腕には、自分の体の倍はあろうかという何かを――

無造作に引きずっていた。


それは……形を失った“肉塊”。


「先生。今回も、耐えられなかったようです」


無表情に、淡々と報告する。


白衣の男――“先生”と呼ばれた男は、一瞥もくれず、モニターから目を離さずに答えた。


「……そうみたいだな。

その肉塊は、お前のペットの魔獣にくれてやれ。ちょうど餌が切れてたろう?」


「了解です」


少年は感情の欠片もなく答え、再び肉をずるずると引きずりながら、部屋の奥へと消えていった。


◆◆◆


――そして、舞台はミンゼル街に戻る。


夕陽がゆっくりと傾き、街に長い影を落としていた。


赤く染まる空の下、ミンゼルの中央通り――その一角にある古びた本屋の屋上。


そこに、3つの影が静かに佇んでいた。


オルト、ハル、そしてエリーナ。


眼下には、まだ混乱と不安を引きずる街の風景と、徐々に増えつつある兵士たちの動き。


まるで、何かが起ころうとしていることを予感するかのように、空気がぴんと張りつめていた。


「……師匠、本当に……こんな作戦でいいのでしょうか」


静けさを破るように、ハルが声を落として尋ねる。


その瞳は、不安と覚悟、そして信頼が入り混じった複雑な色を湛えていた。



「大丈夫だって。俺に任せとけって!」


オルトはいつものように、どこか軽く、頼りなく笑ってみせた。


ハルは苦笑しながら、視線をそらす。


「……まあ、何が起きても……俺は師匠について行くだけですから」


その声は、小さく、風にかき消されるほどのものだった。


「ん? 今、何か言ったか?」


オルトがちらりと振り向く。


「いえ、何でもありません。それじゃあ、俺は定位置に着きます」


ハルはそう言うと、足早にその場を離れた。


屋上に残されたのは、オルトとエリーナ。


少女は不安げに彼を見上げる。


「ねぇ……本当に、大丈夫なの?」


その問いに、オルトはゆっくりと彼女の方を向いた。


「大丈夫だ。絶対にな」


赤い目が、優しく光る。


「もし何か問題が起きたら、お前だけでも自由にしてやる。だから――安心しな」


その言葉に、エリーナはぎゅっと胸元を握りしめて、ただ黙って頷いた。


そして――


オルトは高台から、静かに合図を送った。


その瞬間――


ドォン!!


大地が唸るような音が街を貫いた。


直後、ミンゼル街の各所から黒い霧が立ち昇り、

グォォォォォ……!

という、あの咆哮――かつて街を襲った“魔物”と同じものが響き渡った。


人々のざわめきが、一気に悲鳴に変わる。


「ハルのやつ、さすがだな」


オルトはひとり、口元を緩めて呟いた。


彼の隣では、エリーナが驚きに目を見開いていた。


「行くぞ」


オルトは言い、少女の手をとって走り出す。


目指すは、ミンゼル街の中央――大広間にそびえる時計塔。


そこは、避難する人々や各国の兵士たちが自然と集まり、混乱の渦の中心と化していた。


怒号、悲鳴、武器を構える音――


その中には、先日対峙したイゼルディア王国《魔法騎士部隊》の姿もあった。


オルトは、ハルが作ってくれた黒い目元だけを覆う仮面をゆっくりと顔にかぶせた。


不敵な笑みを浮かべたまま、エリーナを伴ってミンゼル街中央――大広場を見下ろす時計塔の最上階に立った。


その場に集まる群衆、兵士、商人、そして――《魔法騎士部隊》。


風が吹き抜ける中、オルトは堂々と叫んだ。


「イゼルディア王国の兵士たちに告ぐ――

聖教国第十三王女、エリーナ・クリスタルは、俺が預かった!!」


その声が広場中に響き渡った瞬間、

人々の動きが止まり、ざわめきが波のように広がっていった。


その中――


「貴様ッ!!何者だ!!」


叫んだのは、《魔法騎士部隊》隊長・ガルディア。


彼は眉間に深い皺を刻み、怒りに満ちた声で吠えた。


「はっはっはっ、俺は魔人オルっじゃなくて、オルグールだ!!」


「なっ!魔人!?どういう事だっ」


オルトの言葉で混乱する兵士たち。


「魔人...オルグール!!その手を今すぐ離せ! でなければ……地獄を見るぞ!!」


ガルディアが叫ぶ。


だが――


オルトは仮面越しにガルディアを見下ろし、まったく怯える様子もなく、むしろ愉快そうに笑っていた。


「地獄ねぇ。ちょうどいい」


そして――


「俺はこの街――いや、イゼルディア王国と聖教国オルダナのくだらない紛争を早く終わらせてやろうと思ってな」


風に乗せて、オルトは声を響かせる。


「魔力飴を、ばらまいてやった!」


....


先程まで騒がしかった広場が静かになった。


そして、そばかすの兵士ティルが口を開いた。


「魔力飴……? それは一体なんなんですか!!」


広場の下から、どこかの国の兵士が声を張り上げた。

その声には、怒りではなく――戸惑いが混ざっていた。


(人間界にはまだ“魔力飴”の存在が広く知られていないのか?)


