武道大会
テロ事件から一か月後。学年内で武道大会がもうすぐ行われる。大会はトーナメント式で書くクラス上位5名が他クラスとこれまたトーナメントで模擬戦をする。胸のバッジを皆つけ、破壊されたら敗北となる。
俺はトーナメントで10人のところまで残った。そして、次の相手がそう。高梨だ。
俺は闘技場で高梨と向かい合い一礼し、勝負に臨んだ。高梨は真剣を構える。
俺はすかさず詠唱した。「大いなる雷の精霊よ。我に力を貸したまえ。サンダーソード!」
高梨が先手必勝と言わんばかりに斬りかかってきた。「浸透流二の型ツバメ返し!」
対して俺は剣鬼流の構えを取り、高梨の攻撃をサンダーソードで受け止める。
「魔術と武術の応用だけでも高難度だけど、剣鬼流とはおもしろいわね。」
「いや。失われた流派を扱う君こそ。一体誰に教わったんだか。」
「それを話す必要はないわ。」高梨が急に冷たくなった。
「そうか。こっちも詮索するつもりはない。今度はこっちからいくぞ。」
「剣鬼流伍の型。剣心羅漢!」
対して、高梨は「浸透流六の型かまいたち!」シンの猛烈な突きを高梨は防ぎきれず、片手を持っていかれる。もっともここは仮想空間なので、模擬戦が終わると元の五体満足に戻るが。
それでも痛みは伴うので高梨が怯んだのを見て、シンは畳かける。
「これで仕留める!剣鬼流八の型閃光切り!」
え。確か剣鬼流派は七つの基本の型しか私は知らない。あいつ自分で編み出したっていうの。一体何者なの。
気づいたら高梨は胸のバッジを切られていた。
勝者シン
勝ち上がったのはシン、レン、黒沢杏奈、賀東健一、近藤聖の5人だ。このメンツが他クラスと戦うことになる。ちなみにクラスはHクラスまである。残り40名だ。
シンは順当に勝ち上がった。そして、決勝は5人同時に対戦することになる。バトルロイヤルだ。これで優勝者が決まる。Cクラスのシン、レン、ヒジリ、Aクラスの河野来都、Bクラスの千堂千尋が残った。
シン達が所属するのはCクラスである。三人も残るとは快挙である。レンもさすがといったところか決勝まで残ってきている。そして、模擬戦が始まる。
突然だが、シンの本気が出せない理由を少し説明したい。シンはかつて公安の特別な魔武特殊部隊通称(ALT)アルトに所属していた。そこには魔術と武術の天才たちが集められ、子供でも例外ではなかった。
ある作戦でシンは頭部に絶望的なケガを負ってしまう。シンは天才たちの中でも一目置かれた存在だったがそのケガにより、本来の力をほとんど発揮できていないのが現状である。シンはそれに屈せず、リハビリの結果一日に生命安全装置のリミッターを解除できる時間は約2分まで延ばすことが出来た。それ以上使うと生命が脅かされるのだ。
以上のことよりシンは緊急時以外安易に本気を出せないのだ。最もシン自体本気で戦わなければいけない未来がそう遠くはないことを自覚していた。
ついに決勝だ。なんとか力を温存しながら戦えたのは良かった。といってもレンあたりにそんなことを言ったら怒られそうだが。奴はそんなタイプの人間だ。
さていくか。
レンは河野に攻撃を仕掛け始めた。河野を少し観察すると、何かおかしい。何だあの目は、何か虚ろだ。今はそんなことを気にしても仕方ないかもしれないが、一応マークだ。
俺はサンダーソードを繰り出す。そして、雷魔術を全員に放つことにした。「大いなる雷の精霊よ。今顕現したるその力は大地をも揺るがすであろう!ライトニング!」もちろん。本来は詠唱など不要だが。
全員体が痺れたようだが、矛先が俺に向くのは道理だな。だが、無対策というわけではない。俺は土魔術で闘技場を二分する壁を作った。だがそれが、不味かったらしい。
「何だあの規格外の魔術は!あいつだよ。金城相手に良い勝負したっていうさ。あー!シン君だったよね。本当に強いみたいね。」
少し目立ちすぎたみたいだが、面白そうな顔をしてこちらを見ている奴がいた。そう。俺がスタジアムを隔てた理由はこいつだ。こいつと二人で話したいがためにここまでした。河野だ。なぜかって?こいつは俺が特殊部隊にいた時から散々目の当たりにした一言でいうとやばい目をしているからだ。俺はそれを見逃さなかった。
「お前何者だ。素性を言えば見逃してもいい。」俺は問う。
「そんなバカ正直な者がこの世におりますかいな。なーにちょっと学園の様子を見にきただけですよ。気になる情報が入りましてな。」
