英蘭学園
俺こと万道進はここ喧嘩...こほん...魔術と武術の聖地である英蘭学園に入学することになった。とある事情で推薦入学となったのだ。そんな俺が武道の頂点を目指すことになることは少し先の話だ。
俺はこの春に高校生になるのだ。俺は期待と希望を胸に入学式に臨んだ。かわいい子とかいればいいなあ。
「新入生の皆さん!」おっと生徒会長らしき人の挨拶が始まった。
「ここ英蘭は武道家たちの憧れであり、歴史も長くまさに切磋琢磨しあえる環境ができております。互いを尊重しあい、充実した学園生活を送っていただくことを心より望んでおります。生徒会長の獄寺ゆうでした。」
そんなこんなで入学式が終わると割り振られたクラスメートとのご対面である。一体どんな奴らなんだろう。
教室に入ってみるとそこはまあ割と普通の高校生の集まりに見えた。少し目を引いたのは美形の女の子が一人見かけられたくらいか。全員で40名。なんの変哲もない今のところは。
そこに一人の女性がやってくる。おそらく担任だろう。
「はい!皆さん注目!はじめまして。このクラスの担任になる金田理恵です。よろしくね。好物はトマトで犬を二匹飼ってます。」
背の高いすらっとした先生だ。
「さっそくですが明日模擬戦をすることになります。皆さん持ち前の力を存分に発揮してくださいね。優秀者は一週間後のペーパーテストに加点するやもしれません。心して準備するように。」
さっそく模擬戦をやるのか。さすが武道の名門校といったところか。
「模擬戦はひとまずこのクラス内で割り振ります。ここに書いてあるとおりの組み合わせです。」と金田先生が紙を出した。
そして、担任の挨拶が終わり、模擬戦の相手を確認する。
「金城 蓮」(きんじょう れん)
金城か。一応挨拶しとこうかと思っていたらあっちのほうから声がかかった。
「金城 蓮だ。レンでいいぜ。明日の模擬戦よろしくな。」
「ああ。よろしく俺は万道 進っていうんだ。こちらからもよろしく。俺も進でいいよ。」
対戦者の挨拶も済んだし、今日のところは帰るか。
次の日
さっそく模擬戦が始まった。模擬戦は仮想空間通称「バトルシステム」の中で行われる。そこは仮想区間なので痛みはリンクしているが命を落とすことはない。思いっきり戦うための場所だ。
俺は雷を扱うのが得意で武術のほうも心得はある。後はあっちが何ができるかだが。
俺は小手調べに雷撃をぶちこむ。するとレンは水の壁で俺の雷撃を防いだ。
「おいあれって。」クラスメートの注目がレンに集まる。
「ああ。そうだよな。名門関西魔術中学出身で、全国3位に輝いたあの金城 蓮だ!何でも水魔術が得意だったって聞いたぜ。」
クラスがざわつく。それもそうだ。そして、俺の初カードは思った以上に大物を引いていたらしい。だが俺は本気を出すつもりはない。いや、出せないといったほうが正しいか。
初歩的な雷撃魔術サンダーを幾度かレンにぶち込むが、さすが中学で全国3位を取った男だ。まるで意味をなさないようだ。
そしてレンの攻撃だが、どうやら詠唱が始まった。水の壁を作って俺の魔術を防ぎながらそれは来た。
「大いなる水の精霊ウンディーネよ。我に力を貸したまえ。ウォーターブレイク!」俺は身構えて攻撃をなんとか雷撃でかき消した。おそらく周りにはそう映っただろう。
しかし、実際のところはそうではない。これは俺の持つ能力の一つアンチマジックだ。ある程度の魔術並びに闘気といわれる武術化の異能を無効化する。今回はある程度におさまったが人知を越えるものは保証できない。
だが、周りの反応は正直だ。「あいつ。何者だ。金城の魔術をかき消したぞ。いいや、服もボロボロで満身創痍って感じじゃないか。次はないだろう。」とかまあ様々だ。
それに加えてレンのほうからも質問が飛んできた。「今の。何をした。雷撃魔術ではな」
「いや雷撃魔術の応用だよ。水魔術には相性がいいもんでね。」俺はとっさにごまかす。そうあまり口外したくない理由はほかにある。
「それにお前詠唱はどうした?」
「小声ですばやく言ったのさ。強力な魔術だったからな。咄嗟だったし。」
あまり騒ぎになってほしくないからごまかしたが俺は魔術を無詠唱で扱える。普段はわざと詠唱を言ってごまかしてはいるが。無詠唱を魔術を扱えるのは俺が知る限りこの世で俺を含めて3人だけだ。」
「まあいい。これはどうかな。」今度はさっきのより強力なのが来そうだ。
「水の精霊よ。その人知の越えた力を今我に与えたまえ。ダブルウォーターブレード!」
なるほどこいつは結構やるな。魔術と武術の両方を用いるつもりだろう。レンが「闘気」を練り上げる。
