高梨 未来
私高梨未来は普通の女の子だった。ちょっと家は有名な剣術家の出で、周りからの期待が大きかった普通の女の子だ。しかし、そんな平和も長くは続かなかった。
結論から言うと高梨未来はゼーラにとって重要な存在だ。
高梨はギフトと呼ばれる能力を授かっていた。その能力は未来視。その力が発覚した直後にゼーラ達に否。ゼーラ含む4使徒に狙われることになった。そして、4使徒を束ねるのが、バラスという魔人だ。
結果、家族は皆殺しにされた。浸透流は失われた流派として幻になった。そして、使徒が一人、クレスの庇護下に置かれることになったのだ。
もっともそこでは想像していたような酷い扱いを受けることはなかった。たまに未来視の能力で助言を与えていれば良かった。学校にも通わさせてもらった。高梨はクレスに対して、感謝に近い形で、想いを寄せるようにさえなっていた。
しかし、高梨をまた残酷な運命が襲う。クレスが死ぬ未来が見えたのだ。高梨は必死に考えた。ありのまま見た未来を伝えるべきか。そこで選択する。
高梨はクレスにこのままでは身が危ないということを伝えた。使徒といえど、不死身というわけではない。高梨はそう考えていた。後がなさそうな行動をしているように見えていたのだ。
補足すると、使徒は限りなく人間に近い存在だ。高梨の話を聞いてクレスは何かを悟ったような顔をしていた。そして、高梨を英蘭に送り込む手続きをした。高梨は半生をクレスに育てられたのだ。親代わりみたいな存在だ。
しかし、まもなくして、クレスは死んだ。他の使徒に殺されたのだ。高梨は落ち着いた性格のせいか、敵討ちなどと考えることはできなかった。あれだけ、強かったクレスを殺した奴だ。憎いが勝てる気はしなかった。
だが、高梨は気づいていた。誰が殺したのかを。それこそが他ならぬゼーラだったのだ。
進が高梨の護衛についてしばらくが経ったころ、遂にゼーラが動いた。高梨は学校の寮に住んでいるが、進もそうだ。
外出の時を狙われたのだ。
高梨が足音を耳で拾う。「つけられてるわ進。」
「ああそのようだ。」
二人は何気ないふりをして人気のないところまで歩いた。
すると進は「何者だ!出てこい!」と叫んだ。
そうすると、二つの見覚えのある姿が。
「うふふ。坊や。また会ったわね。」
「どうやら今回は戦わざるをえないようですね。」
赤髪の女と中年だ。
進は尋ねる。「今回はどういう風の吹き回しだ?」
「なーにちょっとそっちの女の子に用があるだけよ。」
「素直に引き渡してはくれませんかねえ。」
「進。やばいと思ったら逃げなさい。この二人相当な手練れよ。」
「高梨を見捨てて?それは出来ない相談だ。理事長にどやされる。」
高梨はそれを聞いて微笑し、剣を構えた。進も準備は出来ている。
先手を取ったのは、赤髪だ。
赤髪は鞭を胸から引っ張り出し、その鞭は電気を纏いはじめたようだ。そして、それは二人を襲った。
「高梨。君は男のほうを頼む。俺はあの女をなんとかするよ。大丈夫そうか?」
「わかったわ。」
二人は女の攻撃を躱しながらどちらの敵を相手にするか決めた。
「では、私もいきますか。」と中年が刀をどこかからか取り出した。恐らく転移魔術の応用だと思われる。
「刀には刀を、ね?」と中年は怪しい笑みを浮かべる。
高梨はもう男に斬りかかっていた。
進の方は敵の鞭をサンダーソードで鞭を捌いていた。
「あら。あなた無詠唱で魔術を使えるとみたわ。これは生かして捕まえるのは無理そうね。殺すしかないわ。」
「お前に殺されるような俺ではないさ。」
「あら。言うわね。坊や。じゃ、遠慮なくいくわよ。」
進は高梨のほうにも注意を向けながら、少し本気で戦うことにした。それほど、相手の纏う闘気が禍々しかったのだ。
進は闘気を5倍に練り上げた。
「まあ。すばらしいわ。」女はいやらしい目つきで進をなめるように見た。
進は赤髪の女に襲い掛かる。「サンダーソード、ダブル!」
そして、踏み込む。「剣鬼流壱の型虎の爪!」
女は後ろに飛ぶが腹を掠めた。
「痛いわ。坊や怖ーい。」
「抜かせ。並みの使い手なら今ので大抵勝負は決まる。」
「坊やは面白い流派を使うのね。三大流派の抜刀流、真剣流、邪剣流、ここらあたりが基本のはずよね。何ならむしろ浸透流よりもその使い手と出会ったことはないわよ。」
「これは、師匠から教わった流派だ。免許皆伝のあの人には遠く及ばん。」
「あらそれはそれで気になるわね。まあいいわ。あなたも結構やるみたいだし、楽しませてよね!」
女の鞭が形状変化し一本の剣となった。
「私、抜刀流には心得があるの。まあ師範は私が殺したんだけどね。」
それを聞いた進の雰囲気が変わる。
