情が湧かないのは私のせいでしょうか
「ごめんな、ルナ。必ず埋め合わせするから」
「いえ、大丈夫です。それより早く帰って差し上げないと」
「うん、本当にごめん!!!」
馬車で帰る婚約者を見送る。
何度目かわからないため息をついた。
「これで何回目?」
「十二回目です」
「多すぎよねぇ…」
「多すぎですね」
彼には義姉がいる。
両親の再婚で最近義姉弟となった二人だが、どうにも婚約者のいないらしい義姉の方は彼に横恋慕しているらしい。
一応貴族の生まれなのだから、デートの邪魔をしたところで彼の婚約者に自分がなれるわけではないとわかるはずなのだが…毎回邪魔される。
どうも彼の義姉はあまり身体が強くないらしく、それをダシに彼を私から引き離そうとする。
そんなことが続くので、そして彼は何故かそんな義姉を私とのデートより優先するので、彼に対する気持ちがすっかりと冷めてしまった。
「なんだかもう疲れてしまったわ」
「お嬢様…」
「疲れすぎて逆になにも感じないかも」
「お嬢様…なんてお労しい…!!!」
「理解ある婚約者のフリをして、嫌なことも嫌と言えなかった私も悪いんだけど…お義姉様も彼もちょっと行き過ぎよね」
今では情すら湧かないのは、もちろんなにも言えない私のせいでもあるが…彼らも少しは悪いのではなかろうか。
ただ、侍女は私の味方をしてくれるし励ましたり慰めたりしてくれる。
私の家族も私の味方で、彼の両親に苦情をいれてくれたりもしている。だからマシだ。
そんな風に過ごして、彼にも彼の義姉にも…そしてなにも言えない自分にも呆れ果てていた時だった。
彼の義姉の婚約が決まった。
「義姉さんの婚約が決まったんだ」
「あら、そうなんですね」
「相手は金持ちの商人で、イケメンだし誠実だしいい人だと思うんだけど…なんか義姉さんは乗り気じゃないんだよな」
「あらまあ」
「でも、これから仲を深めて行ければいいよな!」
彼の義姉はそのままトントン拍子に、金持ちの商人に嫁がされた。
義姉は嫌がっていたらしいが結婚は強行された。
彼の両親が、彼の義姉の行き過ぎた行動を再三咎めても改善しなかったのが理由だった。
「結局義姉さんと義兄さんはあんまり仲を深められてないようだったけど…義姉さん大丈夫かな」
「でも、お相手は誠実で優しいイケメンなのでしょう?お金持ちの商人なら金銭的にも恵まれますし、心配ないのでは?」
「そうかなぁ…そうだよな!義姉さんは美人だし義兄さんから大切にされてるし、大丈夫だよな!」
「お義姉様の方から歩み寄ることができれば問題ないと思いますよ」
「だよな!」
私と彼もその後間を空けてから、後に続くように結婚した。
「大切にするからな」
「ありがとうございます」
義姉が嫁いだ後は、彼は私を本当に大切にしてくれている。
義姉が来る前のように。
けれど、私はその後もやはり彼に情が湧かない。
一方で義姉は義兄と上手くいっている…ようには見えるがそれは表向きで、実質は彼女を偏愛する義兄にガチガチに縛り付けられて束縛されているらしい。
子供もいるから逃げられないようだ。
「義姉さんも幸せそうでなによりだな」
「そうですね」
「俺たちも幸せだな」
「…そうですね」
彼に対してもう情は湧かなくなってしまった私。
けれど安定した環境で、生温い幸せには浸っていた。
それは他でもない彼のおかげ。
子供が生まれて、子供達が育って、そして爵位を継いでくれて。
子供達は全員愛おしいし、子供達も愛情を返してくれる。そして全員自立して、幸せに暮らしてくれている。
「子供達も自立して、本当に穏やかな日々だなぁ」
「そうですねぇ」
それだけの年月が経っても、やはり彼にだけは情が湧かない。
彼の両親にすら情はあったというのに。
ここまできて、それでも情が湧かないのは私のせいでしょうか。
心の中で誰にともなく聞いたところで、返事など返ってくるはずもなかった。
それでもなんとか今まで取り繕ってきたが、もう限界だ。私は彼に伝えた。
「あのね、あなた。ずっと伝えたかったことがあるの」
「んー?」
「私、あなたのことを愛せないみたい」
彼は驚く様子もなく、頷いた。
「なんとなく気付いてたよ。義姉さんのことがずっと蟠りになってるんだよな?」
「…ええ」
「ごめんな、俺のせいで思いつめさせて」
彼は何十年越しに、きちんと謝罪してくれた。
それから少しずつ糸が解けるように仲を修復した。
表向きはおしどり夫婦だったが、深いところでは気持ちを結べなかった私たち。
まだ思うところはあるけれど、これからそれらも改善していけたらと思う。
…それでもやはり、彼と情を結ぶにはまだまだ時間がかかると思う。
「でも、前進したわよね」
なんだかんだで、仲を深めようと思えたのは紛れもなく前進だ。
謝ってくれるのがだいぶ遅かったなとか、そもそもこちらも気持ちを話すのがだいぶ遅かったなとか後悔はあるけれど。
それに、私の人生は彼だけではない。
彼のおかげで出会えた愛する子供達もいるし、お友達もいるし、趣味もある。
まだまだ人生は捨てたものじゃない。
「君は最近編み物にハマっているらしいな」
「ええ。あなたにも手編みの手袋を作っていますから、完成も冬もまだまだ先だけれどいつかつけてね」
「俺に作ってくれたの?ありがとう、嬉しい」
こういう穏やかな些細な日常が、これからも続けばいいなと思う。
こんな日々をくれるこの人だから、いつかまた心から愛せる日がきたら…それもまた幸せじゃないかと思うのだ。
神の子扱いされている優しい義兄に気を遣ってたら、なんか執着されていました
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あと
【連載版】侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
ちょっと歪んだ性格の領主様が子供を拾った結果
ショタっ子大好きな私が公爵令嬢に生まれ変わったので、ショタっ子の楽園のような孤児院を設立します。…え、淑女の中の淑女?だれが?
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