それならと俺も少し手の内を明かすか。
「雷の精霊よ。その人知の越えた力を我に与えたまん。サンダーブレード!」
「ほう。お前も魔術と武術両方を扱える口なのか。なら一切容赦はしないぜ。」レンが踏み込んでくる。速いな。
レンのウォーターブレードは俺のサンダーブレードと重なった瞬間すり抜けた。そして、レンのブレードが俺の腹をかすめた。
「やるな。レン。」
「いいや。まだまだ行くぜ!」
レンの猛攻が俺を襲う。そして、制約があるとはいえ、俺はレンを消耗させたが、レンの辛勝である。
「シン君だっけ?強いんだね!あのレン君とあそこまで戦えるなんてすごいよ!」クラスメートの女子には一目置かれたようだ。レンはまだ何かに気づいた様子だったが、だまされたふりをしてくれた。あいつとは仲良くできそうかも。
クラスメートの美人さんだったが、高梨 未来というらしい。俺のほうに視線を感じたので、一瞥するとあっちからも一瞥が返ってきた。
模擬戦から一か月が経ったころ、緊急の知らせが入った。この学校は都心にあるのだが、都内でテロが発生したらしい。公欠扱いにするので、凄腕の武道家たちの手を借りたいと日本政府直々のお達しがきたようだ。
俺のクラスからは俺、レン、高梨の三人が選抜された。クラスメートからは心配はされたもののレン君たちなら大丈夫だよね。むしろ安心して送りだしてくれた。高梨って強いのだろうか。
俺たち三人は護送車で現場に向かう。三人とも防弾ジョッキなどを着込んでテロを鎮める準備は万端だ。
レンは俺たちを安心させようと声をかける。「シン。高梨。大丈夫だ。俺たちならやれる。」
「ああ。そうだな。」
「もちろんよ。」
そして、現場に到着した。
現場となるビルからは火が吹き上げている。俺たちは構わずに突入した。
逃げ遅れた人たちを救助班に任せながら、上階のテロリストたちのもとへ向かう。そして、見張りのテロリストを慎重に無効化しながら、籠城してる部屋に忍び込んだ。
「いいか!お前ら!これは、大日本帝国の礎となる第一歩にすぎん。反逆者どもを殺しても構わん。それが、新しい国の尊き犠牲となるのだ。東京都をひとまず我らのものとするぞ!」
相変わらずテロリストどもは理解の範疇の越えたことをするものだ。とシンは思っているとレンは激高していた。
「これが、日本のためってか。笑わせる。こんなのは政治じゃねえ。国を治める器のない奴らのやり方だ。」
その点に関しては俺も同意した。こんなのは略奪、あるいはただの破壊行為だ。ただ気持ちよくなってる。馬鹿どものオナニーだ。
相変わらず高梨は何も発さない。興味なさげだ。
そして、俺たちは隙をうかがっていた。その時だ。
「うえーん!ママーパパー!」逃げ遅れた子供がいたのだ。高梨は次の瞬間にはもう敵地に踏み込んでいた。霹靂一千。あっという間に敵の多くを切り捨てたのだ。しかし、あの流派はどこかで一度見た覚えがあるな。
すぐさま俺たちも乗り込んだ。レンは子供を安全なところに守りながら誘導し、その間に俺たちがテロリストどもを片付けた。
なんとかミッションを終えて帰路に向かおうとしたところだ。嫌な感じがした。
「気配があるぞ。気をつけろ。」俺は二人に忠告する。
「言われなくても気づいたわ。二人いるわね。」
「気配は感じたが二人とは良くわかったな。高梨。」レンも気づいていたようだ。
「足音が二つあるもの。」フン。と高梨は相変わらずだ。それにしても高梨は耳が良いらしいな。
すると、人影が見えてきた。
「あれれー雇い主に言ったら何て言うかな。この状況。駆けつけた時にはガキどもに殲滅されてたって信じるかな?」謎の女が出てきた。
「まあいいでしょう。この程度の兵士なんていてもいなくとも一緒です。」背の高い中年の男も姿を現した。
レンは構える。
「まあ。待ってください。私たちは今あなたたちと争う気はありません。ですが、これだけは政府に伝えておいてください。もうすぐあの方が目を覚まされる。お目覚めした時はあの方の願いを聞いてくだされば結構です。良い返事をお待ちしております。と。」
「待て!お前たちは何者だ!只者ではないことは俺たちには欺けない!」
「ではまたお会いすることになるやもしれません。」中年の男は不敵な笑みを浮かべ、女とともに姿を消した。
「今のって。」高梨がシンに問いかける。
「おそらく、転移魔術だな。それもかなり高位の。」
「あの方ってなんなんだよ。」とレンは中年の言葉を反芻する。
「とにかく。全員無事で帰れそうなことを喜ぶべきよ。」高梨に俺も同意し、その場を後にした。
そして、一か月後英蘭学園の武道大会が行われるのだった。