仮面越しに、オルトは冷静に状況を測る。


その表情とは裏腹に――彼は、狂気じみた笑みを浮かべた。


「はははははっ!!!」

高らかな笑い声が、街全体に響き渡る。


「昨日の――あの“化け物”どもを見ただろう!?

あれはな……魔力飴を食べた人間の“なれの果て”だ!!」


「なんだと……?」


ガルディアが眉間に皺を寄せ呟く。


「ふっふっふ……その飴を食えば、お前たちも同じようになれる。力が欲しいか? 魔法が欲しいか? だったら食えよ!!」


その瞬間――


「た、たすけて!!」


エリーナが叫んだ。


その声は――

芝居のはずなのだが本気で怯えているように聞こえる。


民衆は、どよめき、ざわめき、動揺する。


そして――


ドォン!!

グォォォォォ!!


街のあちこちで爆音と魔物の咆哮が、再び木霊した。


誰かの叫び声、剣を抜く音、逃げ惑う民衆の足音。


ミンゼル街は今――完全な混沌の中に投げ込まれた。

夜の帳が下り、街は黒い霧に包まれていた。


視界はほとんど利かず――

どこに“魔物”がいるのかも分からない、張り詰めた静寂の中――


「何が目的だ!!」


ガルディアが、怒号とともに叫んだ。


その声は、霧の中へと空しく響き――


その返答は、上空から――仮面の男の低い声だった。


「……そうだな」


時計塔の上、赤い瞳が鋭く光を放つ。


「お前たち、イゼルディア王国とオルダナ聖教国が――その無意味な紛争をやめたなら」


一拍置き、口元を歪めるように笑った。


「魔力飴をばらまくのを、やめてやってもいいぞ?」


「な……なにを言っている……っ!?」


ガルディアの額に、青筋が浮かぶ。


「まぁ、どうせ無理だろうけどな」


「せいぜい……自分が“化け物”にならないように、気をつけることだ」


――その瞬間。


ズオオォォォ――ン……!!


ミンゼル街の広場中央――

その上空に、突如として巨大な赤黒い魔法陣が現れた。


地を這うような不気味な低音が鳴り響き、空気そのものが震える。


そして――


「さらばだ、愚かな人間ども!!」


オルトの声が、広場中に高らかに響き渡る。

叫ぶと同時に、彼は隣にいたエリーナの手を素早く取った。


次の瞬間、魔法陣がゆっくりと回転しながら二人に向かって降下する。


光が弾け――


二人の姿は、音もなく、跡形もなく掻き消えた。


魔法陣は残光だけを残して、夜の霧に溶けていった。


その瞬間――


スゥ……


街を覆っていた霧が、嘘のように消えた。


グォォォォ――という魔物の咆哮も、ピタリと止まる。


ミンゼル街の中央広場に残されたのは、混乱と沈黙。


イゼルディア王国の兵士たち、そして他国の使節たちは、顔を見合わせ――すぐに動き出した。


「この情報を……王へ伝えねば!」


「魔力飴……魔人の男オルグール……そして、王女エリーナが……」


人々は散り、国々はざわめき始めた。



オルトの活躍により、イゼルディア王国と聖教国オルダナの間に続いていた紛争は、一時的な停戦へと導かれた。そして同時に、“魔力飴”という危険な品が出回っている事実も、各国の知るところとなった。



◇◇◇


一方――

オルトとエリーナ。

彼らの姿は、静かな森の中にあった。


「……ここは、どこだ?」


オルトは周囲を見回しながら、呆れたように呟いた。


「派手にやりすぎたな……魔力のコントロールが上手くいかなかったみたいだ」


彼の言葉に、隣にいたエリーナが目を見開いて答える。


「ここは――」


彼女は森の奥に見える白い石造りの塔を指差した。


「聖教国オルダナの、女神アチアル様を祀る山……アチアル山の麓よ」


ピコン、ピコン――


静寂に包まれた森の中。

オルトの右手の人差し指に着けている、青い魔法石を埋め込んだ指輪が小さく点滅し、音を発した。


「……ん?」


指輪に指を添えると、微かに揺れる魔力の振動とともに――懐かしい声が聞こえた。


『師匠! 今、どこにいるんですか?』


「おお、ハル! いや、その、ちょっと予定外でな……」


『またですか……』


「いや今回は派手に演出しすぎたせいで……なぜか聖教国オルダナのアチアル?山の麓に着いちまったんだよ」


『……はぁ……なにやってるんですか、本当に』


呆れ半分、安堵半分の声。


オルトは苦笑しながら、軽く肩をすくめた。


「でもまあ、おかげさまで作戦はうまくいったぞ!

お前の“幻魔の札”、効いたなぁ~! 流石俺の弟子!」


『……それは良かったです。』


少し照れたような口調。


『俺もそちらに向かいます。ただ――こちらで今、移動魔法を使うと“ややこしいこと”になりそうなので、徒歩で向かいます』


「おう、そっちも気をつけろよ。

見つかったら厄介だ。俺はエリーナと一緒に、もう少し山の奥に避難しておく」


『了解です。到着まで時間はかかりますが、必ず行きますので』


通信が切れる直前――


『……本当に、無事でよかったです。』


その一言に、オルトの仮面の下の口元が、ふっと緩んだ。


「へっ、俺がそう簡単にくたばるかよ...」

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