「その情報ってのは?」
「なーにちょっとしたことですよ。失われたはずの流派の一人娘が素性を隠し、この学園に潜入しているとか。何が目的なのやら。」というと河野は笑った。恐らく目的の検討もついているのだろう。
だが、俺も無知というわけではなかった。昔ある流派の者がある理由で一族皆殺しにされたというのを耳にしたことがあったからだ。それが、おそらく浸透流、高梨のことだろう。俺と高梨は出会ってまだ日も浅い。
だが、おそらくただでは済まされないだろう。俺は聖人でもないが、クラスメートを見捨てるほど腐ってもいないつもりだ。
「その件から手を引けって言っても退かないだろうな。」
「もちろん。」
新たな戦いの火ぶたが切られた。
こいつはどんなタイプだとうかがっていても攻撃はしてこない。こっちから行くか。俺は「闘気」を練る。
「武神拳!」グッ!攻撃は命中した。敵はうなり声を上げた。
「ほう、闘気さえも操りますか。面白いですねえ。是非とも仲間に勧誘したいところですが...」
「断るさ。お前は危ない目をしているからな。」
「おや。そこまでお分かりとはあなたは一体...」
「しがない武道家にすぎん。」
「ではそのしがない武道家さん。見ていてください。」
すると、見たことのある魔術で俺と河野は転移したようだ。
「仮想空間ではあなたを殺せませんからね。では死んでください!ヒャッハー!!!!」
「死ぬのはお前の方だよ。」久しぶりに本気を出さねばならないようだ。
「リミッター解除!」
俺は闘気をさっきの10倍に練り上げた。
「な、な何ですか!?その闘気の量は人知を越えている!」
「さあ、何でもいいが。お前恐らく、この間のテロ事件に関わっているな?」
目が泳いだ。なら聞く余地もない。「逝け。」
「ライトニングサン」俺は大魔術を闘気に絡ませ、河野いやテロリストに無詠唱でぶち込んだ。
「ぎゃあああああああああ!!!!!!」汚い断末魔とともにテロリストは死んだ。
河野の死体を昔の仲間のアリスに任せることにした。どうやら俺は郊外まで飛ばされたらしい。
学園に戻ると、理事長に経緯を説明した。理事長は俺の理解者であり、この学校の推薦もこの人からもらったようなものだ。
「そういうことなら。あなたに高梨さんの護衛は任せるわ。」
俺は渋々承諾した。俺はこの人には世話になっている。無下には出来ない。
大会のほうはレンが優勝、千堂が二位、ヒジリが三位、俺は四位、河野は音信不通になり、退学となったということにされた。
骨が折れたのは、俺がどこに飛んだのかという説明だが、学校側の転移実験の失敗ということにしてくれた。河野のことも説明が難しかったが河野は数日後に事故で亡くなったと処理された。
そして、高梨の護衛に就くと彼女に知らせたら、何かを悟ったのか了承してくれた。
レンは俺と高梨の事情を話すと、「てっきり付き合い始めたのかと思ってたぜ。」
高梨はどうでもよさげに反応する。「そんなことはないわ。この人はただの護衛よ。あんまり、金城も私に関わると危ないかもしれないわよ。」
レンは相変わらずだなと苦笑する。レンはこのことを口外しないと言ってくれた。あと、二人でいることが増えるうえに詮索が面倒なので、付き合ってるという設定にするといったらあっさり了承された。
「もうすぐ、あと少しであの方がお目ざめになりますね。」
「ええ。楽しみね。人類が苦痛に満ちるなんて考えただけでイッちゃいそう。」
「呼んだかえ?わらわは今しがた目覚めたぞ。」
「はは!我が主よ。遂にお目覚めになられたのですね。」中年がこの時を待っていたと言わんばかりという表情をしている。
赤紙の女がニタっと笑う。「お目覚めですね。ゼーラ様。うれしゅうございますわ。」
「二人とも。大儀であったぞ。わらわはこうして、無事目覚めた。さてさっそく日本政府の返事を聞きにいくとするかの。」
日本政府領事館にゼーラと呼ばれる女が従者とともに参ったようだ。
ゼーラの要求は一つ日本帝国を作り、ゼーラを皇帝にせよといものだった。もう一つはギフトと呼ばれる異能を持たない非能力者の粛清である。ここでいうギフトとはシンのアンチマジックなどが該当する。
ゼーラと日本政府の交渉は決裂した。ゆえにこれから大規模な日本を巻き込む紛争が起こることになるのだった。
そして、高梨 未来の過去に何があったのか。昨今のテロ事件とどういう繋がりをもたらすのか。