「そうか。お前が剣次さんをやったのか。あの人にも小さいころ少し剣を教わってな。俺がお前をここで打ち倒そう。」
「殺気が漏れてるわよ。」
「構わん。お前程度相手ではな。」
「あら。少しイラっときたわ。お姉さんの好みの純粋そうな子だと思ってみればこれよ。惨殺してあげるわ。後悔なさい!」
「抜刀流二の型つむじ風!」
「剣鬼流八の型閃光斬り!」
一方で高梨の方は苦戦を強いられていた。
進の方はすさまじい剣戟を繰り広げているが、それでも進が優勢に見えた。
しかし、私はどうだ。この中年に一撃入れることはできたが、かすり傷のようだ。対するあちらは私に三度斬撃を喰らわせている。そのうちの一つは左の太ももに大きく届いてしまった。
それに、相手はまだ余裕そうだ。加えて隠し玉をまだ持っていそうな雰囲気さえある。私に敵う相手ではない。時間を稼がないと。
「しかし、あちらの男かなりやるようですな。クーナがあそこまで遅れを取るとは、私とクーナでは私のほうが戦闘で劣りますゆえ。なおね。」
さすが進というべきか。瞬時に相手の強さを見極めての振り分けだったというわけだ。せめて、二人無事に帰りたいところだ。
「まあ。私たちの狙いはあなたの方です。殺しはしませんが、覚悟はしてもらいますよ。」
「あなた達は使徒の使いって感じね。一体どいつなんだか。」
「お答えする義理はありません。では無駄話もこれくらいにして。」
中年は構える。「スー。」吐息が漏れた。
「邪剣流三の型灰塵!」
「浸透流壱の型鬼の横なぎ!」
高梨の攻撃は男の頬を掠めた。しかし。
高梨は右足をやられた。まずい。
そう思った時。
「おや。まさか。」
「その子をもう傷つけるな。」進が怒りの形相でこちらを見つめている。
クーナの方は倒されていたのだ。
「安心しろ。殺してはいない。これでもまだやるか。」
「いいえ。退かせてもらいます。しかしあなたは一体...いえ、こちらとしてもまだお嬢さんを諦めたわけではありません。私たちだけでなく。他の使徒だってやってくるでしょう。」
「構わん。俺が全て斬り捨てる。」
「左様ですか。これ以上の忠告は無粋ですね。」と言うと、中年とクーナは例の魔術で消えた。
「進。」
「何だ?」
「どうしてそこまでして。」
「どうしてか。そうか。俺は死んだ妹と約束したんだ。皆が笑って暮らせる世界にって。」
「それでも。」
「じゃあ。こうしよう。俺と君は友達であり、仲間だ。そして、君は綺麗だと思ったから。」
「なにそれ。」高梨は微笑した。
しかし、恩人でもある進は彼女の目から見て少し格好よく映ったのだった。
進は彼女を未来と呼ぶことになった。本人からの希望だったのだ。激戦の後、治癒魔術を未来に施し、理事長に事の顛末を報告した。
「高梨さん。あなたのことはクレスから任されました。決して見捨てはしないわ。ね、進?」
「はい。俺が付いていますから。」
未来は少し頬を赤らめたが、進は気づかない。
最も、理事長の方はそうではないようだが。
「これから、ゼーラが大規模な戦争を起こすつもりよ。よって、進、高梨さん、金城君以外に迎え撃つ戦力が必要だわ。進。昔の仲間に協力を仰ぎなさい。大丈夫よ。高梨さん。皆、進に近い実力を持っているわ。最も進は最強格の中でも一目置かれていたのよ。」
未来はそれを聞いて、安心したのと同時に進とは何者だろうかと思った。また今度、聞いてみるべきだろうか。
進と未来はアルトと呼ばれる進の古巣に向かうことになった。アルトの存在は軍事機密だが、高梨は元アルトの指導員だった理事長の親身ということで、目隠しなしで基地まで向かうことが出来た。その壮大な行き道で高梨はミリタリーマニアでもないのに唸っていた。
「よう。シン。元気にしてたか。」
「ああ。ライアン。そっちも問題なさそうだな。それに、今は一部隊を任されているんだろ?すごいな。」
声を掛けてきたのは組織最強格のライアン。少年、青年部隊の実質的リーダーだ。
「シン。お帰り。お、例の女の子だね。かわいいー。」
アリスだ。シンが最近まで、近況を聞かされていたのもこのアリスからだ。
「アリスも元気そうだな。」
アリスも女性ながら組織最強格だそうだ。
ケンと呼ばれる彼もそうだ。
「お、シンじゃん。何年ぶりだっけ。もう俺とは3年は会ってないな。」
「ああ。ここを去って以来だからな。お前も変わらないな。」
「まあな。これから高梨さんとお前には俺たちと戦争に備えて、一緒に訓練することになるぜ。」
「ああ、そうだな。レンっていう俺の新しく出来た友だちも後から来る。歓迎してやってくれ。」
「おうよ。」
かくして、合同訓練が始まる。